法定地上権が成立しないってまずいよね!
当事者
原 告 X1株式会社
上代表者代表取締役 X2
上訴訟代理人弁護士 * 賀 **
同 * 澤 *明
被 告 Y1
上訴訟代理人弁護士 * 谷 * *
主文
一、原告の請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1 (主位的請求)
被告は原告に対し、別紙目録(一)記載の土地(以下、本件土地という)につき、持分1万分の101の移転登記手続をせよ。
(予備的請求)
被告は原告に対し、本件土地につき、同目録(二)記載の建物(以下、本件建物という)の所有を目的とし、期間昭和54年10月16日から60年、地代月額金1,760円とする地上権設定登記手続をせよ。
原告と被告との間で、原告が本件土地について有する本件建物の所有を目的とする地上権の存続期間は昭和54年10月16日から60年、その地代は月額金1,760円と定める。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二、当事者の主張
一、請求原因
1 被告は、本件建物を所有し、その敷地である本件土地につき1万分の101の共有持分(以下、本件土地持分という)を有していたが、昭和53年1月23日株式会社M(以下、Mという)のため本件建物につき極度額を金1,000万円とする根抵当権を設定(同月31日設定登記)し、その後、Mは当庁に対し上根抵当権に基づき本件建物の競売を申立て、その結果株式会社P(以下、Pという)が昭和54年10月16日これを競落してその所有権を取得し、昭和55年1月23日上競落を原因として所有権移転登記を了した。
2 原告は、同年1月23日Pから本件建物を買受け、同年7月8日上売買を原因として所有権移転登記を了した。
3 ところで、本件のような区分所有権が処分されたときは、次の理由により、その区分所有者の有する敷地の共有持分もその処分に従うものと解すべきであり、従って、本件土地持分は本件建物の上処分に従って原告に移転したものである。
すなわち、現行の建物の区分所有等に関する法律(以下、区分所有法という)6条1項に規定されている専有部分の所有権、共用部分の共有持分及び敷地に対する権利の不可分性は、階層的区分所有建物の法律関係を処理するにあたって常に考慮しなければならない特殊性からくるものであるから、単に先取特権の場合に限らず階層的区分所有建物の法律関係が問題となる以上常に妥当すべき法理として認めなければならず、同法11条は「共有者」と規定し「共用部分所有者」と言っていないところ、土地に対する権利では「共有」がその代表的なものであるからそれを例示とみて、土地に対する権利の「共有者」に同条を適用することが可能である。
4 仮に前項の主張が認められないとすれば、Pは、次の理由により競落によって本件土地につき本件建物所有を目的とする法定地上権を取得し、原告は前記売買によってPからその地上権を取得したものである。
すなわち、法定地上権の成立要件として、抵当権設定の当時に土地の上に建物が存在すること、その両方が抵当権設定の当時に同一の所有者に属すること、土地と建物の一方または双方の上に抵当権が存在すること、競売が行われて土地と建物が別異の者に帰属するに至ったことの四要件が必要であるが、本件はすべて上の要件をみたしている。もっとも、そこで成立する法定地上権は、他の区分所有者の権利を害することはできないので、土地全体に対して排他的利用権限を有する地上権として観念することはできず、当然土地の一部に対する排他的利用を内容とする権利でしかあり得ない。しかも、土地の一部というよりも、本件のような一般のマンションにおいてはむしろ一棟の建物の敷地上の一定空間に対する排他的利用を内容とする地上権と言う方が妥当であるが、成立する法定地上権の内容を上のように解すれば、地上権の設定される土地の共有持分権者にとっても、他の共有持分権者にとっても不利とはならないから、これは民法269条の2によって当然認められるべきである。
5 そして、本件建物は鉄筋コンクリート造であるので、上地上権の存続期間は本件建物競落後60年と定めるのが相当であり、また、本件建物の立地条件をも考慮すれば地代月額は3.3平方メートルあたり金500円が相当であって、上地上権は被告の本件土地持分に由来するものであるから、上地上権の地代月額は上金額を基礎として算出した本件土地全体の地代月額に被告の本件土地持分を乗じた金1,760円(小数点以下は切捨)と定めるのが相当である。
6 よって、原告は被告に対し、主位的に本件土地持分に基づき、真正なる登記名義の回復を原因とする本件土地持分の移転登記手続を求め、予備的に地上権に基づき、本件土地につき、本件建物所有を目的とし、期間昭和54年10月16日から60年、地代月額金1,760円とする地上権設定登記を求めるとともに、原被告間で、上地上権の存続期間及び地代をそれぞれ上のとおりと定めることを求める。
二、請求原因に対する認否及び反論
1 第1、第2項は認める。
2 第3項は否認する。建物の区分所有の場合、共用部分は専有部分の従物だだと観念され、従って、共用部分は専有部分の処分に従うことになるだろうが、敷地は専有部分の従物ではない。我国では土地と建物とは別個の財産として扱われるという法律上の伝統が確立されているのだから、区分所有法の解釈については、共用部分に関する規定を敷地に関して類推解釈すべきではなく、むしろ反対解釈すべきである。
3 第4、第5項は否認する。原告主張の法定地上権が、持分に対する排他的利用を意味するとすれば、その排他的利用とは観念的なものとなってしまい、用益物権の客体たる物(多くは土地)を有形的に排他的に利用するという特質に反することになり、また、それが空間的な一部に対する排他的利用を意味するとすれば、(1)そもそもそのような地上権法定主義からいってあり得ず、(2)そのような地上権の設定者または登記義務者が被告1人ということはあり得ず、(3)民法269条の2にいう地上権の目的となるような地下や空間につきそれぞれ一個の所有権が成立するということは認められておらず、そのような不成立な所有権に基因する地下や空間の排他的利用権はやはり不成立となるべきものであり、(4)さらに、登記できるものかどうかというような問題点がある。そこで、原告の予備的請求は棄却されるべきであるが、特に、予備的請求の趣旨には却下されるべきものと思われる理由がある。それは、地上権設定登記の登記義務者は土地所有者であるが、被告は単独の所有者ではないからである。
第三、証拠<略>
理由
第一、主位的請求について
一、請求原因第1、第2項の事実は、当事者間に争いがない。
二、原告は主位的請求として被告に対し本件土地持分の移転登記手続を求めているが、原告は被告名義でなされた本件土地持分登記が有効であることを前提として上請求をしているのであるから、原告主張の真正なる登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続請求は許されず、また、登記名義人である被告及び中間者であるPの同意の存在につき主張立証がないので、いわゆる中間省略による持分移転登記手続請求も認められない。
原告の主位的請求は、以上の理由からすでに棄却を免れないのであるが、原告は本件建物の取得により本件土地持分も取得した旨主張するので付言するに、区分所有法11条に言う「共有者」とは、同法8条との関係からみて建物の共用部分の共有者を指すことが明らかであり、また、現行法上土地と建物は別個独立の不動産であってそれぞれの権利変動は各別に生じ別個に登記されるものであることを考慮すると、明確な法律上、制度上の裏付なしに、同条及び同法6条1項を拡張ないし類推して敷地利用権をも建物の専有部分の処分に従うものと解することはできないものと言わざるを得ず、この点からも原告の主位的請求は理由がない。
第二、予備的請求について
一、原告は、予備的に、Pが競落によって本件土地につき法定地上権を取得した旨主張するが、競落により一の区分所有権を取得したにすぎないPが、本件土地全体についての法定地上権を取得するものと解することのできないことは明らかであるし、また、本件建物はその専有部分に対応する敷地上の一定空間のみではなくその敷地全体の利用権原を基礎に存立しているものであり、本件土地持分に基づく使用収益権能も上の内容を有するものと解されるから、本件土地持分につき直接排他的な支配権である地上権の成立する余地はなく、従って、原告の予備的請求のうち、Pが法定地上権を取得したことを前提として原告が被告に対しその地上権の内容につき確定を求める部分は、その理由がないものと言わざるを得ない。
二、また、予備的請求のうち、原告が被告に対し地上権設定登記手続を求める部分は、原告が代位によることなく直接そのような登記請求権を有するものとは解せられないので、その地上権の存否に言及するまでもなくその理由がない。
第三、結論
そうすると、原告の本訴各請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 *合*夫
1983/08/26 東京地裁
私見:今では考えられないことだが敷地権がスタートしたのが1983年であるので本件の法律行為は敷地権という登記制度が出来る前の話である。敷地権が登記されると、土地の利用権と建物内の居住部分の権利は切り離せないため、居住スペースだけ、もしくは土地だけを分離して売ることはできなくなるので今回のようなトラブルは起きなかったであろう。