管理費の長期滞納者の指名公表は可能??

その他,マンションの判例,管理組合関連,管理費・修繕積立金関連

伊東市浮山町の別荘地の分譲業者Sは、別荘地内道路の所有権を留保して一戸建て別荘を販売。町会Xは、Sとの協約書により、町会会長のYの名義で管理事務所を取得して、道路及び街路灯の管理を開始。

別荘所有者等Aは、全員で、別荘地内道路の通行地役権を準共有し、管理事務所・街路灯340本を共有した。Xは、別荘地内の道路の管理・補修、街路灯の設置等の管理業務を行い、必要とする管理費として月額4000円をAから徴収していた。Xは、総会決議に基づき、管理費の滞納者の取り扱いを役員会Zに一任し、Zは、町会会則に基づき、町会会長のYの名義により滞納金額等の公表を行うこと及び納入の意思があれば、公表を控える旨を滞納者に通知した。納入の意思が連絡されなかった滞納者のうち、滞納期間23年以上の者3名、9年~22年間の者6名について、すべてのサービスの停止を知らせるために、ゴミステーション周辺に立て看板を34ヶ所設置した。立て看板には、「管理費長期滞納者一覧表」と題して、別荘の区番・氏名・管理費・未納開始月・滞納期間を表示した。町会会則には、管理費を3年以上滞納し、納入に応じない会員及びその関係者は、Xが行うサービスを受けることができないという定めがあった。

立て看板に掲示された滞納者のうちの7名(以下B)は、Y個人に対して、次の請求の為、訴訟を提起した。①月額4000円の管理費の支払い義務がないことを確認する。②34ケ所の立て看板の撤去を求める。③不法行為に基づく損害賠償請求として100万円の慰謝料及び遅延損害金を求める。④Xは、権利能力無き社団に該当しない為、団地管理組合とはいえない。これに対して、Yは、Bに対して次の通り主張した。①町会会則に基づき、町会会長として管理費の請求を行っている。個人として行っているものではない。②立て看板は、個人としではなく町会会長として設置した。関係者に知らせるためで、不特定多数者に伝播することはなく、公然性はない。③Bには、集会で決議された管理費の支払い義務がある。④Xは、25年間にわたり管理事務所を所有し、権利能力なき社団の要件を満たすものであり、団地管理組合である。

東京地裁は、以下の通り判示した。

立て看板の設置により、不法行為は成立しない。Bの慰謝料請求を棄却する。①Xは、Aが通行地役権を準共有し管理事務所等を共有することから、Aを構成員とする区分所有法65条に定める団地管理組合に該当する。Xは、当然にAを会員とする、団体として組織を備える、多数決の原則を行う、組織における代表の方法・総会の運営・会計等団体としての主要な点が確立しているので権利能力なき社団である。②通行地役権について、Sが分譲区画相互間の往来のために道路を設置しその所有権を留保した場合、Aの通行地役権を黙示的に設定したと解する。分譲区画の別荘建築によって、Aが通行地役権を準共有する。③立て看板の文言及び記載内容は、管理費の滞納の事実及び滞納期間を示したもので、虚偽ではない。ゴミステーションの利用ができないことをA及び関係者に周知させるために、大半をゴミステーションの周辺に設置した。制裁的効果はあるが、不当な目的によるものではない。④立て看板の設置に至る経緯、文言・内容・設置状況、設置の動機・目的、設置手続き等を考慮すると、相当性を欠くが、管理費の支払いを促す正当な管理行為の範囲を著しく逸脱したものとはいえず、名誉を害する不法行為にはならない。立て看板は、平成10年12月3日に、既に撤去されているため、Bの請求は、理由がない。⑤管理費支払債務の存否の確認請求の訴えについては、Xを訴訟当事者としなければならない。Y個人には、訴訟当事者として適格性が無い為、不適法として訴えを却下する。名誉毀損による不法行為に基づく損害賠償請求を棄却する。(出る出る受験判例160選より、抜粋)

      H11/12/24 東京地裁

私見:一般的な単棟型マンションの事例ではないが、準共有や共有で管理組合を構成している考え方は同じで管理費の長期滞納は、単棟型マンションでも起こり得る事例だろう。ただ、標準管理規約の中に滞納者のペナルティとしてゴミステーションのを利用できないなどの定めは無かったように思う。氏名の公表や掲示板への張り出しは各管理組合は、自重しているのが現実だろう。