民泊禁止の規約で賠償請求!

マンションの判例,管理規約関連

マンション管理組合が、不特定多数の者を対象として宿泊施設として使用させる行為
(民泊)をしている区分所有者に対し、管理規約に反するとして、民泊行為のために使用
することの差止め及び違約金の支払いを求めた事案において、管理規約に反するとして、民泊行為の差止めと違約金の支払い請求が認められた事例(東京地裁 平成30年8月9日判決 認容 ウエストロー・ジャパン)

1  事案の概要
原告Ⅹは、本件マンションの区分所有者全員をもって構成され、本件マンションの建物並びにその敷地及び附属施設の管理を目的とする管理組合で、被告Yは本件マンション一室の区分所有者である。
本件マンションの管理規約(本件規約)には、「①区分所有者は、その専有部分を専ら住宅あるいは事務所として使用するものとし、他の用途(不特定の者を対象としてその専有部分を宿泊や滞在の用に供することを含む)に供してはならない、②区分所有者は、その専有部分を第三者に貸与する場合には、
期間を1か月以上とし(いわゆるウィークリーマンション等の短期間の貸与をしてはならない)、この規約、使用細則等に定める事項及び総会の決議をその第三者に遵守させなければならない、③区分所有者が管理規約に違反したときは、理事長は、理事会の決議を経て、その差止め又は排除のための必要な措置をとることができる、④本件規約違反者に対して訴訟を提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用の一切を請求することができる」などと定められていた。Yは、平成28年1月頃から、b社が開設するウェブサイトを利用して、不特定多数者を対象として当該住戸の宿泊予約を受け付ける民泊行為を開始し、これにより素性の不明な不特定多数の外国人が頻繁に本件マンションに出入りするようになった。平成28年夏頃、管理会社に対し、当該住戸の隣接住戸居住者より、当該住戸において、夜間に大声で会話していてうるさいとの苦情が寄せられた。また、当該住戸宿泊者である外国人が、ごみの分別を行わずにまとめて捨てていた。管理会社が平成28年5月から調査したところ、10名を超える外国人の家族連れ等が本件マンション内に所在していたことを確認した。Ⅹは、Yに対し、事情を確認したところ、Yは、予約済みの案件が平成28年12月まで4件あるめ、その分だけでも許可してもらいたいと主張したが、同年10月開催のⅩの理事会においてこれを却下し、直ちに民泊使用を止めなければ法的措置を検討することとした。平成29年1月、本件マンションの管理員がマンション内にいた宿泊客と思われる外国人に確認したところ、宿泊予約票には同年同月24日から27日までの宿泊が予約されていた。Ⅹは、平成29年5月開催の臨時総会において、Yに対し、管理規約及び建物の区分所有法に基づき、民泊営業差止等請求訴訟を提起する議案を可決し、提訴した。
2  判決の要旨
裁判所は、次の通り判示し、ⅩのYに対する請求を全て認容した。
⑴ 認定事実によれば、Yはb社が開設するウェブサイトに当該住戸の情報をアップして、当該住戸を不特定多数の者を対象として宿泊施設として有料で使用させていたと認められ、民泊行為をしていたものと認められる。本件規約本件規約32条1項には、「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅あるいは事
務所として使用するものとし、他の用途(不特定の者を対象としてその専有部分を宿泊や滞在の用に供することを含む)に供してはならない」、本件規約37条の2第1項には「区分所有者は、その専有部分を第三者に貸与する場合には、期間を1か月以上とし(いわゆるウィークリーマンション等の短期間の貸与
をしてはならない)」と定められており、Yの行為は、これらに反するものであったといえる。
また、Yは、民泊行為を今後行わないと述べておきながら宿泊客を募集していたことに照らすと、本件規約に反して今後も民泊行為をするおそれが高く、民泊行為を差し止める必要性が認められる。そして、本件規約70条3項で「区分所有者が管理規約に違反したときは、理事長は、理事会の決議を経て、その
差止め又は排除のための必要な措置をとることができる」と定められているところ、理事会において、法的措置の検討をすることとされ、その後、臨時総会で本件訴訟提起について決議を経ているのであるから、Xは、Yに対し、民泊営業の差止め等を求めることができる。
Yは、本件規約32条の改正及び37条の2の新設はYの権利に特別の影響を及ぼすものであるから、区分所有法31条1項の承諾を得る必要があると主張するが、本件マンションの居室を民泊または短期間の賃貸借に供することを禁止する規定であって、Yの権利に特別の影響を及ぼすものではないから、Yの承諾
は不要である。
⑵ Yは違約金条項が公序良俗に反し無効で
あると主張するが、原告が本件規約違反者を被告として訴訟を提起する場合の弁護士費用を相手方に負担させるという規定が公序良俗に反するともいえない。よって、本件違約金条項は有効に成立しているといえ、違約金として弁護士費用の支払を求める範囲で認容する。
3  まとめ
民泊には、訪日外国人増加に伴う宿泊施設不足の解消、空き家の有効活用などの効果が見込まれることから、平成29年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立し、平成30年6月に施行された。
他方、民泊利用者による近隣住民への迷惑行為などが問題となる場合があり、自治体が条例で規制するほか、管理規約で民泊を禁止しているマンションも見られる。本事案は、管理規約で民泊の禁止が定められた場合において、判決で民泊行為の差止め等が認容されたものであり、民泊への対応を検討する際に参考となる事案である。
同様の事案として、管理規約で禁止されている民泊行為の差止請求に関する損害賠償が認 め ら れ た 事 例( 大 阪 地 判 平29・1・13RETIO107-114)もあるので、併せて参考にされたい。

              RETIO. NO.113 2019 年春号より