管理費等の変更、それって特別決議必要??

マンションの判例,管理規約関連,管理費・修繕積立金関連

主文

 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴の趣旨
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人の請求を棄却する。
  (3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
 2 控訴の趣旨に対する答弁
  主文同旨
第2 当事者の主張
 1 請求原因
  (1) 控訴人は、神戸市a区bc丁目所在のマンションであるA(以下「本件マンション」という。)の区分所有権(専有床面積51.15平方メートル)を有する者であり、被控訴人は、本件マンションの管理組合である。
  (2) 控訴人は、被控訴人に対し、本件マンションの管理規約(以下「本件規約」という。)に基づき、次のとおり支払う義務を負う。
   ア 管理費月額9,720円(ただし、平成13年3月分までは8,340円。同年2月4日、被控訴人の臨時総会(以下「本件総会」という。)において、同年4月分から管理費月額を1平方メートル当たり190円に改定する旨の決議がされた。) 
     修繕積立金月額2,050円
   イ 管理費等の支払方法
     当月分を前月28日限り支払う。
   ウ 管理費等の遅延損害金
     日歩5銭
  (3) よって、被控訴人は、控訴人に対し、本件規約等に基づき、平成12年12月分から平成13年5月分までの未納管理費等6万5,100円、同月22日までの確定遅延損害金3,077円及び内金6万5,100円に対する弁済期の後である同月23日から支払済みまで管理規約所定の日歩5銭の割合による遅延損害金の支払を求める。
 2 請求原因に対する認否及び控訴人の主張
  (1) 請求原因(1)は争うことを明らかにしない。
  (2) 請求原因(2)アは否認する。その余はいずれも争うことを明らかにしない。
  (3)ア 本件規約は、26条1項で「区分所有者は、敷地および共用部分等の管理に要する経費に充てるため、区分所有者となった日より次の費用を管理組合に納入しなければならない。」とし、管理費、修繕積立金、修繕積立一時基金はそれぞれ本件規約別表4-1・2のとおりであるとされている。同別表には、「タイプ別管理費用明細書」として各居室の管理費、修繕積立金、修繕積立一時基金等の額が記載されている。
 すなわち、本件規約は、管理費、修繕積立金、修繕積立一時基金の具体的な額も定めているものであり、これを変更するには区分所有法31条1項による規約改正の手続(特別決議)が必要である。
   イ しかしながら、本件総会における管理費増額の決議は、組合員総数117名、議決権総数121議決権のうち、43議決権の賛成(組合員数はカウントしていない。)だけで決議しており、明らかに無効の決議である(甲2)。
第3 証拠
 証拠関係は、本件訴訟記録中の原審における書証目録及び証人等目録並びに当審における書証目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

第1 当裁判所の判断
 1 請求原因(1)並びに同(2)イ及びウは、いずれも争うことを明らかにしないので、自白したものとみなす。
 2 控訴人が被控訴人に納入すべき管理費及び修繕積立金の額について検討する。
  (1) 証拠(甲1)によれば、本件規約26条1項は、区分所有者は、管理費及び修繕積立金等を被控訴人に納入しなければならないものとし、同附則3条は、各区分所有者の負担する管理費及び修繕積立金等は、総会においてその額が決定されるまでは、本件規約別表4の金額とするものとし、同別表4「タイプ別管理費用明細書」には、専有床面積51.15平方メートルの住戸について、管理費月額が8,340円、修繕積立金月額が2,050円とそれぞれ記載されていることが認められる。なお、本件においては、本件総会に至るまで、総会において管理費及び修繕積立金等の額が決定されたことはないことが窺われる(弁論の全趣旨)。
 したがって、控訴人は、被控訴人に対し、本件規約に基づき、上記のとおりの金員を納入する義務を負う。
  (2) 証拠(甲2、乙4)及び弁論の全趣旨によれば、平成13年2月4日、本件総会において、管理費月額を同年4月分から1平方メートル当たり163円から190円に改定する旨の決議(以下「本件決議」という。)がされたところ、その当時の議決権総数は121、本件総会の現実の出席組合員数は56名(組合員の親族以外の代理人4名(弁論の全趣旨によれば、これらの者が本件規約49条5項に定める代理人の資格を有すると認めることができる。)を含む。)、議決権行使書の提出者は17名、管理費改定に関する議案に賛成した者は43名であったことが認められる。
 証拠(甲1)によれば、同51条3号は、管理費等の額については総会の決議を経なければならないものとし、同50条1項は、総会の会議は議決権総数の半数以上を有する組合員が出席しなければならないものとし、同条2項は、総会の議事は、出席組合員の議決権の過半数で決するものとしている。また、同47条3項は、総会に出席した組合員に書面又は代理人によって議決権を行使する者を含むものとし、同49条4項は、組合員は、書面又は代理人によって議決権を行使することができるものとし、同50条5項は、同条1、2項の場合において、委任状、電話による委任又は代理人によって議決権を行使する者は、出席組合員とみなすものとしている(なお、ここにいう委任状によって議決権を行使する者とは、書面によって議決権を行使する者と同義であると解される。)。
 これを本件についてみると、本件総会に出席した組合員数は、書面や代理人によって議決権を行使した者を含めると73名となるから、その当時の議決権総数121の半数以上を有する組合員が本件総会に出席したものであり、かつ、管理費改定に関する議案に賛成した者43名は、出席組合員数73名の過半数を占めるから、本件決議は有効であるというべきである(なお、弁論の全趣旨によれば、出席組合員73名が有する議決権はそれぞれ1個であると認めることができる。)。
 したがって、控訴人は、被控訴人に対し、本件決議に基づき、平成13年4月分から管理費月額9,720円を納入する義務を負う(190円×51.15平方メートル=9,720円。なお、控訴人が被控訴人に納入すべき同年3月分までの管理費月額8,340円は10円未満を切り上げた額であるから、控訴人が被控訴人に納入すべき同年4月分からの管理費月額の計算においても、同様に10円未満を切り上げるのが相当である。)。
  (3) これに対し、控訴人は、管理費等の額を変更するには規約改正の手続(特別決議)が必要であるから、本件決議は無効である旨主張する。
 確かに、前記認定のとおり、本件規約26条1項は、区分所有者は、管理費及び修繕積立金等を被控訴人に納入しなければならないものとし、本件規約別表4「タイプ別管理費用明細書」には、専有床面積51.15平方メートルの住戸について、管理費月額が8,340円、修繕積立金が2,050円とそれぞれ記載されているところ、証拠(甲1)によれば、同条項には、「(1) 管理費・・・・管理規約 別表 4-1・2」、「(2) 修繕積立金・・・・管理規約別表 4-1・2」と記載されているから、管理費及び修繕積立金の額が本件規約により定められているようにも思われる。
 しかしながら、証拠(甲1)によれば、同51条は、管理費等の額や規約の変更等については総会の決議を経なければならないものとしている(3、4号)ところ、同50条3項は、規約の変更に関する総会の議事は、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決するものとし、他方、管理費等の額については、このような特別決議の対象事項とはされていないことが認められ、これが総会において特別決議の方法により決議することとされたこと(同条項5号参照)を窺わせる証拠はない。
 仮に、管理費及び修繕積立金の額が本件規約により定められているものと解すると、総会においてこれらの額を決定することは規約の変更に当たることになるが、これは、同51条が規約の変更とは別に管理費等の額について規定し、同50条3項が規約の変更について管理費等の額とは異なる扱いをしていることと矛盾するから、そのような解釈は採用することができない。同26条1項は、管理費及び修繕積立金の納入義務を定めるものにすぎず、これらの額を定めるものではないと解すべきである。同条項において本件規約の別表を引用しているのは、同附則3条が、総会において管理費及び修繕積立金等の額が決定されるまでの間、暫定的にこれらの額を本件規約別表4のとおりとしていることを明らかにする趣旨であると解される。同附則3条が総会においてこれらの額が「決定される」との文言を用いていることも、管理費及び修繕積立金の額が本件規約により定められていないとの解釈に沿うものである。
 したがって、総会において管理費及び修繕積立金の額を決定することは規約の変更に当たらず、特別決議を要しないものと解するのが相当であるから、控訴人の上記主張は理由がない。
  (4) 以上によれば、請求原因(2)アは理由がある。
第2 結論
 よって、本訴請求は理由があるから、これを認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法67条1項、61条を適用して、主文のとおり判決する。    マン管センターデータベースより、抜粋
    H14/12/5 神戸地方裁判所第6民事部
       裁判長裁判官    松村 雅司
          裁判官    水野 有子
          裁判官    増田 純平

私見:管理規約の変更に関しては、総会において区分所有者及び議決権の4分の3以上の決議が必要。別表なるものが管理規約の中に一緒に綴じ込んであるので規約変更と同等の決議要件が必要なのではと争われたのであろう。しかし、管理規約の中には、分譲時の管理会社名が記載されていることもあり、規約の中に管理会社名が記載されているので管理会社の変更には規約変更の特別決議が必要かと問われれば「NO]である。判決理由の中にある「仮に、管理費及び修繕積立金の額が本件規約により定められているものと解すると、総会においてこれらの額を決定することは規約の変更に当たることになるが、これは、同51条が規約の変更とは別に管理費等の額について規定し、同50条3項が規約の変更について管理費等の額とは異なる扱いをしていることと矛盾するから、そのような解釈は採用することができない。同26条1項は、管理費及び修繕積立金の納入義務を定めるものにすぎず、これらの額を定めるものではないと解すべきである。同条項において本件規約の別表を引用しているのは、同附則3条が、総会において管理費及び修繕積立金等の額が決定されるまでの間、暫定的にこれらの額を本件規約別表4のとおりとしていることを明らかにする趣旨であると解される。同附則3条が総会においてこれらの額が「決定される」との文言を用いていることも、管理費及び修繕積立金の額が本件規約により定められていないとの解釈に沿うものである。」が合理的な解釈と思える。