特定の区分所有者の特別の利益に影響がある管理費値上げの決議は無効!
主 文
1 平成28年4月24日に開催された被告管理組合の第10回通常総会におい
てされた別紙1決議目録記載の決議は,無効であることを確認する。
2 被告管理組合の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,被告管理組合の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 本訴請求及び承継参加に係る請求
主文第1項同旨
2 反訴請求
原告らは,被告管理組合に対し,連帯して1031万1090円及びこれに対する平成29年4月15日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件本訴請求及び承継参加に係る訴えは,「A団地」(以下「本件団地」という。)の管理組合である被告管理組合が平成28年4月24日に開催した第10回通常総会において,管理規約のうち,管理費等の負担割合に関する定めを変更すること(以下「本件規約変更」という。)を内容とする別紙1決議目録記載の決議(以下「本件規約変更決議」という。)をしたところ,本件規約変更決議は,団地建物所有者である従前原告らの権利に「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当し,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)66条,31条1項後段,本件規約変更決議時の管理規約(別紙2記載3に掲げた規定を含む。以下「旧規約」という。)51条5項によれば,従前原告らの承諾が必要となるにもかかわらず,被告管理組合は,その承諾を得ることなく,本件規約変更決議をしたとして,従前原告らが,本件規約変更決議は無効であることの確認を求める事案である。
本件反訴請求に係る訴え(以下,本件本訴請求及び承継参加に係る訴えと併せて「本件各訴訟」という。)は,本件規約変更決議によって従前原告らが支払うべき管理費等の金額が増額となり,その支払うべき管理費等の金額は月額107万1040円となったにもかかわらず,従前原告ら又は原告らは本件規約変更決議以前の管理費等の金額である月額81万9550円を支払うにとどまっているとして,本件規約変更決議後の管理規約(別紙2記載4に掲げた規定を含む。以下「新規約」という。)の定めに基づき,同年8月から令和元年12月までの41か月分の管理費等について,従前原告ら又は原告らが支払うべき管理費等の金額と支払済みの管理費等の金額の差額(月額25万1490円×41か月分)である1031万1090円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成29年4月15日から支払済みまで,新規約所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
脱退原告は,本件各訴訟係属後,原告HRSに対し,本件団地に係る共有持分を譲渡したことから,原告HRSは,本件反訴について訴訟を引き受け,本件本訴について訴訟参加し,その後,被告は,本件反訴につき,請求を拡張した。
1 区分所有法並びに旧規約及び新規約等の定め
別紙2のとおりである(以下,別紙2記載2に掲げた規定を含む本件団地が造成された際に最初に設定された管理規約を「当初規約」という。)。
2 前提事実(争いがないか括弧内掲記の証拠により容易に認められる事実)
⑴ 本件団地の構成及び共有持分割合
ア 本件団地は,別紙3物件目録記載2~5の各建物(B,C,D,E,F)及びその敷地である同目録記載1の土地(以下「本件敷地」という。)によって構成されている。
本件団地を構成する建物は,居住用,店舗用,駐車場用の各建物を含むところ,同目録記載2の一棟の建物は,214戸の住戸部分から成り,延べ床面積が2万1530.51㎡,地上40階及び地下1階建ての居住用建物(以下「本件住宅棟」という。)である。同目録記載3の建物は,延べ床面積が2390.30㎡,地上2階建ての店舗用建物(以下「本件商業業務棟」という。)である。同目録記載4の建物は,駐車場用建物(以下「本5 件駐車場棟」という。)である。
本件住宅棟は,区分所有権の目的となる専有部分を含んでおり,本件商業業務棟は,本件規約変更決議当時は従前原告らが共有し,現在は原告らが共有している。本件駐車場棟は,本件団地における規約共用部分(区分所有法4条2項,当初規約2条9号〔旧規約及び新規約も同じ。〕所定のもの)である。
本件団地を構成する建物の1階部分及び2階部分の大よその見取り図は,それぞれ,別紙図面1及び同2のとおりであり,本件団地の共用部分(当初規約2条6号〔旧規約及び新規約も同じ。〕所定のもの)は,別表第1のとおりである(当初規約4条1項〔旧規約及び新規約も同じ。〕所定のもの)。
(甲3〔31,32頁〕,4~8,26,乙2〔4,5頁〕,9〔35,36頁〕,12〔35,36頁〕,丙1,2)
イ 本件敷地の共有持分割合は,本件住宅棟の区分所有者が合計100万分の68万4720,本件商業業務棟の共有者が合計100万分の31万5280であり,その比率は,本件住宅棟の区分所有者と本件商業業務棟の共有者でおおむね68.5:31.5である。
団地共用部分(区分所有法67条1項,当初規約2条6号〔旧規約及び新規約も同じ。〕所定のもののうち本件住宅棟に係る部分を除く部分(以下「本件住宅棟以外団地共用部分」という。)の共有持分割合は,本件住宅棟の区分所有者が合計239万2081分の215万3051,本件商業業務棟の共有者が合計239万2081分の23万9030であり,その比率は,本件住宅棟の区分所有者と本件商業業務棟の共有者で9:1である。
本件駐車場棟の共有持分割合は,本件住宅棟の区分所有者が合計10分の4,本件商業業務棟の共有者が合計10分の6であり,その比率は,本件住宅棟の区分所有者と本件商業業務棟の共有者で4:6である。これらの共有持分割合は,本件規約変更の前後を通じて変更はない。
(乙9〔44頁〕,12〔44頁〕)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(途中省略)
エ 判断
以上のとおり,旧規約における駐車場棟管理費の負担割合を定める方法は,新規約におけるそれと比して合理性を欠いていたものとはいえず,本件規約変更の必要性及び合理性が高かったとはいえない一方で,従前原告らは,駐車場棟管理費に係る本件規約変更によって実質的な利益を得ていないにもかかわらず,本件規約変更前と比して大きな負担の増加を強いられることとなり,その均衡を失しているものといわざるを得ない。
ところで,駐車場の利用方法は,本件商業業務棟の共有者が第三者に貸し出す場合(商業施設の利用者に利用させる場合を含む。)であっても,本件住宅棟の区分所有者が利用する場合であっても基本的に異なるところはなく,駐車場の各区画を占有使用することによって得られる経済的利益も同じといえる。
このような本件駐車場棟の利用実態にも照らせば,本件規約変更決議のうち駐車場棟管理費の負担割合を定める方法を変更する部分は,本件商業業務棟の所有者(共有者)に与える不利益がその受忍限度を超えていると認められる。
したがって,同部分の変更は,従前原告らに対して「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当する。
オ 被告管理組合のその他の主張についてこれに対し,被告管理組合は,本件協定3項並びに当初規約,旧規約及び新規約の各附則12条6項2号に照らせば,本件駐車場棟から得られる収益について,本件商業業務棟の共有者の特定専用使用区画から生じる収益は本件商業業務棟の共有者が取得し,本件住宅棟の区分所有者の特定専用使用区画から生じるものは本件住宅棟の区分所有者が取得することが定められており,その定めは永続的なものとされていることから,本件規約変更の合理性の判断において,本件駐車場棟からの収益の配分について配慮する必要はない旨主張する。
確かに,本件協定3項及び2項(認定事実棟からの収益は,特定専用使用区画が属する本件住宅棟の区分所有者又は本件商業業務棟の共有者のいずれかに帰属する旨定め,当初規約,旧規約及び新規約の各附則12条6項2号も同様の定めをする。
しかしながら,駐車場棟管理費の負担割合が,本件駐車場棟の共有持分割合に応じて本件住宅棟の区分所有者と本件商業業務棟の共有者で4:6と定められており,本件駐車場棟からの収益の配分割合も本件住宅棟の区分所有者と本件商業業務棟の共有者で120:178(おおむね4:6)と定められていることは,上記イのとおり,収益配分と経費の負担を同じ割合とすることで公平を図ろうとしたものと理解できるのであって,一方が変更された場合に,他方をそのまま維持することは,かえってかかる公
平性を害する事態を生じさせるというべきである。
そうすると,本件協定3項並びに当初規約,旧規約及び新規約の各附則12条6項2号は,駐車場棟管理費の負担割合が当初規約又は旧規約の定めのとおりであること(本件住宅棟:本件商業業務棟=4:6)を前提とした定めであり,駐車場棟管理費の負担割合が変更された場合に,収益の配分方法が変更される可能性がないことまで定めたものではないと解されるのであって,被告管理組合の上記主張は採用できない。
⑷ 小括以上からすれば,本件規約変更が公序良俗に反するかに関する法的判断をするまでもなく,本件規約変更決議は無効であるから,本件本訴請求は理由があり,本件規約変更決議に基づいて定められた新規約26条2項は効力を有しないから,本件反訴請求は,争点②(いつの時点で本件管理費等の増額の効果が生じるか〔本件反訴請求に関する争点〕)について判断するまでもなく,理由がない。
なお,被告管理組合は,一般的に,管理費及び修繕積立金等の金額は,その時々の状況に応じて臨機応変に変更していく必要性があるにもかかわらず,一部の区分所有者が反対するからといって管理費及び修繕積立金等の金額を変更できないとなれば,マンション経営に影響が出るような状況が生じたとしても,その変更は不可能となり,不合理である旨主張する。しかしながら,「特別の影響」の有無は,個別具体的な事案に応じて判断されるものであり,一部の区分所有者の反対があれば,常に管理費及び修繕積立金等の金額を変更することができなくなるわけではないから,上記主張は採用できない。
第4 結論よって,原告らの本件本訴請求及び承継参加に係る請求は理由があるからこれを認容し,被告管理組合の本件反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 武 部 知 子
裁判官 松 長 一 太
裁判官臼倉尭史は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官 武 部 知 子
平成28(ワ)2475 団地管理組合総会決議不存在確認等請求事件(本訴,承継参加),未払管理費等支払請求事件(反訴)
令和2年4月13日 札幌地方裁判所
感想:団地型と複合型マンションがこの訴訟の舞台だったわけだが特定の区分所有者の不利益になるような規約変更は無効だとした判決が下りたことは興味深い。