これから増えるゴーストマンション??
概要
申請の趣旨
裁判所の定める者を下記権利能力なき社団の仮理事長に選任する
記
A管理組合
(事務所所在地)
○○市○区○○町3丁目23番14号A内
但し、建物登記簿上の所在地は
○○市○区○○町3丁目321番地
(仮換地 ○○○駅周辺地区ブロック121符号2)
との裁判を求める。
申請の理由
第一 A管理組合
組合
1 上管理組合(以下単に「管理組合」という)は、申請の趣旨記載の所在地に存在する下記区分所有建物の全区分所有者で構成される団体である。
記
建物の番号 Aマンション
構 造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付11階建
床 面 積 1階
578.52平方メートル
2ないし11階
604.68平方メートル
地下1階
630.00平方メートル
(建物敷地)
○○市○区○○町5丁目124番
923.99平方メートル
2 管理組合は、団体の根本規則である管理規約を有し、これに基づいて総会・役員の機構を備え、管理組合名義の預金口座を備えて、内部的な運営及び対外的取引活動を営んでいるので、いわゆる権利能力なき社団にあたる。
3 Aマンション(以下「本マンション」という)は、昭和49年3月10日に築造された地上11階地下1階のビルで、区分所有権数は車庫部分も含めて202戸である。
地階は駐車場(車庫)になっており、1階部分は管理人事務室・共用ラウンジの外、喫茶店・スナック・食堂・マージャン店が入居する店舗部分、2階以上はいわゆるワンルームで、住居として使用されている部分の外かなりの数がオフィスに使用されている。区分所有者自ら店舗・住居に使用する戸もある(約30戸)が、かなりの部分は投資の対象として賃貸に供されてきた。
JR○○○駅から徒歩数分、地下鉄○○○線○○○駅のすぐそばという立地条件に恵まれ、近年地価上昇の著しい地域である。
4 専有部分の建物の番号(…号室)と家屋番号との対応は、別冊一覧表綴(以下単に「別冊」という)中表1―建物の番号と家屋番号の対応等一覧表―記載のとおりである。
第二 申請人
申請人有限会社Xマンションは、609号室(専有部分の家屋番号321番の33)の区分所有権者、申請人Cは、711号室(専有部分の家屋番号321番の137)の区分所有権者であり、いずれも管理組合の組合員である。
申請人B株式会社は、1120号室の賃借人である。
第三 従前の管理の概要
一 役員
管理規約上、管理組合に、理事長1名、副理事長1名、理事2名を置くこととされている(管理規約第24条)。
しかし、管理組合成立以来昭和61年3月頃までは、役員の選任は行われなかったようで、昭和61年3月頃になってようやく、隣地との建築・境界紛争を契機として初めて、役員選任がなされた。
昭和62年5月当時、
理事長D(809号室の専有部分の区分所有者)の外、副理事長E、理事Fの役員が存在した。
二 管理委託
マンションの管理業務の大半は、管理組合設立当初より、管理会社である株式会社G(○○市○○区○○町4丁目11番17号・代表取締役G1―以下「G」という)に委託してきた。
管理委託料は、昭和62年5月までは月額110万円、同年6月からは月額125万円であった。
三 管理に要する費用の徴収
1 定額管理費及び積立金
管理規約19条に基づき、区分所有者は管理組合に対し、毎月定額の管理費及び積立金を支払うこととされている。この金額は、現在別冊中表2「A新管理費等一覧表」記載のとおりである。上金額は、後記昭和62年5月31日の定期総会において同年4月分からの減額が承認されたものである。
上管理費(積立金を含まない)の総額は、月額2,316,000円、年額27,792,000円であり、これが管理委託費・保守点検費・共用部分の電気料金その他の管理組合の通常経費の財源とされていた。
なお、管理委託費・電気料金以外の固定経費として、エレベーター保守費月額147,500円等、毎月40万円程度が支出されていたようである。
2 電気料金等
① 電気料金
電気の供給契約は、共用部分・専有部分全て管理組合とH電力(○○営業所取扱)との一括契約(但し、H電力との契約当事者は管理会社であるGになっているようである)であり、管理組合の後記銀行口座から一括して引き落とされて、専有部分の電気料金については、検針に従い、管理組合(ないしG)から区分所有者ないし使用者に対し、毎月求償するという関係になっている。
専有部分の電気料金の基本料金は、別冊中表2記載のとおりである。なお、この他に同表記載のとおりの「給湯冷暖房基本料」が徴収されていた。
② 水道料金
水道の供給契約も電気と同様で、○○市水道局(○○営業所)と管理組合が一括契約し、基本料金(上同表のとおり)及び使用量に応じた代金を、管理組合が求償している。
③ ガス料金
ガスの供給契約も同様に、Iガス(○○支社)と管理組合との一括契約である。但し、ガスの使用は、1階の店舗部分のみである。
3 徴収
上管理費・積立金・電気料金等の請求及び徴収は、Gが行っており、毎月管理組合の下記銀行口座に請求金額を入金して支払うものとされていた(実際の支払者は、区分所有者であったり、賃借人等入居者であった、まちまちのようである)。
記
J銀行 ○○○駅前支店
普通預金 口座番号○○○○○○○
A管理組合名義
第四 管理機能の麻痺
一 前記のように、昭和61年3月頃までは、管理組合の役員の選任もなされず、管理業務は挙げてGに委ねられていたように、管理組合は本来期待される機能を果たしていなかった。Gに対する監督も不十分だったようで、管理費等の未収金がかなり多額に発生していたようである。
しかし、役員が選任されて以後は、自治意識も芽生え始め、管理組合による管理の充実が期待されるところであった。
二 業者の買占進行と管理状況の悪化
ところが、その後まもなく、本マンションは特定業者の買占の波にさらされることとなった。
買占は昭和62年初め頃から目立ちだし、空室になった部屋のドアには『管理物件(株)L1』の張り紙が次々に掲示された(検疎甲号証の写真参照)。
区分所有権を譲り受け、あるいは所有権移転の前に明渡を受けた業者側(Gへの入居者登録は「K企画」の名前で行われた)は、自らは一切管理費・積立金・電気料金・水道料金の支払をしなかったので、業者の手に渡る数が増すにつれ、管理組合の財政状況は極度に悪化していった。
三 役員の辞任、管理会社の撤退
1 昭和62年5月31日、管理組合の定期総会が開催された。
このとき報告された財政状況は、昭和62年2月分までの未収金総額5,218,654円という状態であった。
そのような状況の中で、D理事長以下全理事が、後任理事が選任されないまま、役員を辞任してしまった。
2 上総会において、資金不足により管理組合の運営が不可能になった場合には、Gは管理業務を終了させることができるものとされ(なお、同社の管理委託料が月額110万円から125万円に増額されている)、事態は当然悪化の一方をたどったので、昭和62年8月末をもってGは本マンションの管理業務を打ち切った。
同年8月15日現在の未収金総額は金13,574,271円に上り、そのうち入居者が「K企画」となっている全室の未収金総額は、金10,686,295円であった。
これにより、検針をして電気料金・管理費等の請求を行う者がいなくなったので、それまで送付された請求書に従って入金していた区分所有者・入居者も管理費等を納入する者が少なくなり、財政状況悪化に拍車をかけた。また、管理人室は不在となって防犯・防災の上でも大きな問題が生じ、清掃等ビルの維持管理も全く行われない状態に至った。
3 このように、役員の辞任と管理会社の撤退により、本マンションの管理機能は全てストップすることとなった。
第五 買占の実態及び現状
一 現時点の区分所有者の状況
昭和63年2月2日現在の登記簿謄本によれば、区分所有者の状況は次のとおりである。
全区分所有権数 202
① L 105
② M産業株式会社 90
③ N 9
小計 164
④ その他(頭数33人) 38
二 買占の実態
1 買占は主として、「L」名義で進められている。Lは、株式会社L1の取締役であるから、Lの背後に上会社があることは明らかである。
Lへの売買の仲介は、前記「K企画」が行っているようである。「K企画」は、正式には株式会社K企画であり、もともと本マンションの売買・賃貸等の仲介業務に関与していたようであるが、株式会社L1の買収工作に手を貸すようになった。前記のように、Lが取得した室は、明渡を受けた後はほとんど「K企画」が入居したものとされており、室のドアには「管理物件(株)L1」の貼紙がされている。
株式会社L1の意図は、本マンションの全区分所有権を買い占めて、本マンションを取り壊して更地にし、地下上昇著しい本マンションの前記敷地を転売して多大な譲渡益を得ようとするものであること疑いをいれない。
ちなみに、本マンションの敷地は1坪3,000万円は下らないといわれているので、公簿上の約237坪で68億円となる。区分所有権の買収は1,500万円から2,000万円程度で行なわれているようであるから、単純に2,000万円で200戸を買収するとしてかかる費用は40億円であり、28億円の利益が生み出されることになる。
2 M産業株式会社は、昭和62年10月30日付けでLより前記50戸を一括買い受けているので、株式会社L1から直接の転売を予定されているものであると推認される。
M産業株式会社の所有権取得と同時に、O建設株式会社名義で上50戸全部につき所有権移転請求権仮登記及び債権額15億円の抵当権設定登記がされているので、O建設株式会社から本件買収費用のうち15億円が出ていることがわかる。
3 9戸の区分所有権を有するNは、その登記簿上の住所がLの登記簿上の住所と同一であり、上9戸の入居者は全て前記「K企画」とされていることから、株式会社L1の関係者であること明らかである。
4 結局、202戸のうちL・M産業株式会社・N所有の合計164戸(区分所有者の頭数にすれば、36人のうち3人)が、Lグループの手に渡っていることになる。
第六 最近の状況
一 財政状況
1 前記のように、昭和62年2月分までの未収金総額金5,217,654円であったのが、Gが撤退する直前の同年8月15日現在では金13,574,271円に膨らんでいる。
2 昭和62年5月以降の管理費等の入金状況は、別冊中表3―管理組合銀行口座月別入金額・出金額一覧表―の入金欄記載のとおりである。
同年5月には金4,202,827円が徴収されている。しかし、これとて、管理費・積立金・給湯冷暖房基本料の合計が金3,142,600円であり、これに後記のように月額200万円を超える電気・水道・ガスの料金を加えた金額が本来徴収されるべき金額であること及び既に極めて多額の未収金が存在することからすれば、財政状況の極度の悪化が伺える。
そして、同年8月には入金額は、金2,760,486円まで落ち込んでいる。
3 このような中で、支払(出金)はもちろんそれと無関係に発生し、前記表3の出金欄記載のとおりの状況である。
このうち、電気・水道・ガス料金の状況は、別冊中表4―電気・水道・ガス料金一覧表―記載のとおり、毎月250万円ないし400万円の出金となっている。
4 昭和62年5月末日の時点の管理組合の前記銀行口座残高は、金638,857円にすぎなくなった。
そこで、Gは、管理組合の経費の支払に充てるため、次のように積立金を取り崩し、管理組合の前記銀行口座に振り替えた(これは、昭和62年5月31日の総会で、やむをえない場合の措置として承認されていた)。
6月29日 定期預金 金2,001,026円
7月30日 定期預金 金3,060,820円
8月10日 普通預金 金1,251,009円
定期預金 金800,060円
定期預金 金4,233,953円
合計 金11,346,868円
同年5月31日の総会で報告されている積立金の総残高が金10,905,264円であるから、上によって積立金は全額取り崩されたものと思われる。
5 Gが撤退した後の昭和62年9月以降は、請求書を送付する者がいなくなったので、入金状況は極度に悪化している(前記表3参照)。それに伴い、前記銀行の残高も極めて僅少になっていった。
そして、昭和62年10月に支払われるべき電気料金1,729,404円が残高不足で引き落としができず、以後電気料金は管理組合からは支払われていない。
水道料金は昭和62年12月分まで引き落としがなされたが、昭和63年1月分金140,423円が残高不足で支払不能になっている。
昭和62年11月以降は入金が10万円を割っている状況なので、銀行残高が零になる日は遠くない、極めて危機的な状況である。
6 上のH電力に対する昭和62年10月分の未納電気料金は、H電力が契約当事者であるGに請求し、Gが立替払いをしたようである。
また、同年11月分(1,598,659円)、12月分(1,557,077円)は、後記のとおり昭和63年初め、L側が立て替えて、Gの名で支払を完了している。
二 その他の状況
Gが撤退した昭和62年9月以降、管理人室は無人化し、廊下やトイレ等の清掃も行われなくなり、空室が次々に増えていったこともあり、日々ゴーストタウン化が進行している(女性などは、1人でエレベーターに乗るのも怖いという状況である)。
管理人不在のため、防犯・防災上大きな不安があることもあって、本マンションは通常の使用は極めて困難になりつつある。電気・水道の供給がいつ停止されるかわからないという状況の中で、本マンションに入居している店舗・事務所・居住者らは、日々大きな不安を抱えている。
なお、G撤退後は、トイレが詰まった等の問題処理には、第一次的にK企画がGから任せられてあたっているようである(管理人室の鍵もGの外、K企画が所持しているようである)が、十分な対応は到底望めず、入居者が自ら清掃をしたりしている状況である。
三 Lグループの動き
1 昭和62年12月25日、Lの呼び掛けで、本マンション近くのホテルで区分所有者の集まりが持たれた。区分所有者数名の出席があったようだが、L側は、買収を希望していること、集会の趣旨がその挨拶にあることを明言した。
当日GのG1社長も出席し、H電力から昭和62年11月分・12月分の電気代を同年末日までに支払わなければ、電気の供給をストップする旨の文書による送電停止勧告がG宛にあったことを明らかにした。
これを巡って出席した区分所有者から、今日まで多額の管理費等を滞納しているL氏の方が立て替えてでもH電力に払うべきである、管理体制を早期に修復して管理費等の徴収を再開することが急務であり、そのためには現時点の区分所有者が協力して正式な集会を開催し、適正な管理を行える人物を管理者に選任すべきである等の意見が出された。
2 前記のように、上11・12月分未納電気代合計金3,155,736円は、その後昭和63年1月初め、L側が立替払いし、とりあえずH電力による送電停止という最悪の事態は避けることができた。
しかし、L側からの総会開催の動きはなく(L側の協力がなければ少数招集権による総会招集も不可能である)、昭和63年1月分以降は、前記のように電気代に加え水道料金も支払えない状況に至っている。
また、昭和63年1月分の電気代金1,150,918円については、L側も立替払いを拒否しているようである。
第七 仮理事長選任の必要性等
一 以上のように、本マンションは、管理主体を喪失し、また管理に要する資金が底をついて、瀕死の状態である。
その元凶はLグループの不当な方法による買占であるが、上事態を招いた最大の原因は、厳正な管理費等の徴収がなされなかったこと及び管理組合の運営にあたる理事長が存在しなくなってしまったことにある。
特にGが撤退した昭和62年9月以降は、誰も管理費等の徴収に当たるものがいなくなったことは、まさに致命的であった。
二 管理組合の再生のためには、管理費等の徴収に当たる法的正当性のある者の選任が不可欠である。これ以上管理費の徴収をしないまま放置しておけば、遠からず電気・水道等の供給がストップし、本マンションは早晩死亡宣告を受けることになろう。そうなってしまえば、Lグループの思う壺である。
最近大きく報道された○○市○○駅前のPマンション第二○○の例は、電力会社・水道局が供給を停止したことで話題を呼んだ。そうなってしまってからでは手遅れである。
三 上のように、今仮理事長を選任しなければ、管理組合は遅滞のため致命的な損害を被るおそれがある。
なお、権利能力なき社団についても、民法56条を類推して裁判所が仮理事長を選任しうることは、最判昭和55・2・8(判例時報961号64頁)で示されている。
四 申請人らは、本マンションの区分所有者(管理組合の組合員)ないし賃借人として、管理組合の仮理事長選任に重大な利害関係を有することは多言を要しない。
もちろん、従前のような快適なマンションを取り戻すことが、Lグループが区分所有権の大部分を買い占め、そのほとんどが空室になってゴーストタウン寸前の状況の中では、大きな困難が予想されることは、申請人らも承知しているが、このまま本マンションが死滅することになれば、申請人らの権利が侵害されることは明らかであり、Lグループのそのような暴挙は到底容認できないところである。
第八 仮理事長選任の展望
一 予想される支出
1 電気代
昭和62年11・12月分で実績月額約150万円であるが、これは従来の電圧が業務用の6,000Vという高圧であったことも影響していた。これにつき、使用世帯の減少があったため、昭和62年12月20日に、H電力とGの話し合いによると思われるが、電圧縮小の工事が行われた。これによって、基本料金で月額約45万円が節約できるようである。
実際、上電圧縮小の影響が一部現れて、昭和63年1月分の電気代金は1,150,918円となっている(未払い)。
2 水道料金
最近の実績月額約14万円である。
3 ガス料金
月額3、4万円で推移しており、1階店舗部分しか使用者がないので、徴収は比較的容易である。
4 その他
詳細は不明であるが、Gが撤退した後の昭和62年9月分の上以外の支払は、合計166,099円である。
5 したがって、月額約150万円の収入があれば、当面最低限の維持管理ができるものと考えられる。
二 収入面
管理費だけでも、全戸で月額2,316,000円になる。
未収金の総額は前記のように極めて多額に上る。
これを厳正に徴収していけば、長期的にはかなり多額の収入が見込める(L名義の区分所有権は担保物権がなく、差押により間接的にも支払を強制することが可能である。また、M産業株式会社からは、未収金の徴収が比較的スムースに行える可能性がある)。
とはいっても短期的には未収金の大口債務者からの現実の回収は困難も予想されるが、仮理事長による法定の徴収手続・債権保全措置がとられれば、H電力や水道局との交渉も可能になると思われる。
三 いずれにしても、現在早急に仮理事長を選任していただくしか、本マンションが生き残る途はない。
第九 結論
よって、緊急に仮理事長を選任していただきたく、本申請に及んだ次第である。
私見:地価高騰にあるマンション敷地が狙いで地上げ屋の餌食になるマンションの典型であろう。管理会社も仕事をしていないし、組合も管理会社任せで主体性に欠けていた点は猛省すべきでここまで放置されてきた背景は一体なんだったのか首を傾げる。マンション管理士等の専門家をもっと早い段階でアドバイザーに迎え助言を仰ぐべきであったろうと思う。私は、地元の自治体が実施しているマンション管理士派遣事業で築年数が30年を超え、老朽化と高齢化の波に飲まれているマンションにはスラム化、ゴースト化に進む前に管理会社任せから脱却し主体性を持った管理組合に生まれ変わらないとダメですよと助言し、管理組合、管理会社、マンション管理士の三者体制で臨むべきと伝えている。