それって、規約で定める必要があるのでは??
当事者
原 告 A
外5名
原告ら訴訟代理人弁護士 *宮* * *
被 告 丙 管 理 組 合
代表者理事長 B
訴訟代理人弁護士 * 津 **
主 文
1 被告は、原告らに対し、被告が平成14年3月3日に開催された総会において別紙「駐車場使用細則」を制定した決議が無効であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨。
第2 事案の概要
本件は、原告らが、原告らを含む各区分所有者で構成されるマンション管理組合である被告の総会において、同マンション駐車場の使用及び管理運営について賛成多数で制定決議された駐車場使用細則が、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議を要する規約にあたるとして、被告らに対し、当該決議が無効であることの確認を求めた事案である。
1 前提事実(証拠掲記のないものは、当事者間に争いがない。)
(1) 原告らは、いずれも那覇市○×丁目〈番地略〉所在の「丙」(以下「本件マンション」という。)の区分所有者で、被告の組合員である。
被告は、本件マンションの区分所有者21名全員で構成される本件マンションの管理組合であり、権利能力なき社団である。
(2) 本件マンションは、鉄筋コンクリート造7階建で21戸の区分所有建物から構成され、その1階部分には、附属施設として各区分所有者全員が共有する駐車場(以下「本件駐車場」という。)が存する。本件駐車場には、当初12台の車両の駐車が予定されていたが、13台の車両が駐車されていたこともある。(甲6、7)
(3) 本件マンションは、株式会社丁産業(以下「丁産業」という。)が、昭和62年10月22日に建築して、各区分所有建物を分譲販売したものであり、当初、同社が本件駐車場も含めて同マンションを管理していたが、平成2年2月、各区分所有者により被告が結成されたため、本件駐車場の管理も被告に移行された。(甲6)
(4) 被告は、平成14年3月3日に開催された被告の第13期総会において、別紙「駐車場使用細則」(以下「本件細則」という。)の制定を、出席者19名中賛成者12名(反対者7名)の賛成多数で決議した(以下、当該決議を「本件決議」という。)。(甲2)
2 争点
本件細則は規約にあたるか。
(原告の主張)
「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」という。)によれば、「共用部分の変更は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。」(同法17条1項)、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」(同法30条1項)、「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする。」(同法31条1項)と定められているところ、被告の管理規約においては、本件駐車場が共用部分及び共用施設として規定され(7条)、駐車場使用者は使用料を支払うこと、その収益は管理費に充当することが規定されている(34条)ものの、区分所有者間で本件駐車場をどのように使用するかについて、一切規定がない。しかるに、本件細則は、名称は細則であるが、その内容は、共用部分である本件駐車場に関し、現在の駐車場使用者に対し半永続的な専用使用権を付与するもので、区分所有者の区分所有権の本質に関わる重要な事項を定めているので、その実質は、区分所有法31条に定める規約であるとみるべきである。したがって、本件決議は、区分所有法31条1項に定める要件を充足しておらず、無効である。
(被告の主張)
本件細則は、その名のとおりあくまでも使用細則であり、規約ではない。本件細則で定められている内容は、区分所有法18条の「共用部分の管理に関する事項」であり、集会の普通決議で決すれば足りる事柄である。そのような事柄を規約として制定するか否かは本件マンションの管理組合である被告の自治に委ねられていると考えるべきである。
原告らは、本件細則が駐車場使用者に半永続的な専用使用権を付与する内容であると主張するが、本件細則は、駐車場契約を本件マンションの区分所有者でかつ居住者に限定し、区分所有者や占有の変更があったときは契約が終了するとしている点、駐車場契約を締結できない区分所有者に対しては、組合管理費とは別に契約締結者の負担の下に敷金や車庫証明費用の補助を定めている点において、駐車場を使用できない者との間の利益調整を図っており、被告の規約上駐車場使用料が管理費に充当されるものと規定されていることからしても、そのような評価はあたらない。また、各駐車場契約における賃貸借期間は1年とされているのであって、当初の駐車場契約においては、いわゆる専用使用権といった物権的な類の権利設定がなされたものではなく、駐車場契約者は、民法上の賃借権を取得して、これを更新してきたのである。かかる駐車場契約に基づく本件駐車場の実際上の管理運営として、賃借人に義務違反がない限り更新拒絶や解約申入れ等契約を終了させる意思表示を行わないという形の運用がなされてきたところ、本件細則が規定する内容は、従前被告が行ってきた本件駐車場の管理、運営を現状どおりにまとめたものであるから、本件細則制定の前後でその取扱いは全く変わっていないのである。さらに、各駐車場契約においては、事実上被告が契約終了の意思表示を頻繁に行うことは困難であるとしても、被告の更新拒絶や解約申入れにより契約を終了させることができるのであるから、本件細則が制定されたからといって、被告が駐車場契約を終了させることができなくなるという関係にはない。したがって、本件細則は、新たに共用部分に変更が生じるような効果をもたらすものではないし、駐車場契約者に特別な権利を付与するものとの評価も妥当しない。
第3 当裁判所の判断
1 当事者間に争いのない事実、証拠(甲1,2,4ないし8、9の1・2、10ないし19、乙1ないし4、原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、前記第2の1の事実の外、次のような事実が認められる。
(1) 本件マンションの各区分所有者による各区分所有建物の購入及び本件駐車場の利用状況等は次のとおりである。
ア Cは、昭和62年11月30日に本件マンション201号室を購入した。その際、丁産業との間で、本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、以来現在まで別紙駐車場配置図③の区画(以下「本件駐車場③区画」という。以下、同配置図のその余の区画について同じ。)を継続使用している。
イ Dは、昭和63年7月27日に本件マンション202号室を購入した。その際、本件駐車場は既に満車であった。当該区分所有建物は、現在、原告Eが所有しているが、同原告は、現在に至るまで本件駐車場を契約利用したことはなく、平成2年以降、本件マンション外の契約駐車場を利用している。
ウ Fは、昭和62年11月18日に本件マンション203号室を購入した。その際、丁産業との間で、本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、以来現在まで本件駐車場④区画を継続使用している。
エ Gは、昭和62年9月16日に本件マンション204号室を購入した。その際、丁産業との間で、本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、本件駐車場⑧区画を継続使用していたが、平成12年3月21日に死亡したため、同区画は被告に返還された。当該返還に伴い、駐車場契約の申込者の募集がなされ、その結果、平成14年1月1日以降、本件マンション504号室を所有するHが当該区画を使用している。
オ Iは、昭和62年11月9日に本件マンション301号室を購入した。その際、丁産業との間で、本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、以来現在まで本件駐車場⑤区画を継続使用している。
カ 原告Jは、昭和63年10月19日に本件マンション302号室を購入した。その際、本件駐車場は既に満車であり、その後現在に至るまで本件駐車場を契約利用したことはない。なお、平成3年4月以降、当該区分所有建物を第三者に賃貸している。
キ 原告Aは、平成元年1月19日に本件マンション303号室を購入した。その際、本件駐車場は既に満車であり、その後現在に至るまで本件駐車場を契約利用したことはない。平成元年4月1日以降、本件マンション外の契約駐車場を利用している。
ク Kは、昭和63年1月27日に本件マンション304号室を購入した。その際、丁産業との間で、本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、以来現在まで本件駐車場⑦区画を継続使用している。
ケ Lは、昭和63年1月20日に本件マンション401号室を購入した。その際、丁産業との間で、本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、本件駐車場①区画を継続使用していたが、平成15年5月転居のため、同区画を被告に返還した。当該返還に伴い、駐車場契約の申込者の募集がなされたが、結局、申込者が現れず、平成15年7月からはM(以下「M」という。)が当該区画を使用している。
コ 原告Nは、昭和63年3月1日に本件マンション402号室を購入した。自動車を所有していないため、現在に至るまで、本件駐車場を契約利用したことはない。
サ Oは、平成元年2月14日に本件マンション403号室を購入した。その際、本件駐車場は既に満車であり、その後現在に至るまで本件駐車場を契約利用したことはない。
シ P(以下「P]という。)は、本件マンション404号室を購入し、本件駐車場につき賃貸借契約を締結して本件駐車場②区画を割り当てられていたが、同人はMに同室を賃貸し、自らは同区画を利用していなかった。当該区画については、平成2年8月30日以降、本件マンション602号室を所有する原告Q(以下「原告Q」という。)が継続している。
また、Mは、平成3年4月1日に本件駐車場について賃貸借契約を締結し、本件駐車場②区画と同⑬区画を併せて、同人と原告Qとで縦列駐車して利用することにしたものの、その後、同原告が両区画を利用し、Mは本件マンション外の駐車場を利用していた。なお、Mは、平成10年3月26日に本件マンション404号室を購入し、平成15年7月から本件駐車場①区画を使用することになり、その結果、本件駐車場⑬区画は駐車場使用を廃止されている。
ス Bは、昭和62年10月6日に本件マンション501号室を購入した。その際、丁産業との間で、本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、以来現在まで本件駐車場⑩区画を継続使用している。
セ R(以下「R」という。)は、昭和63年1月27日に本件マンション502号室を購入した。その際、丁産業との間で、本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、以来現在まで本件駐車場⑥区画を継続使用している。
ソ Sは、昭和63年7月4日に本件マンション503号室を購入した。その際、丁産業との間で、本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、以来現在まで本件駐車場⑫区画を継続使用している。
タ Hは、昭和63年11月2日、本件マンション504号室を購入した。その際、本件駐車場は既に満車であった。その後、平成14年1月1日に本件駐車場につき被告との間で賃貸借契約を締結し、以来、本件駐車場⑧区画を継続使用している。
チ Tは、平成元年3月28日に本件マンション601号室を購入した。その際、本件駐車場は既に満車であった。当該区分所有建物は、現在原告Uが所有しているが、同被告は、現在に至るまで本件駐車場を契約利用したことはない。
ツ 原告Qは、昭和63年12月5日、本件マンション602号室を購入した。その際、本件駐車場は既に満車であった。その後、平成2年8月30日に本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、以来、本件駐車場②区画を継続使用している。なお、原告Qが本件駐車場⑬区画も使用していたことは、前記シのとおりである。
テ Vは、平成元年3月7日、本件マンション603号室を購入した。その際、本件駐車場は既に満車であった。その後、平成12年6月30日に本件駐車場につき被告との間で賃貸借契約を締結し、以来、本件駐車場⑨区画を継続使用している。
ト Wは、昭和62年8月25日に本件マンション701号室を購入した。その際、丁産業との間で、本件駐車場につき賃貸借契約を締結し、以来現在まで本件駐車場⑪区画を継続使用している。
ナ Xは、本件マンション702号室を購入し、本件駐車場につき賃貸借契約を締結して本件駐車場⑨区画を使用していたが、平成11年12月にYに同室を売却したことに伴い、同区画を被告に返還した。当該返還に伴い、駐車場契約の申込者の募集がなされ、その結果、前記テのとおり、平成12年6月30日以降、Vが当該区画を継続使用している。
(2) 本件マンションの管理規約においては、本件駐車場は本件マンションの共用部分であり(7条)、各区分所有者の専有部分の総床面積割合に対応する共有持分により区分所有者全員の共有に属する旨(8条)規定されており、また、容認事項として、本件駐車場は別に定める駐車場契約を締結した区分所有者又は占有者が有料で使用でき、その収益は管理費に充当する旨の規定(34条)が存するが、それ以外は、本件駐車場に関する規定は存しない。
(3) 丁産業と本件マンションの各区分所有者との間での各区分所有建物の売買契約においては、本件駐車場に関し、容認事項として、管理者と駐車場賃貸借契約を締結した区分所有者及び占有者が有料で使用でき、その使用料は管理費に充当する旨の約定が存するものの、それ以外の約定は存しない。また、当該売買契約締結の際に各購入者に交付された重要事項説明書には、本件駐車場に関し、駐車場契約を締結した者が専用使用をなし得る旨の記載が存する。
(4) 丁産業が、本件マンションの分譲当時に各区分所有者との間で締結した本件駐車場についての駐車場契約の内容は要旨次のとおりである(以下、当該契約上、丁産業を「甲」、区分所有者を「乙」という。)。
ア 甲は、乙に対し、契約台数1台として、本件駐車場を賃貸する。
イ 契約期間は、1年間とする。但し、甲乙協議の上、契約期間を更新することができる。
ウ 賃料は1か月1万円とする。
エ 乙が、本件駐車場の賃借権を第三者に譲渡転貸し、又は使用目的及び位置を変更した場合には、甲は通知催告を要せず、直ちに契約を解除し、乙に本件駐車場の返還を求めることができる。
オ 甲乙は、1か月以前の予告をもって、契約を解除することができる。なお、甲は、乙が駐車場契約に違反したときは、予告なしに契約を解除することができる。
カ 本件マンションの管理組合結成後は、駐車場契約に基づく甲の権利義務は自動的に管理組合に移管される。
(5) 本件細則が制定決議されるに至った経緯等は次のとおりである。
ア 平成2年当時、本件マンション404号室をPから賃借していたMが自動車を所有していなかったため、Pが賃借していた本件駐車場②区画は、本件マンションの住人以外の者が駐車利用していた。これを知った原告Qと原告Eが、その旨を当時の被告理事長であったRに話し、P及びMとも相談した結果、404号室入居者が当該区画を使用することになった場合には同人に返還するとの条件の下、原告Qが賃借して同区画を駐車利用することになり、平成2年8月30日、Rが被告理事長名で記名押印して同原告との間で本件駐車場の賃貸借契約書を作成した。当該賃貸借契約の締結については、被告総会に諮られていない。
イ 平成3年になり、自動車を購入したMが、当時も被告理事長であったRに本件駐車場②区画を使用したい旨申出をなし、原告Qも交えて相談した結果、同区画の後方にあった1台分駐車可能なスペース(本件駐車場⑬区画)をも含めて、Mと同原告とで互いの自動車のキーを持ち合って縦列駐車することになり、同年4月1日、Rが被告理事長名で記名押印してMとの間で本件駐車場の賃貸借契約書を作成した。当該賃貸借契約の締結についても、被告総会に諮られていない。なお、その後、Mと原告Qとの話し合いにより、同原告の家族が契約している本件マンション外の駐車場をMが使用し、本件駐車場②区画と同⑬区画は同原告が使用していた。
ウ 平成10年にMがPから本件マンション404号室を購入した上、被告役員に対し本件駐車場の専用使用を求めたことが契機となり、弁護士にも相談した結果、平成11年3月13日に開催された被告の定期総会において、本件駐車場の使用細則を制定することが決議された。その後、被告の理事会や総会において、本件駐車場の使用細則案が協議され、抽選性による全員交替使用制(以下「ローテーション方式」という。)も提案されたが、他方、現に本件駐車場を使用する区分使用者から既得権を主張する意見も出され、協議はまとまらなかった。
エ 平成12年7月12日、原告らは、被告を相手方として那覇簡易裁判所に本件駐車場の使用細則の制定を求める調停を申し立て、その後、5回の調停が重ねられたが、本件駐車場を使用する被告理事長らは既得権がある旨主張し、結局、平成13年1月24日、調停は不成立となった。
オ 平成13年2月16日、原告らは、被告に対し、ローテーション方式等全区分所有者の駐車場使用を前提とした本件駐車場の使用細則の制定を求める訴えを那覇地方裁判所に提起したが、同年12月17日、同請求は棄却された(なお、原告らが、当該判決を不服としてなした控訴も、平成14年5月30日に棄却されている。)。
カ その後、被告は、平成14年3月3日、現に本件駐車場を使用する区分所有者により構成される被告理事会から提案された本件細則を制定することを、現に本件駐車場を使用する区分所有者12名の賛成により決議した。
(6) 被告の管理規約においては、区分所有者の議決権につき、1戸につき1議決権とする旨の規定(24条)が、また、総会の定足数及び表決数につき、総会は総議決権数の3分の2以上(委任状を含む)の出席をもって成立し、議事については出席者の過半数をもって決し、可否同数のときは議長が決する旨の規定(26条)が存する。
(7) 本件細則には、主として、要旨次のような規定が設けられている。
第1条(趣旨)
駐車場契約に定めのない事項について補完して、本件駐車場の管理運営を円滑に行うことを目的とする。
第2条(利用者)
本件駐車場は、本件マンション所有者で現居住者のうち、被告との間で駐車場契約を締結した者が使用することができる。
第3条(効力)
駐車場契約者が、本件マンションの区分所有建物を他の区分所有者又は第三者に譲渡又は貸与したときは、駐車場契約は効力を失うものとする。
第4条(公募・抽選・告知)
駐車場契約が合意又は債務不履行により解約された場合、被告は当該空き区画について速やかに公募しなければならない。その応募資格者は、本件マンションの区分所有者で、現に同マンションに居住している者とし(但し、管理組合費及び修繕費等の滞納者については理事会の全員一致を持って除外することができる。)、応募者多数の場合は、抽選を実施して決定する。
第5条(書面上は「第4条」と表示されているが、「第5条」の誤りであると解される。)(解約)
被告は、駐車場契約者が契約違反をしたときは、文書をもって通知して契約の履行を促し、誠意ある回答がなされない場合、即時駐車場契約を解除する。駐車場使用料が3か月分滞納されたときは、自動的に解約されることとする。
第6条(書面上は「第5条」と表示されているが、「第6条」の誤りであると解される。)(補助金)
本件マンションに居住する区分所有者で、本件駐車場以外の有料駐車場を使用する者に対しては、1台分に限り、敷金及び車庫証明に係る費用の実費を補助することとし、本件駐車場の駐車場契約を締結している区分所有者は、当該費用の補助を行うために、一定額の資金を拠出するものとする。
附則(経過措置)
1項 本件使用細則施行前にした契約は従前の例による。
4項 本件細則は、被告の平成13年度定期総会で決議後施行する。
2 以上認定の事実によれば、元々、本件マンションは、21戸の区分所有建物から構成されているにもかかわらず、その附属施設たる本件駐車場には12台分の駐車区画しか予定されていなかったこと、そのため、同マンション販売業者であり、当初その管理をしていた丁産業は、各区分所有建物を販売する際、各購入者との間で、売買契約の容認事項として、管理者と駐車場賃貸借契約を締結した者が本件駐車場を有料で使用できる旨約定すると共に、各購入者に対し、重要事項として、駐車場契約を締結した者が本件駐車場を専用使用できる旨説明した上、先に区分所有建物を購入して駐車場契約を希望する者との間で、順次駐車場契約を締結したこと、その結果、12台分の区画が満車となった後に本件マンションの区分所有建物を購入した者は、駐車場を必要としても本件駐車場については直ちに駐車場契約を締結することができず、その後、従前の駐車場契約者の転居等により駐車場区画が返還されるなどして例外的に駐車場契約を締結することができた者を除き、本件駐車場を利用することができず、本件マンション外の契約駐車場を利用せざるを得なかったこと、他方、本件駐車場は、本件マンション区分所有者全員の共有とされ、規約上共用部分とされているにもかかわらず、被告の管理規約上、その使用方法等を含めた駐車場の管理運営に関する具体的な規定は存しないこと、そこで、原告らは、被告に対し、ローテーション方式等全区分所有者が本件駐車場を利用できることを前提とした駐車場使用細則の制定を求め、被告理事会や総会で協議が重ねられ、遂には調停申立て、訴訟提起までなされたものの、結局、原告らの請求は棄却され、原告らの求める使用細則案が採用されることなく、現に本件駐車場を利用する区分所有者により構成される被告理事会が提案した本件細則が、現に本件駐車場を利用する区分所有者12名の賛成多数により決議されるに至ったことなどの事実が認められる。
3 ところで、区分所有法は、「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。〈平成14年法律第140号による改正前は『改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。』と規定されていた。〉)は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。」(同法17条1項本文)と規定し、「共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。」(同法18条本文)、「集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。」(同法39条1項)と規定する一方、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」(同法30条1項)、「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする。」(同法31条1項)と規定しているところ、本件駐車場のように同法17条及び18条に定める「共用部分」であり、かつ同法30条1項にいう「附属施設」に該当する部分の使用、管理に関する事項が集会決議事項となるのか規約事項となるのかという点については、当該事項が同法18条に定める「管理」に関する事項であれば、規約によるまでもなく当然に集会の決議で決することができると共に、任意に規約により決めることもできるのに対し、当該事項が同条の「管理」の範囲を超える場合には、もはや集会の決議で決めることは許されず、専ら規約により定める必要があると解するべきである。
そうすると、「共用部分」たる「附属施設」である本件駐車場の使用、管理に関する事項について規定する本件細則が、区分所有法30条1項及び31条1項にいう「規約」にあたるのかという点についても、その規定事項が同法18条にいう「管理」の範囲内にあるか、これを超えるのかという観点から決するべきであり、さらに、その点を判断する際には、単に形式的に、その規定文言のみに基づき判断するのではなく、その規定が設けられた経緯、趣旨をも踏まえて、その規定の意味合いを実質的に勘案して判断する必要があるというべきであって、例えば、その規定内容が、共用部分としての性質に反し、あるいはその性質を変更するような使用態様を規定するもの、すなわち、原告の主張するとおり、特定の区分所有者に半永続的な専用使用権を与えるようなものであれば、当該規定内容は、もはや「管理」の範囲を超えるものであって、「規約」事項にあたるといわなければならない。
4(1) 本件においては、もとより、本件マンションの各区分所有建物の販売時において、本件駐車場の特定の区画について各区分所有建物の購入者に専用使用権が設定されていたわけではなく(この点は、当事者間に争いがない。販売時に、各購入者に対し、重要事項として、駐車場契約を締結した者が本件駐車場を専用使用できる旨の説明がなされているが、当該説明は、駐車場契約者のみが本件駐車場を専用使用でき、契約締結をせずに駐車場利用をしてはならないとの当然のことを意味するものと理解するのが相当であって、それ以上に、各購入者に特定の区画について専用使用権が設定されたものと認めることはできない。)、本件細則においても、その規定文言上、直接、特定の区分所有者に対し専用使用権を与える旨の規定は存しない。
しかしながら、前記認定の事実関係、とりわけ、本件駐車場は、従前、基本的には、実際上先着順で駐車場契約した区分所有者が、その契約以来特定の区画を継続して専用使用してきており、当初駐車場契約できなかった区分所有者は、当初契約者の転居等により駐車区画が返還されるなどした例外的な場合にのみ、空いた区画等を使用することが可能となるにすぎなかったこと、原告らは、そのような利用状況を不服として、被告に対し、ローテーション方式等全区分所有者が本件駐車場を利用できることを前提とした駐車場使用細則の制定を求め、調停申立てや訴訟提起までしたものの、結局、原告らの提案する駐車場細則案が採用されることのないまま、現に本件駐車場を利用する区分所有者による賛成多数により本件細則が制定決議されるに至ったことなど、本件駐車場の従前の利用状況や本件細則が制定されるに至った経緯及びその決議状況等を踏まえて、本件細則の規定内容を検討してみると、そもそも、本件細則制定の趣旨自体、文言上は、駐車場契約に定めのない事項について補完して、本件駐車場の管理運営を円滑に行うことを目的とする旨規定されている(第1条)ものの、むしろ本件駐車場の使用者をどのように決め、どのように利用させるかという使用者、使用方法に関する定めを設けることを主眼としていたと推認される。そうすると、本件駐車場の利用者を、本件マンション所有者で現居住者のうち、被告との間で駐車場契約を締結した者とする旨の規定(第2条)も、単に被告の管理規約の規定(34条)文言をそのまま形式的に定めたものと理解するのは相当ではなく、むしろ、本件細則施行前にした契約は従前の例による旨の経過措置を定めた附則1項と併せ読むと、実際上は、従前の駐車場契約の効力の維持存続を前提としつつ、本件細則施行後も、従前からの駐車場契約者すなわち同細則施行時に現に駐車場契約をしている区分所有者が本件駐車場を継続利用することを容認する規定であるといわなければならない。また、本件細則においては、駐車場契約が効力を失う場合として、区分所有建物が譲渡された場合(第3条)以外にも、合意や債務不履行による解約が規定されている(第4条、第5条、附則1項)が、本件駐車場の従前の利用状況や本件細則制定の経緯等に照らすと、現に駐車場契約をして本件駐車場を利用している区分所有者にとって、今後区分所有建物を譲渡するなどの例外的な場合を除き、駐車場契約が効力を失うことはまずないといえ、解約の際の公募・抽選制(4条)も、そのような例外的な場合に、既に駐車場契約を締結している区分所有者の利用権はそのままに、未だ駐車場契約を締結していない区分所有者に補充的に駐車場契約締結の機会を与えるものとして規定されているものと理解される。そして、そのように、現に駐車場契約を締結している区分所有者が、実際上今後も優先的に本件駐車場を利用することを認める反面、未だ本件駐車場につき駐車場契約を締結できずに、本件マンション外の有料契約駐車場を利用している区分所有者に対する救済措置として、補助金の交付が規定されている(第6条)というべきである。
(2) 以上の検討結果によれば、本件細則は、従前、本件駐車場の特定の区画が先着順で駐車場契約をした特定の区分所有者らにより専用使用されてきた実態を容認し、今後も、当該区画について、事実上同人らの優先的な使用態勢を維持存続することを意図して制定されたものと認められ、実質的に、特定の区分所有者に本件駐車場の特定の区画の優先使用を認める規定内容となっていると評価することができるから、そのような優先的な使用態勢を認めることは、原告が主張する半永続的な専用使用権を付与するものというかどうかはさて措くとしても、共用部分たる駐車場としての性質に反するものであることが明らかである。したがって、かかる優先的な使用態勢を内容とする規定事項は、区分所有法18条1項で定める共用部分の「管理」の範囲を超えるものであるといわなければならず、同法30条1項、31条1項にいう「規約」により定めるのが相当であるといわなければならない。
なお、本件細則のうち、前記認定の優先的な使用態勢の核心となるのは、附則1項と併せて、本件駐車場の利用者を限定する第2条の規定であり、その余の規定は、附則1項及び第2条と離れて独立して優先的な使用態勢を規定する意味を有しない上、一応各個別に区分所有法18条1項の「管理」に関する事項としての意味づけが可能であるから、本件細則のうち、「規約」事項にあたるのは、附則1項を前提とした第2条で定める事項に止まり、その余の規定が定める事項は「規約」事項にはあたらないと解する余地もないわけではない。しかしながら、前記認定のとおり、本件細則は、前記優先的な使用態勢を維持存続することを意図して規定されたものであり、かつ、前記(1)のとおり、本件細則の各規定は、附則1項及び第2条を核心としつつ、前記優先的な使用態勢の維持存続のために、互いに密接に関連し、有機的に結合していると評価できることから、これを全体的、一体的に理解するのが相当である。したがって、本件細則は、各規定を総合してその全体でもって「規約」事項を定めたものと解する。
5 もっとも、被告は、前記第2の2の(被告の主張)のとおり、当初の駐車場契約者は、民法上の賃借権を取得したにすぎず、かかる駐車場契約に基づく本件駐車場の実際上の管理運営として、賃借人に義務違反がない限り更新拒絶や解約申入れ等による契約の終了を行わないとの従前の運用を踏まえ、その現状どおりにまとめたのが本件細則であって、その制定の前後でその取扱いは全く変わっていないのであるから、本件細則の規定内容は、新たに共用部分に変更が生じるような効果をもたらしたり、駐車場契約者に特別な権利を付与するものではなく、区分所有法18条の共用部分の「管理」に関する事項であって、同法31条の「規約」事項ではない旨主張する。
確かに、被告の主張するとおり、本件細則が規定する内容は、従前の本件駐車場の使用状況及び管理、運営状況を踏まえ、その運用どおりにまとめたものといえる。しかしながら、そもそも、本件駐車場の従前の利用状況としては、前記認定のとおり、先着順で駐車場契約をした特定の区分所有者らが特定の区画を専用使用してきたというのがその実態であるから、そのような駐車場の利用状況をそのまま成文化して本件駐車場の使用方法として確立させることは、まさに、本件駐車場の共用部分たる性質に反するものといわなければならず、共用部分の「管理」の範囲を超えることは明らかである。
したがって、上記被告の主張を採用することはできない。
6 以上によれば、本件細則が規定する内容は、区分所有法31条1項に定める「規約」事項にあたり、同条項が規定する特別多数決議によるべきであったのに、被告が、平成14年3月3日に開催された被告の第13期総会において、本件細則を、出席者19名中賛成者12名の賛成多数で制定する決議したことは、同条項に反し、その効力を有しないものというべきである。
よって、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。 H16/3/25
(裁判官・松**敏) 那覇地裁 マン管センターデータベースより、引用
私見:一般的に管理規約と使用細則の違いを聞かれたら管理規約は憲法で使用細則は法律のような位置付けです、と説明することが多い。管理組合運営の骨子を規約で定め、細かいルールを使用細則で定める。今回の判例のように区分所有者権の本質を変更するような定めは使用細則ではなく、より厳格な手続きは要求される管理規約で定めるべきという判決は確かに頷けるし、今後の管理組合からの応相談時の参考にしたい。