法人が管理組合の理事長になるのは難しい?!
判決要旨
区分所有者である法人Xが、管理組合Yに対して、法人には理事長の資格を認めない旨の本件マンションの管理規約が無効であることを争ったところ、法3条の団体の内部の機関設計に関する定めは団体の自治に委ねられるので,管理組合の理事長の資格(組合員に限るかどうか,自然人に限るかどうか等)をどのように定めるかについても,法令に違反するとか,区分所有建物の置かれた状況に照らして看過できないほど著しく不合理であるような例外的な場合を除き,管理組合の自治に委ねられているとして、Xの請求が棄却された事例。
当事者
控訴人
X株式会社(以下「第1審原告」という。)
代表者代表取締役 X1
被控訴人
Y管理組合(以下「第1審被告」という。)
代表者理事長 Y1
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,第1審原告の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中,第1審原告の後記2の請求を棄却した部分を取り消す。
2 第1審被告管理規約36条4項の法人である組合員は理事長に就任することができないとの定めは無効であることを確認する。
第2 事案の概要(以下,略称は原判決の例による。)
1 本件は,区分所有建物であるaマンションの区分所有者である第1審原告が,Yマンションの管理組合である第1審被告に対し,①第1審被告の第39期定期総会における第40期役員の選任が無効であること及び第1審原告代表者ほか1名の候補者が役員に選任されたことの確認,②第1審被告の組合員名簿の閲覧,及び③第1審被告の管理規約中,法人である組合員が理事長に就任することができない旨の定め(36条4項)が無効であることの確認を求めた事案である。
2 原判決は,②の組合員名簿閲覧請求を認容し,その余の請求を全部棄却した。第1審原告は,原判決の敗訴部分のうち,③の管理規約無効確認請求を棄却した部分を不服として控訴した。
3 前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,後記4のとおり当審における第1審原告の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の第2の1及び2(3)に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 当審における第1審原告の主張
(1) 管理規約36条4項によれば,法人である組合員は,法人関係者(法人の代表者又は委任を受けた従業員)を理事会活動に出席させることができる。同項が自然人である法人関係者でさえ理事長に就任することを認めないことは,不当に法人である組合員の権利を制限するものである。したがって,管理規約36条4項は,無効である。
(2) 法人である組合員に理事長の資格を認めない管理規約36条4項の規定は,第1審被告の第2回臨時総会(平成20年9月27日開催)における管理規約の一部変更決議によって新設された。管理規約49条6項は「規約の制定,変更又は廃止が一部の組合員の権利に特別の影響を及ぼすべきときは,その承諾を得なければならない」と定める。前記36条4項新設決議は,法人である組合員(当時の101号室の区分所有者)の承諾を得ていないから,無効である。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,第1審原告の管理規約無効確認請求は理由がないと判断する。その理由は,後記2のとおり補足的説示を付加するほかは,原判決11頁5行目から20行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
2 管理規約36条4項の有効性について
(1) 前提事実に証拠(甲4,23,乙1,9,10)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
ア 第1審被告は,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)3条所定の団体である。第1審被告は,昭和54年頃に成立し,本件訴訟が提起された令和元年6月時点では,第40期会計年度(平成30年11月1日~令和元年10月31日まで・管理規約58条)中であった。
イ 第1審原告は,平成22年4月に101号室の区分所有者となり(甲4・3頁),第1審被告の組合員となった。令和元年時点で,第1審被告の組合員(区分所有者)12名のうち,法人である組合員は第1審原告のみである(乙10)。
ウ Yマンションの区分所有の対象となる建物の総戸数は14戸である。第1審被告における議決権数は,第1審原告が平成22年以降所有する101号室が4,それ以外の13戸が各1の合計17である。
エ 管理規約には,第1審被告に役員として理事2名(理事長1名,副理事長1名)及び監事1名を置くこと(36条1項),理事及び監事の資格として第1審被告の組合員であることを要し,理事及び監事は総会で選任し,理事長及び副理事長は理事の互選により選任すること(同条2項,3項),理事をもって構成する理事会が所定の議決事項を決議し,監事は理事会に出席して意見を述べることができること(43条3項,52条,55条)等の定めがある。管理規約36条4項の新設(平成20年9月27日)より前には,組合員たる法人が役員(理事・監事)に就任できるかどうかについて,明文の定めはなかった。
理事長は,管理組合を代表し,その業務を統括するほか(管理規約40条1項),総会を招集し,総会の議長を務め,総会において業務報告や予算案提出・決算報告を行い(同条3項,44条3~5項,60条,61条),理事会を招集し,議長を務める(52条2項,53条1項)などの権限と職務を有する。
オ 第1審被告の平成20年9月27日の第2回臨時総会において,管理規約36条4項を新設することを含む管理規約の改正議案が提出された。
管理規約の変更は組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する特別決議事項であるが(管理規約49条3項1号),当時の組合員13名(1名が2戸を所有していたとみられる。)のうち12名(出席者7名,委任状提出4名,議決権行使書提出1名),議決権数17のうち16(出席者分8,委任状提出分7,議決権行使書面1)の賛成により可決された。議決権数4を有する当時の101号室の区分所有者は,委任状を提出し,代理人が議案に賛成したものと推認される。
カ 新設された管理規約36条4項は,法人である組合員は理事長には就任できないが,法人である組合員は副理事長又は監事には就任できることを前提に,法人たる副理事長又は監事から理事会活動に出席する者が当該法人の従業員等代表権のない者である場合,当該法人を代表する者から,役員として組合業務に従事することを委任する旨の書面を第1審被告に提出しなければならないと定める。この規定は,法人である組合員が役員(副理事長・監事)に就任した上で,代表者又は委任を受けた従業員等を通じて理事会に参加することを想定した規定である。
(2) 以上のとおり,管理規約36条4項は,法人である組合員が副理事長又は監事に就任する資格は認めた上で,理事長に就任する資格を与えない趣旨のものと認められる。
(3) 区分所有法は,区分所有法3条の団体の内部の機関設計に関する定めは,組合の自治に委ねている。したがって,管理組合の理事長の資格(組合員に限るかどうか,自然人に限るかどうか等)をどのように定めるかも,法令に違反するとか,区分所有建物の置かれた状況に照らして看過できないほど著しく不合理である(公序良俗違反などの一般条項の適用を考えなければならない)ような例外的な場合を除き,組合の自治に委ねられている。
(4) これを本件についてみると,理事長の資格を自然人に限ることが法令上禁止されているわけではないし,第1審被告の組合員の全員が法人であるため理事長が選出できないとか,組合員の多数が法人であるのに理事長は少数派の自然人たる組合員からしか選出できないため著しく不公平な組合運営が行われているなどの不合理,すなわち,理事長の資格を自然人に限ることにより看過できないほどの著しい不合理が生じているともいえない。現在の第1審被告については,理事長の資格を自然人に限るか,法人にも認めるかどうかの問題は,組合の自治に委ねられており,裁判所が介入することはできない。第1審原告の主張を採用することは困難である。
(5) 第1審原告は,管理規約36条4項を新設した管理規約変更に関する平成20年9月27日の総会決議には,法人である組合員(101号室の区分所有者)の承諾を得ていない不備があると主張する。しかし,同日の時点において,法人たる第1審原告は組合員ではなかった。また,同日の時点における法人である組合員の有無や数等は,証拠上不明である。仮に,第1審原告の主張するとおり,101号室の区分所有者が法人であったとしても,前記認定事実によれば,当該区分所有者は,平成20年9月27日の臨時総会における36条4項新設議案につき,委任状提出により(代理人を通じて)賛成しているのであるから,当該議案の決議につき,前記区分所有者の承諾を得ない不備があったとは認められない。第1審原告の主張を採用することは,困難である。
第4 結論
以上によれば,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
2020/12/26 東京高等裁判所第11民事部
(裁判長裁判官 野山宏 裁判官 原克也 裁判官 土屋毅)
マン管センターデータベースより、引用
私見:私の考えは、判決理由の中で述べられている「区分所有法は,区分所有法3条の団体の内部の機関設計に関する定めは,組合の自治に委ねている。したがって,管理組合の理事長の資格(組合員に限るかどうか,自然人に限るかどうか等)をどのように定めるかも,法令に違反するとか,区分所有建物の置かれた状況に照らして看過できないほど著しく不合理である(公序良俗違反などの一般条項の適用を考えなければならない)ような例外的な場合を除き,組合の自治に委ねられている。」に近い。管理組合の内部自治に関することであり、管理組合の運営の実務を踏まえて管理組合で考えることだと思う。