専有部での演劇のレッスンはOK?!

マンションの判例,管理組合関連

主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
被告は,別紙物件目録記載1ないし3の区分所有建物を,演技指導,発声指導,音楽指導又はダンス指導のための教室として使用してはならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
当事者等
ア 原告Aは,その肩書住所地に所在するマンションであるDマンション(以下「本件マンション」という。)の8○○号室(以下,本件マンション内の各室ないし区画は,号室ないし区画番号のみで表記する。)及び11××号室の,原告Bは,11○×号室の,原告Cは,2□□号室の,各区分所有権をそれぞれ有する本件マンションの区分所有者らである。
イ 被告は,演劇・映画・放送番組の企画制作・出演引受け,若手俳優の育成等を主な業務とする株式会社であり,東京都及び大阪府において,「E塾」という名称の附属俳優養成所を運営している。
被告は,9××号室(別紙物件目録記載1の建物)及び6△△号室(同目録記載2の建物,以下,9××号室及び6△△号室を併せて「本件部屋」という。)並びに地下駐車場区画であるB1□△(同目録記載3の建物、以下「本件駐車場」といい,本件部屋と本件駐車場を併せて「本件部屋等」という。)を練習場として使用しており,被告は,本件部屋等の区分占有者である。
本件マンションの管理組合の規約(以下「本件規約」という。)本件規約22条には,1項として「住居部分及び事務所部分の区分所有者及びその占有者はその専用部分を住居及び事務所及びそれに類する用途(診療所等)に使用することとし,他の住居者の迷惑となるような営業その他の行為を行わないものとする。」,2項として「区分所有者及びその占有者は部屋の使用においては,騒音,臭気,振動等公衆衛生及び環境の維持保全に留意しなければならない。」との規定がある。
被告の共同利益背反行為(建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)6条1項)本件規約22条1項によれば,本件マンションの専用部分の用途は,「住居及び事務所及びそれに類する用途(診療所等)」に限定されており,「診療所等」という記載からすると,住居部分及び事務所部分の区分所有区画を,発声,演技練習やダンス練習などが行われる練習場として使用することを許容していないと解することができ,また,このような形式で使用することは「他の住居者の迷惑となるような営業その他の行為」に当たる。したがって,被告が,本件部屋等を,演技指導,発声指導,音楽指導又はダンス指導のための教室として使用することは本件規約に違反する。
さらに,被告が,本件部屋をレッスン場として使用することで,本件マンションの廊下や階段における塾生らの話し声や物音,集団移動,エレベーターの占拠(以下「迷惑行為」という。)により,区分所有者らの平穏な生活及び廊下や階段の円滑な通行,エレベーターの円滑な使用が障害されている。
以上からすると,被告による本件部屋等の使用は,「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」(法6条1項)にに該当する。

原告らが,法6条1項,3項に基づく差止請求ができることについて区分占有者等が法6条1項に規定する行為をした場合には,他の区分所有者全員又は管理組合法人は,区分所有者の共同の利益のため,その行為の停止等の請求することができ(法57条1項),その場合に訴訟を提起するには,集会の決議によらなければならない(同条2項)と規定している。
しかし,その集会の決議を得る前提として,集会の議題に挙げるか否かは理事会が決定するところ,理事会が議題に挙げなければ法57条1項に基づく差止請求ができないのであるから,理事会が機能不全に陥っている場合には,各区分所有者は,法6条1項,3項に基づき,差止請求をすることがで
きると解される。
そして,本件マンションの理事会の役員は,長年同じメンバーが重任しており,各区分所有者が役員の不利になり得る行動をしようとするとそれを排除する傾向にあること,E塾大阪校の塾長であるFが管理組合の役員であることからすると,本件マンションの理事会は機能不全に陥っているから,原
告らにおいて,法6条1項,3項に基づく差止請求ができるというべきである。
よって,原告らは,被告に対し,法6条1項,3項に基づき,本件部屋等を演技指導,発声指導,音楽指導又はダンス指導のための教室として使用することの差止めを求める。
2 請求原因に対する被告の認否

(1)ア 請求原因(1) アの事実は認める。
イ 請求原因(1)イの事実のうち,被告が本件駐車場を占有している事実は・・・・・途中略・・・

第3 当裁判所の判断
1 事実関係
争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
本件マンションの概要等
本件マンションは,昭和50年に建築された地下1階,地上12階建てのマンションであり,建物中央部分と東側・西側部分にそれぞれ階段が,建物中央部分にエレベーターが2基設置されている。本件マンションの完成予想図面(甲5)では,戸数は,店舗9戸,事務所64戸及び住居228戸となっており,地下1階が店舗と駐車場区画(本件駐車場(B1□△)は駐車場区画の一画である。),1階が店舗,2階及び3階が事務室仕様,4階から12階が主として住居仕様(12階を除く各階に1室ずつ事務室仕様もある。)となっており,本件部屋はいずれも種類としては住居である。もっとも,4階以上の住居部分も,会社や事務所等が多数入所しており,実際の使用方法は不明であるが,事務所としての使用も多数あることが窺われる(甲1ないし5,7,原告A,証人F)。
本件マンションは,JR新大阪駅と地下鉄御堂筋線K駅の中間地点に位置し,この付近では高架になっている地下鉄御堂筋線の線路が中央分離帯の役割を果たす国道の東に隣接している。本件マンションは,東西方向の廊下の壁が開放されていて,道路や鉄道の音が壁に遮られることなく,本件マシションの通路に聞こえてくる状態にある。なお,当裁判所は,本件訴訟を当庁の民事調停に付し,調停委員会は,平成29年7月18日,本件マンションにおいて,現地調停を実施したところ,同日の時点で,本件マンションでは,新御堂筋を通行する車両の音や地下鉄御堂筋線の電車の通過音がよく聞こえ,
会話は少し大きな声でないと相手方に通じないような状況であった(争いがない)。
本件規約22条の規定(甲6)
第22条(建物使用制限)
住居部分及び事務所部分の区分所有者及びその占有者はその専用部分を住居及び事務所及びそれに類する用途(診療所等)に使用することとし,他の住居者の迷惑となるような営業その他の行為を行わないものとする。
② 区分所有者及びその占有者は部屋の使用においては,騒音,臭気,振動等公衆衛生及び環境の維持保全に留意しなければならない。
③ 区分所有者及びその占有者は理由の如何を問わず,その専有部分を次の用途に供してはならない。
一.暴力団関係の事務所及び暴力団関係者の住居
二.偏った思想を信奉する政治結社の事務所
三.反社会的な宗教施設及び宗教関連施設
四.「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」による風俗営
業,風俗関連営業(法第2条第4項関係)例えばキャバレー等
但し,麻雀屋は除く
五.性風俗施設,性風俗関連施設及び性風俗特殊営業(法第2条第5項~
8項関係)
六.コインランドリー等無人による営業行為
七.焼肉店,炉端焼店等強いにおいを出す店
八.上記各号に類する用途
④ 店舗部分における営業時間の設定,営業種目の変更,廃業,転売

については,予め書面をもって管理組合に届出をなし,協議して了解を得なければならない。
原告ら原告Aは,平成27年1月26日,8○○号室の区分所有権を,同年9月14日,11××号室の区分所有権をそれぞれ取得し,平成28年1月から11××号室に居住している(甲19)。
原告Bは,平成14年6月18日,11○×号室の区分所有権を取得し,原告Cは,平成16年10月26日,2□□号室の区分所有権の共有持分権10分の1を取得したが,いずれも本件マンションには居住していない(争いがない)。
E塾の概要等
ア 被告は,昭和58年からE塾大阪校を開業し,その運営をFが代表取締役を務めるGに委託している(乙12)。
E塾大阪校では,本件部屋を声優タレント養成のためのレッスン場として使用しており,被告は,これら建物の占有者である。そのほか,E塾大阪校では,12▽▽号室を事務局及び講師待機室に,12▽□号室を塾生用の更衣室及びロッカーとして使用している(争いがない)。
イ E塾大阪校では,毎年60人の塾生を募集しており,本件部屋において,土曜日の午後3時から午後9時まで,日曜日の午前10時から午後6時30分まで,アクセント,朗読,俳優術,演技演習,音楽のレッスンを行っている。ダンスのレッスンも,平成28年10月よりも前には本件部屋で行っていたが,同月以降,本件マンション以外の場所で行っており,本件マンションでは行っていない。平日は,上記レッスンのカリキュラムは行われておらず,E塾の塾生が本件部屋を自主練習として使用することもあるが,頻度としては少ない(乙2ないし5,証人F)。

ウ Fは,E塾大阪校の塾長であり,本件マンションの管理組合の理事である(争いがない)。
Fが代表を務めるGは,本件マンションを本店所在地とし,芸能イベントの構成・演出・出演を業とする株式会社であり,かかるイベントに出演する俳優が所属している(乙9,12,証人F)。
本件訴訟に至る経緯等(争いがない)原告Aは,平成28年3月頃,本件マンションの管理組合の理事会に対し,被告が本件規約に違反した使用をしている旨の苦情を申し入れた。また,原告Aは,同月31日に開催された総会において,被告によるマンションの使用方法が本件規約に違反しており,振動・騒音も受忍限度を超えている旨の意見を述べた。
理事会は,同年9月26日,本件マンション1階会議室で会議を開催し,原告ら,H氏及びIの代理人からの連絡書において,12▽▽号室の事務所使用が規約違反に当たること,騒音問題が生じていることの指摘を受けたとして,これらの問題について検討した。その結果,規約違反はないという結論になったほか,騒音問題については,原告Aを呼んで,被害状況を確認することとした。
原告Aは,同年10月13日頃,理事会のJ理事長から,理事会で検討した結果,規約違反はないという結論になったとの連絡を受けた。
原告Aは,理事会から出席要請を受けていたが,同月24日開催の理事会には出席しなかった。
2 原告らによる本件差止請求の可否について
ア 原告らは,法6条1項,3項を訴訟物として本件差止請求を求めるので,以下検討するに,法57条1項,3項によれば,法6条1項,3項に基づいて訴訟を提起することができるのは,当該共同利益背反行為をした者を除く区分所有者全員又は管理組合法人(1項),あるいは,管理者又は集会において指定された区分所有者(3項)である。
そして,原告らは,全員でも合計4区分の区分所有権しか有さず,区分所有者の全員(被告は占有者であるから,請求主体は,本件マンションの区分所有者全員であ原告らが集会において法57条3項の指定を受けたとは認められないから,原告らは,法6条1項,3項に基づき,本件差止請求をすることはできない。
イ 以上に対し,原告らは,前記第2の1 管理組合の理事会が機能不全に陥っている場合には,各区分所有者が,法6条1項,3項に基づき,差止請求をすることができると主張する。
しかし,法6条1項,3項により保護される利益は,区分所有者全員の共同利益であるから,これらによる区分所有者の権利は,当該共同利益背反行為をした者を除く区分所有者全員に個別に帰属するのではなく,団体的に帰属しているというべきである。そして,法は,かかる観点から,法57条において,法6条1項,3項に規定する行為の停止等を請求することができる主体を,当該共同利益背反行為をした者を除く区分所有者全員又は管理組合法人と明示的に定めたのであるから,各区分所有者が個別に6条1項,3項の権利を行使することはできないと解すべきである。
理事会が機能不全に陥っている場合でも,一定数の議決権を有する区分所有者は,総会の招集を請求できるし(法34条),当該共同利益背反行為が区分所有者個人の人格権や共有持分権等の固有の権利を侵害するものであれば,それに基づく請求も可能であるから,上記の例外を認める必要性は乏しいし(なお,原告らは,当初,これらに基づく差止請求も訴訟物としていたが,明示的にこれらの請求を取り下げた。),仮に,原告らの主張するとおり,法57条の例外を認める余地があるとしても,当該機能不全を生じさせた理事会の役員以外の区分所有者ら全員の関与なしに,一部部の区分所有者のみで法6条1項,3項による差止請求が許容される根拠はないし,本件についてみても,原告Aは,E塾の使用に関して,総会の開催を呼びかけたこともなく,また,訴訟提起を持ち掛けたのも原告ら以外にはわずか二人というのであって(原告A21頁),原告らが,本件訴訟に係る法57条の集会の決議を得られていない理由が専ら理事会の機能不全にあると認めるに足りる的確な証拠もないから,いずれにしろ,原告らの主張は採用できない。
なお,被告による本件駐車場の占有及び共同利益背反行為について,念のため検討すると,まず,被告による本件駐車場の占有については,原告Aが,本件マンションの地下駐車場で練習を行っている者がE塾のTシャツを着ていたり,E塾の者と名乗ったり,E塾が使用しているロッカー室で着替えて
いたりすると述べるのみで,Gではなく,被告ないしE塾が本件駐車場を占有していることを裏付ける客観的証拠はないし(甲10号証の写真の人物がE塾の塾生であるかも不明である。),E塾のスケジュール表(乙4,5)に照らしても,上記原告Aの供述をもって,E塾が各種指導のための教室と
して,本件駐車場を使用していると認めるに足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない(なお,原告らは,平成29年11月9日付け「訴えの一部取下げ書兼請求の趣旨変更申立書」をもって,本件駐車場に係る訴えを取り下げたが,被告がこれに同意しなかったため,取下げの効力は生じなかった。)。
また,原告らは,本件部屋をレッスンのための練習場に使用することは本件規約22条に反するとともに,本件マンションの廊下や階段,エレベーターにおける塾生らの迷惑行為によって,本件マンションの他の区分所有者らの平穏な生活や共用部分の円滑な使用が害されていると主張し,原告Aはこ
れに沿う供述をする。まず,本件規約22条1項の規定は,同3項の規定と異なり,「他の住居者の迷惑となるような営業その他の行為を行わないものとする」と抽象的であり,各種指導のための教室として使用していることのみをもって,同規定に違反するとして直ちに使用差止めの対象になるとはい
えない。そして,差止請求が認められるかは,当該行為の必要性並びに他者が被る不利益の性質及び程度等を総合考慮して検討すべきものであるところ,原告Aの述べる塾生らの共用部分での話し声等の音量も住居部分への影響の程度も不明であり,その他の迷惑行為も,甲11号証の写真では,塾生らは
階段の片側に寄っており,通路を妨害しているとまではいえないし,原告Aの供述によっても,同人の心理的な抵抗感はともかくとして,塾生らが積極的に通行を妨害したり,2基あるエレベーターを長時間使用できない状態にしたりしているとまでは認められないことに加え,本件マンションは,幹線
道路や鉄道に隣接する都心にあって,かつ,廊下の壁面が開放されていて,外部から相当程度の騒音があること、本件部屋でのレッスンも土日のみで,しかも,遅くとも午後9時までであって深夜に及ぶものではないことなど(なお,被告は,原告Aが本件部屋の騒音等を問題にした後の平成28年10月以降,本件部屋でのダンスレッスンをやめており,また,本件部屋からの振動や騒音が,現在,それほどひどくないことは原告Aも認めている。)も考慮すれば,原告Aの供述をもって,原告Aその他の区分所有者の平穏な生活や共用部分の利用に対する不利益が,原告A個人の主観的な不快感を超えて,受忍限度を超えているとまでは認めるに足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,原告らは,法6条1項,3項に基づく差止請求権を有さず,その前提となる被告の共同利益背反行為も認めるに足りない。
第4 結論
以上の次第で,原告の被告に対する本件請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第23民事

裁判官 梅 本 聡 子

                           COURTS IN JAPANより、引用

私見:被告は、規約通りの用法に従って専有部分を使用していない、と訴えられた訳であるがこの判決は管理組合が原告になって訴訟を提起していたら結論が異なっていたのではないかと考える。原告が一部の区分所有者で有った為、用法通りの使用をしていなかったことで不利益を受けている組合員の主観的な問題と片付けられた感がある。