管理費等反訴請求事件!
1 原判決中,第1審判決別紙2滞納管理費等明細書の番号24から94までの「管理費」欄,「修繕積立金」欄及び「専用倉庫維持費」欄記載の各金員並びにこれらに対する遅延損害金の支払請求に関する部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を却下する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
上告代理人菊地史泰の上告受理申立て理由第2の2について
1 本件は,千葉市内のマンション(以下「本件マンション」という。)の団地管理組合法人である上告人が,第1審判決別紙1物件目録記載の本件マンションの専有部分(以下「本件建物部分」という。)を担保不動産競売によって取得した被上告人に対し,上記競売前に本件建物部分の共有者であった者(以下「本件被承継人」という。)が滞納していた管理費,修繕積立金,専用倉庫維持費等及びこれら
に対する遅延損害金の支払義務は建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)66条で準用される区分所有法8条に基づき被上告人に承継されたとして,上記管理費等及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
被上告人が,平成29年法律第44号による改正前の民法169条に基づき,上記管理費等のうち支払期限から5年を経過したものに係る債権は時効消滅した旨主張しているのに対し,上告人は,上記債権の一部について本件被承継人による債務の承認がされた後,本件建物部分の本件被承継人の共有持分についての強制競売(以下「本件強制競売」という。)の手続において,上記債権のうち第1審判決別
紙2滞納管理費等明細書の番号24から94までの「管理費」欄,「修繕積立金」欄及び「専用倉庫維持費」欄記載の各金員に係る債権(以下「本件配当要求債権」という。)等について,区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有するとして,民事執行法51条1項に基づいて配当要求(以下「本件配当要求」という。)をし,これにより,本件配当要求債権について消滅時効の中断の効力が生じている旨主張して争っている。
2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人の規約は,本件マンションの団地建物所有者は,上告人に対し,管理費,修繕積立金,専用倉庫維持費等について,毎月27日までに翌月分を支払うべきものとし,これらに対する各支払期限の翌日から日歩4銭の割合による遅延損害金を支払うべきものと定めている。
(2) 平成23年4月,本件強制競売の開始決定がされ,上告人は,同年6月,本件配当要求をした。
(3) 本件強制競売の申立ては,平成23年7月に取り下げられた。
(4) 本件被承継人は,被上告人が本件建物部分を取得した時点において,第1審判決別紙2滞納管理費等明細書記載のとおり,上記(1)の管理費等を滞納していた。
(5) 被上告人は,本件訴訟において,本件配当要求債権等について消滅時効を援用した。
3 原審は,上記事実関係の下において,要旨次のとおり判断し,本件配当要求債権は時効消滅したとして,上告人の請求の一部を認容し,その余を棄却すべきものとした。
不動産競売手続において区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより,上記配当要求における配当要求債権について,差押え(平成29年法律第44号による改正前の民法147条2号)に準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには,債務者が上記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく売却代金の配当又は弁済金
の交付(以下「配当等」という。)が実施されるに至ったことを要すると解するのが相当である。本件においては,本件強制競売の申立てが取り下げられており,本件被承継人が本件配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったものではないから,本件配当要求により本件配当要求債権につき消滅時効の中断の効力が生じたということはできない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
区分所有法7条1項の先取特権は,優先権の順位及び効力については,一般の先取特権である共益費用の先取特権(民法306条1号)とみなされるところ(区分所有法7条2項),区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が不動産競売手続において民事執行法51条1項(同法188条で準用される場合を含む。)に基づく配当要求をする行為は,上記債権者が自ら担保不動産競売の申立てをする場合
と同様,上記先取特権を行使して能動的に権利の実現をしようとするものである。また,上記配当要求をした上記債権者が配当等を受けるためには,配当要求債権につき上記先取特権を有することについて,執行裁判所において同法181条1項各号に掲げる文書(以下「法定文書」という。)により証明されたと認められることを要するのであって,上記の証明がされたと認められない場合には,上記配当要求は不適法なものとして執行裁判所により却下されるべきものとされている。これらは,区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権についても同様である。
以上に鑑みると,不動産競売手続において区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより,上記配当要求における配当要求債権について,差押え(平成29年法律第44号による改正前の民法147条2号)に準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには,法定文書により上記債権者が上記先取特権を有することが上記手続において証
明されれば足り,債務者が上記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったことを要しないと解するのが相当である。以上によれば,法定文書により上告人が区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有することが本件強制競売の手続において証明されたか否かの点について審理することなく,本件配当要求債権及びこれらに対する遅延損害金の支払請求に関する部分を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上記部分は破棄を免れない。そして,上記の点等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。なお,その余の上告については,上告人は上告受理の申立ての理由を記載した書面を提出しないから,却下することとする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡村和美 裁判官 菅野博之 裁判官 三浦 守 裁判官草野耕一)
令和2年9月18日 最高裁判所第二小法廷
私見:「法定文書により上告人が区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有することが本件強制競売の手続において証明されたか否かの点について審理することなく,本件配当要求債権及びこれらに対する遅延損害金の支払請求に関する部分を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある」この部分が問題になったので、この審理が行われていれば裁判の行方はわからなかったことになる。つまり、上告審が存在しなかったか知れない。