暴力団関係者への引き渡し請求事件!

マンションの判例,管理組合関連,管理規約関連

事実の概要

101号室の区分所有者Cが、Dに賃貸したが、Dは、暴力団の若衆で下部組織の組長の地位にあった。Dは、2度に渡って専有部分の改造(「本件改造」という)を行った。1度目の本件改造は、西側にある専用庭からの専用の出入り口を設けるとともに、地下室を設けたものである。共用玄関を経由せずに、専用庭から直接出入りするようにしたため、Dは、共用玄関を使用しなくなった。共用玄関には戸棚を設置して、夜間通路には鳥かごや木箱を置き、洗濯物干しに利用したため、入居者の通行に支障が生じた。地下室は、Cが所有する111号室の床下空間を利用して地下の基礎部分の間にはまる形状で、その内部にはシンク・ガス器具・照明器具・コンセント・換気扇等を設けた。Dは専用の出入り口を設けたために支払い義務がないとして、管理費等(管理費7700円/月、修繕積立金770円/月)及び駐車場使用料月額2200円の支払いをしなかった。Dは、2度目の本件改造に着手し、隣接する112号室の専用庭に建物を増築し、専用部分をワンフロアタイプの事務所に改造した。外壁を黒く塗り、玄関扉をスモークガラスとし、玄関にはモニターカメラとサーチライトを設置した。玄関庇には「***企画」という金看板を掲げた。平成2年12月3日、区分所有者全員で構成する自治会Xが、暴力団排除対策委員会を発足させ、暴力団事務所の撤去を求めた。Xは、臨時総会を開催して共同利益背反行為の停止請求の提訴を行い、暴力団排除対策委員会委員長のAと副委員長のB(Aの妻)を訴訟当事者とする議事を全員一致で決議した。Xは、京都地裁に対して、使用禁止等を求める仮処分の申請を行い、平成3年2月26日、京都地裁は、暴力団事務所の使用禁止及び文字板・紋章・額縁・提灯・日本刀等の撤去を命じる仮処分を決定した。管理規約に暴力団を排除し、共用部分及び専用部分の変更には集会の決議を必要とする旨を定めた。

当事者の主張

Xは、C及びDに次の通り主張した。

① Cに対して、59条に基づき、区分所有権の競売を請求する。

② Dに対して、60条に基づく賃貸借契約の解除及び引き渡しを請求する。

③ C及びDに対して、57条に基づく原状回復を請求する。

C及びDは、Xに対して次の通り主張した。

① 1階は、事務所の使用が認められている。暴力団事務所ではなく、会社の事務所として使用している。

② 地下室への本件改造は、分譲当初から存在する地下の空洞を利用したもので分譲業者及び管理業者であるZの同意を得ている。

判 決

Xの請求をすべて認容する。

① Dは、本件改造についてZの同意を得ていない。専有部分における事務所の使用は認められていない。Xの集会決議なしには本件改造は認められないものであり、本件改造は本件規約に違反するものである。

② Dによる、本件改造、暴力団事務所としての使用、駐車場及びマンション内外における脅迫的な言動は、入居者に対して、恐怖感を与えその平穏な生活を著しく害するものである。共同利益背反行為に該当し、共同生活上の障害は著しい程度に至っている。

③ Cは、今後は家族と居住するために使用すると主張するが、Dとの近親関係、区分所有者になった時期、Dの家族の居住後に暴力団事務所として使用されたことを総合的に勘案すると、他の方法によって共同生活上の重大な障害を除去して、円満な共同生活の維持を図ることはもはや困難である。Xによる競売、賃貸借契約の解除及び引き渡し、現状回復の請求を認容する。

④ Xは、区分所有者が共同の利益の為に構成した団体である。区分所有者を代理して、不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することができる。弁護士費用200万円について、不法行為と相当因果関係にあるので、認容する。

    H4/10/22   京都地裁          受験判例 160選より、引用

私見:本件は、マンション管理適正化法施行前(2001/8/1)の事案であり、現在、指針とされている標準管理規約運用前の事案でもある。現在、管理組合で一般的に使われている標準管理規約や使用細則は、標準管理規約に準拠したものであり、専有部分は勿論、共用部分に変更を加える工事は理事会や総会決議が要するとの定めがあり、本件のような工事を勝手に行うことは出来ない。しかし、傍若無人な輩が本件のような工事を勝手に実施し、管理組合として向き合うことになった場合、当事者として立たざるを得ない理事長ははじめ役員の皆さんのご苦労を思うと頭が下がる。これらの事象は水際で防ぐことを念頭におくべきではないだろうか。