それって知ってれば買わなかったよ!!

その他,マンションの判例

買主Aは、売主Bとの間で、本件住戸を3500万円で購入する売買契約を締結した。購入の際、Aは、「本件マンションの居住者がどのような者か。」と尋ねたが、Bは、「よくわからない。」と答えた。本件マンションには、暴力団Xが区分所有者として家族とともに居住し、組員の出入りによって区分所有者に迷惑を及ぼしていた。Aの住戸は、Xの直上に位置する。Xの迷惑行為は、管理人室に私物を置く、管理人室の便所とXの戸境壁を壊し、便所を撤去し、仏壇設置、自転車置き場に物置設置、屋上にアンテナ設置等、また、近隣に組事務所があり、本件マンションに暴力団員が頻繁に出入り、極めつけは、管理費等の滞納金額が約2588000円に達する。毎年8月の神社の祭礼時には、マンション前の道路に暴力団員多数が集合し、深夜まで大騒ぎするというものである。Aは、本件契約時において客観的に認識できなかった隠れた瑕疵があるとして、引き渡しから1年10カ月後に、Bに対して本件契約の解除と損害賠償を求めて提訴した。

Aは、Bに対して次の通り主張した。

○瑕疵は修復不可能であり、住宅としての適正を欠く。契約の目的を達することができない為、本件契約の解除に基づく原状回復として3500万円の支払いを求める。

〇本件契約の解除が認められない場合、瑕疵による減価を考えると本件住戸の適正額は、2600万円である。売買価額との差額の損害賠償を求める。

判旨

売主の瑕疵担保責任に基づき、Bに350万円の損害賠償を命ずる。

〇民法570条に定める瑕疵とは、物理的な欠陥のみならず、心理的欠陥を含むが、通常人にとって平穏な生活を乱すべき環境が売買契約時において一時的ではない属性として備わっている場合、隠れた瑕疵に当たる。Xを原因とする迷惑行為は、この瑕疵に当たる。

〇隠れた瑕疵ではあるが、居住の目的を達成できないものではなく、本件契約の解除は認められない。瑕疵を理由とする本件契約の解除を認めず、売買代金の返還請求を棄却する。

〇本件住戸が本来有する価格は、3150万円である。瑕疵担保責任として、売買価格と本来有する差額350万円の損害賠償請求及び遅延損害金の支払いを認める。

〇錯誤による無効について、Aの永住志向及び瑕疵がない物件という動機の錯誤は表明されておらず、意思表示の内容とされるに至っていないので、要素の錯誤には当たらない。

〇Bが、暴力団員が居住する事情を告げなかったことは、積極的に虚偽の事実を述べたものとまではいえない。詐欺による取り消しを否認する。

        H9/7/7 東京地裁          出る出る受験判例160選より、引用

    (前記、書籍より、端折って表示しており、詳細を確認したい方は購入してご覧下さい。)

私見:一言でいうと買主Aが可哀そうである。まず、暴力団員Xの行状がひど過ぎる。管理組合は警察と連携して速やかに動くべき。建造物損壊罪等、刑事事件になる事案ではなかろうか。今では、このような事例は考えられないが当時としてはどうなのだろう??売主Bの積極的な虚偽は認められないとして詐欺による取り消しは認められなかったが、自分さえこの環境から逃れることが出来れば、他人はどうなっても良いのだろうか?以前、顧問先のマンションでも賃借人として暴力団員が居住していた。貸主の区分所有者は行方不明で居住している暴力団員は、行方不明の区分所有者に多額のお金を貸しており、(暴力団員が主張)その債権との相殺で住んでいるとのこと。区分所有者が行方不明なので管理費等の未納が3桁に上り、このままでは組合運営に支障が出ると判断。管理組合からの依頼を受け、他士業と連携して追い出すことに成功した。本件訴訟とは直接関係ないことだがこのマンションでも積極的に対処して欲しかった。