水道の元栓止めるの、ちょっと待った!!

マンションの判例,管理組合関連

主文

 【主  文】 一 被告らは、各自原告に対し、10万円及びこれに対する被告Y2については平成8年5月26日から、被告Y1管理組合法人については同年6月5日から各完済まで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実と理由 


 第一 被告らは、各自原告に対し、100万円及びこれに対する訴状送達日の翌日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 一 本件は、別紙記載の専有部分の建物(以下「本件建物」という。なお、本件建物を含む1棟の建物全体をいうときは以下「本件マンション」という。)に居住する原告が、被告Y1管理組合法人(以下「被告組合」という。)の理事である被告Y2から水道の元栓を閉められるなどの嫌がらせを受けたと主張して、被告両名に対し慰謝料の支払を求めている事案である。
 二 原告の主張
 1 原告は、昭和61年4月1日から、本件建物をその所有者であったA、Bから順次賃借してそこで家族と共に生活している(甲第3号証、原告本人の供述)。
 2 被告組合は、本件マンションの管理団体が平成5年4月1日建物の区分所有等に関する法律(以下「建物区分所有法」という。)に基づいて法人となったもので、被告Y2は、その設立以後理事に就任してその事務につき法人を代表しているものである(争いがない)。
 3 被告組合は、平成8年3月19日、競売による売却によって本件建物所有権を取得し(争いがない)、これに伴い原告の賃貸人としての地位を承継した。
 4 被告組合の代表者である被告Y2は、その職務を行うにつき、原告に対し次のような嫌がらせをし、これにより原告は精神的苦痛を受けたところ、これを慰謝するのには100万円を下らない(本件争点)。
 よって、原告は、被告組合に対しては建物区分所有法47条7項、民法44条1項に基づき、被告Y2に対しては民法709条に基づき、それぞれ慰謝料100万円とこれに対する不法行為。
 後で各訴状送達日の翌日から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(訴状送達日が、被告Y2につき平成8年5月25日、被告組合につき同年6月4日であることは、本件記録上明らかである。)
  (一) 被告Y2は、平成8年3月6日、原告の妻子が本件マンションのエレベーターに乗ろうとしたところを、手を拡げて立ちはだかり、「あんた、何でエレベーターに乗るんね。管理費も払わんくせに乗りなさんなよ。エレベーターに乗る権利はない。」などと怒鳴って、エレベーターに乗るのを妨害した上、原告の妻子が階段の方に逃げて行くのを追いかけ、原告の子のC(小学生)の肩を捕まえて、「あんた、どこの学校ね。あんた学校に行く必要はない。学校に行かれんようにしちゃるけね。早く出て行け。」と怒鳴って小突いた。それ以来、Cがマンションからの出入りを怖がるようになったため、原告はやむなく妻子を一時他の場所に避難させて生活させた。
  (二) 被告Y2又は同被告の意を受けた被告組合の組合員は、平成8年3月16日午後11時ころ、3月17日及び3月30日午後6時ころの3度にわたり、本件建物玄関先のメーター類が収納されたボックス内にある水道元栓のバルブを閉め、又はこれを閉めようとして、原告ら家族の生活用水の使用を妨げようとする嫌がらせをした。
 被告Y2とその意を受けた被告組合の組合員は、3月31日午後1時20分ころ、本件建物の水道元栓のバルブを閉め、本件建物の玄関ドアを叩き、「出て行け。勝手にうちの水道を使うな。」と怒鳴った上、玄関ドアに「305号水道及び305号室の使用を禁止する。組合長Y2」とマジックで記載したB4サイズの貼紙を張ろうとし、4月2日にも、本件建物の水道元栓のバルブを閉めた上、原告がこれを容易に開くことができないように、そのバルブに粘着テープを巻き付け、更にボックスの開口部にも粘着テープを張り付ける嫌がらせをした。
  (三) 平成5年5月ころから、本件マンション階下の原告宅宛て郵便受けの蓋がねじ曲げられていたり、届くはずの郵便物が届かなかったり、被告組合を通じて配布されるはずの文書が配付されなかったりした。被告Y2の前記各行動を見ると、これらも被告Y2の行った嫌がらせであると推認される。
 三 被出らの主張
 1 被告Y2が原告の主張するような嫌がらせをしたことは争う。
 2 仮に、被告Y2にそのような行為があったとしても、閉められた水道元栓は何人もこれを容易に開栓できる構造になっているから、原告には何ら損害は生じていない。
 3 また、被告Y2のそのような行為は、建物区分所有法にも被告組合の集会決議にも基づかないものであるし、外形上も理事の職務に属する管理行為とはいえないから、被告Y2の与えた損害につき被告組合には賠償義務はない。
第三 当裁判所の判断
 一 経緯について
   甲第1ないし第3、第9ないし第11号証、第13号証の1、第15、第20号証、原告と被告Y2(被告組合代表者)の各供述によれば、次の事実が認められ、この認定を妨げるに足りる証拠はない。
  1 本件マシションの701号室にはかねて原告と懇意にしていた被告Y2の長男Dが家族と共に居住していた。Dは、上701号室を含む亡父の遺産を巡って対立していた被告Y2が家族に執拗に嫌がらせをするのでこれから逃れたいとして、平成2年4月、上部屋の管理を原告に委託して、家族と共に他に転居した。
  2 被告Y2は、原告がDから701号室の鍵を預かって同部屋の管理をしていることを知り、原告がDの後押しをして自己の権利の実現を妨害しているものと考え、原告を敵視するようになった。そして、平成5年2月、被告Y2外数名が701号室の施錠を破壊して室内から家財道具等を持ち出そうとしたところを、原告に110番通報されて騒ぎになったことを契機に、被告Y2は原告に対する憎悪の念を募らせ、原告に対抗するためとして、同年4月1日被告組合を法人化させて自らその理事兼組合長に就任した。
  3 その後、被告Y2とDとの遺産を巡る紛争が解決したことなどから、Dは、同年9月、原告に対し、701号室の管理委託契約を解除する旨通告し、これを受けて原告は同室の管理を終了させた。
  4 本件建物は、前所有者であったBの債務の担保に供されていたところ、その債務不履行により競売に付されて、平成8年3月19日、被告組合がこれを競落してその所有権を取得するとともに、原告の賃貸人としての地位を承継した。他方で、被告Y2は、同年2月ころから、701号室に居住するようになった。
  5 そのころ、本件マンションでは、全戸の水道使用量の管理を親メーター方式から戸別メーター方式に改めるため、被告Y2が被告組合を代表して戸別メーターの設置工事の承諾書を各戸から徴収していたが、本件建物の前所有者のBからはその承諾書を徴収することができず、原告からもその協力が得られなかったため工事が遅滞したことや、Bが管理費を滞納していたため、その支払を原告に求めたが、原告がこれに応じなかったことなどから、被告Y2は、原告やその家族が本件建物で水道を使用したり、本件マンションのエレベーターなどの共用物を使用することは承服できないと考えるようになった。
 二 原告の主張する被告Y2の各嫌がらせについて
  1 原告の主張4(一)、(二)の各事実は、甲第4号証の1ないし3、第6号証、第7号証の1ないし4、第8、第9号証、原告と被告Y2の各供述によってこれを認めることができ、なお、被告Y2の供述中の上認定事実に反する部分は信用できない。
  2 同(三)の各事実について、甲第4号証の1と第9号証中には、原告宅宛て郵便受けが破損されていたり、同郵便受けに届くはずの郵便物が配達されなかったり、被告組合を通じて配付されるはずの市報が配付されなかったりしたことかあった旨の記載があるが、これらが被告Y2によってなされたものと直接認める証拠はなく、前記認定の経緯や本件に顕れた証拠によってもそのように推認するには十分でない。
 三 被告らの主張について
  1 被告らは、閉められた本件建物の水道元栓は何人もこれを容易に開栓できる構造になっているから、原告には何ら損害は生じていないと主張するが、そのような嫌がらせを繰り返し受けたことにより、原告は平穏であるべき生活が妨げられ、不愉快な思いをさせられて精神的損害が生じたことは明らかであるから、上主張は採用できない。
  2 また、被告組合には賠償義務はないと主張するが、前記認定の被告Y2の本件嫌がらせをするまでの経緯や本件嫌がらせの内容方法に照らせば、被告Y2のした各嫌がらせは、被告組合の理事(代表者)の地位を利用し、外形上、被告組合の管理事務に属する本件建物の未納管理費の徴収、戸別メーターの設置、あるいは被告組合の所有となった本件建物自体の管理に関連してその事務遂行の過程でなされたものであることは明らかであるから、被告Y2の不法行為は被告組合の職務を行うにつきなされたものとして、被告組合にも賠償義務があるというべきである。
 四 結論
   以上認定の諸事情によれば、被告Y2の本件嫌がらせによって原告の受けた精神的損害を慰謝するには10万円が相当である。
 よって、原告の請求は、被告ら各自に対し、慰謝料10万円及びこれに対する被告Y2については平成8年5月26日から、被告組合については同年6月5日から各完済まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余は理由がないからこれを棄却することとして、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条本文、93条1項本文を、仮執行の宣言につき同法196条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所小倉支部第2民事部
裁 判 官 飯 塚 圭 一

                    マンション管理相談データベースより、引用

私見:管理費と水道料は分けて考える必要がある。管理費や修繕積立金は区分所有者が支払う義務がある。一方、水道料や駐車場等の使用料は、それを使用している者が支払義務を負う。それは、区分所有者の場合もあるし賃借人などの占有者の場合もある。これらの支払義務を原告が負っているのは、当然であるが、本件の被告等の取った行動は、ちょっとやり過ぎだと思う。エレベーターで原告の家族を追い回したり、部屋の鍵を壊し無断で私物を持ち出そうとしたり・・・・。法的にきちんと手続きを踏んでいれば本件の判決が覆っていた可能性が十分にあると思う。因みに水道料の長期未納者に対する措置で話し合いにも応じず長期に渡って連絡が取れず、しかし、居住している実態がある場合など水道元栓を軽く閉めて(使い勝手を悪くする為)支払を促すことは一般的に行われているようだ。