マンション擁壁崩壊、死亡事故!!
判決要旨
マンションの斜面地の擁壁が崩れて通行人が死亡した事故について管理組合Xが、設計会社、販売会社、販売代理店に加えて管理会社Yに対しても、管理委託契約に基づく現場の管理員の点検報告義務違反を根拠に訴えたところ、裁判所は、①Yには、本件マンションの管理を受託して適切な管理業務を行うことが期待されていることや、②Yには、被告販売会社が本件書面や本件報告書を交付した趣旨が本件マンションの管理のためであり、本件書面及び本件報告書の内容の確認義務があり、③Yには、内容を確認することは容易であったこと。また、本件管理委託契約には、別表第2の点検業務の対象として、建物、諸設備及び諸施設が記載されているところ、本件管理委託契約の管理対象部分には、附属施設として、建物に当たらない車道、歩道、植込が挙げられていることを考慮すると、上記諸施設の中から、擁壁、落石防止柵、植生からなる本件斜面地を除外する解釈は合理的なものとは認められないとし、本件斜面地は上記諸施設に含まれると解するのが相当であるとし、本件管理委託契約から助言義務が導かれるかどうかに関わりなく、条理上の助言義務や本件斜面地の安定保護を損なう行為を避ける義務の発生は免れないとして、およそ4200万円の損害賠償が認められた事例。
主 文
1 被告株式会社Bは、原告A管理組合に対し、4193万3800円及びこれに対する令和2年2月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告A管理組合のその余の請求及び同人を除く原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告A管理組合に生じた費用の4分の3と被告C株式会社、被告D株式会社及び被告株式会社Eに生じた各費用の20分の9を原告A管理組合の負担とし、原告A管理組合に生じたその余の費用と被告株式会社Bに生じた費用の20分の9を、被告株式会社Bの負担とし、原告A管理組合を除く原告らに生じた費用と被告らに生じたその余の費用を原告A管理組合を除く原告らの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
別紙請求の趣旨目録記載のとおり
第2 事案の概要
1 令和2年2月5日、別紙物件目録記載の一棟の建物(以下「本件マンション」という。)の敷地の一部である斜面地(以下「本件斜面地」という。)の一部が崩落した(以下「本件崩落」という。)。本件は、本件マンションの管理組合である別紙当事者目録記載第1の1の原告(以下「原告組合」という。)及び本件マンションの区分所有者である別紙当事者目録記載第1の2から49までの原告ら(以下「原告区分所有者ら」という。)が、以下のとおり主張して、被告らに対し、民法719条に基づき連帯して別紙請求の趣旨目録記載のとおりの損害金元本(ただし、元本は損害の一部である。)及びこれに対する本件崩落発生日である令和2年2月5日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
(1)被告C株式会社(以下「被告販売会社」という。)に対する請求
被告販売会社は、被告販売会社から本件マンションの区分所有建物を購入した者ら(以下「当初購入者ら」といい、このうち原告となっているものを「原告当初購入者ら」という。)に対し本件斜面地の崩落防止に必要な措置をとることなく本件マンションの区分所有建物を分譲販売したこと、本件斜面地の風化が進んでおり危険性があることを説明しなかったのみならず「本件マンションの敷地は硬い岩盤で覆われており本件斜面地もその硬い岩盤が一体となって覆っているので、土砂などの崩落等の危険は一切ない」旨の説明(以下「本件説明」という。)をしたが、これは内容虚偽であったことから、民法709条、710条に基づき、原告らに生じた損害を賠償する義務がある。
(2)被告D株式会社(以下「被告販売代理店」という。)に対する請求
被告販売代理店は、本件斜面地の風化が進んでおり危険性があることを説明しなかったのみならず内容虚偽の本件説明をしたことから、民法709条、710条に基づき、原告らに生じた損害を賠償する義務がある。
(3)被告株式会社E(以下「被告設計会社」という。)に対する請求
被告設計会社は、本件斜面地の崩落防止に必要な措置をとることなく本件マンションを設計監理したこと、本件斜面地の風化が進んでおり危険性があることを説明しなかったのみならず内容虚偽の本件説明をしたことから、民法709条、710条に基づき、原告らに生じた損害を賠償する義務がある。
(4)被告株式会社B(以下「被告管理会社」という。)に対する請求
被告管理会社は、本件斜面地の維持管理を適切に行わなかったこと、原告らに対して適切な助言をしなかったこと及び本件崩落の前兆に気づきながら予防措置を取らなかったことから、民法709条、710条(原告組合については管理委託契約の債務不履行に基づく損害賠償請求を選択的に主張する。)に基づき、原告らに生じた損害を賠償する義務がある。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(証拠の番号は、特に断らない限り、枝番号を含む。以下同じ。)
(1)当事者
ア 原告区分所有者らは、本件マンションの区分所有者らである(甲1)。
イ 原告組合は、本件マンションの管理を行うためその区分所有者らによって構成される建物の区分所有等に関する法律3条の団体である(甲3)。
ウ 被告販売会社は、分譲マンションの販売等を目的とする株式会社であり、本件マンションの建築当初の区分所有建物の売主である。
エ 被告販売代理店は、被告販売会社の代理人として本件マンションの区分所有建物を分譲販売した株式会社である。
オ 被告設計会社は、本件マンションの設計監理を行った株式会社である。
カ 被告管理会社は、原告組合と本件マンションを対象とする管理委託契約を締結し(以下、この契約を「本件管理委託契約」という。)、本件マンションの管理をしていた株式会社である(甲8)。
(2)本件マンションの計画及び建築
ア 被告販売会社は、平成14年頃からマンションの建築を計画し、本件マンションの敷地上にあった旧建物及びその敷地を購入して、旧建物を取り壊して本件マンションの建築をすることについて具体的な調査を開始した(乙C2)。
イ 被告販売会社は、平成15年6月、地質調査の専門業者である株式会社F(以下「F」という。)に対し、本件マンションの敷地の地質調査を依頼した。Fは、調査の結果を、平成15年6月付けの2通の報告書にまとめ、被告販売会社に提供した。このうち、1通の報告書は、本件マンションの敷地のうち、本件斜面地を含む斜面や擁壁に関するものであった(以下、この報告書を「本件報告書」という。)。(甲12、18)
ウ 被告販売会社は、同年7月11日、株式会社Gから本件マンションの敷地及び敷地上の旧建物を購入した(甲2)。
エ 被告販売会社は、旧建物を取り壊した上、同年8月19日、建築確認済証の交付を受けて、同年10月1日から本件マンションの建築を開始した(甲5の1、2、甲7)。
オ 被告販売会社は、平成16年7月26日、本件マンションを完成させた(甲6)。
(3)本件マンションの区分所有建物の分譲販売
被告販売会社は、平成15年から平成17年にかけて、被告販売代理店を代理人として、本件マンションの区分所有建物を当初購入者らに分譲販売した(甲1の1から38まで、甲4)。
(4)被告管理会社による本件マンションの管理開始及び原告組合の成立等
ア 被告管理会社は、平成16年7月26日から、被告販売会社から関係書類の引渡しをうけて、本件マンションの管理を始めた。
イ 原告組合は、同年12月26日、臨時総会を開催して、役員や規約などを定めるなどして成立するとともに、被告管理会社との間で本件管理委託契約を締結した(甲8)。
(5)本件マンション建築後本件崩落前日までの本件斜面地の状態
ア 本件斜面地は、その下を走る市道(a線。以下「本件市道」という。)から約15.9mの高さであり、本件市道から約8.2mの高さまで石積み擁壁で覆われていた。同擁壁の上には、被告販売会社が設置した落石防護柵があった。落石防護柵から上部は、本件マンションの建築当時、樹木などが生い茂っていたが、本件崩落前日には、樹木は減少しており、天端まで笹などの植生があった。(甲10、乙A4)
イ 本件斜面地を含む一帯の土地は、平成23年11月22日神奈川県告示第639号により土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(以下「土砂災害防止法」という。)7条1項に基づく土砂災害警戒区域に指定された(甲23から25まで、乙A1、3)。
神奈川県土木事務所(以下「県土木事務所」という。)は、令和2年1月頃、本件斜面地の現地調査を行った(甲50の5)。
(6)本件崩落前日の出来事(甲50の2及び5)
ア 被告管理会社の従業員である本件マンションの管理員(以下「本件管理員」という。)は、令和2年2月4日午前10時頃、本件斜面地の上部の平面部(以下「本件平面部」という。)に立ち入った。本件管理員は,本件平面部に亀裂(以下「本件亀裂」という。)を発見した。
イ 本件管理員は、本件亀裂の写真を撮り、本件マンションの管理業務主任者であった被告管理会社の別の従業員(以下「本件従業員」という。)にメールで報告して相談した。しかし、これを受けた本件従業員は、原告組合にこのことを伝えなかった。
(7)本件崩落の発生
令和2年2月5日午前7時58分頃、本件斜面地のうち、落石防護柵より上部が幅約9m、高さ約10m、厚さ約1.5mにわたって崩落した。亡B(以下「本件被害者」という。)は、本件市道を通行していたところ、崩落した土砂に巻き込まれて死亡した。(甲9、11)
(8)原告組合の本件報告書の発見と内容の確認
原告組合は、本件崩落発生後、本件マンションの管理員室において本件報告書を発見し、その内容を確認した。本件報告書には、要旨以下の内容が記載されていた。(甲12)
ア 本件斜面地について、風化により強度が低下している部分がある。
イ 敷地内の雨水排水処理を確実に行うため、斜面上部には、側溝を設置するか、若しくは段差をつけ、斜面部への雨水などの流入を防止する必要がある。斜面の雑木・雑草の適宜な除去を行い、木根による異方性崩壊の促進を抑制することが望ましい。
ウ 本件斜面地には、崩壊地が数か所存在しているため、落石防護工(ストーンガードなど)による対策を施すことが望ましい。また、本件斜面地の樹木の全面除去を行うならば、落石防護網工(ロックネットなど)や斜面保護工(モルタル吹き付け工)による対策を施すことが望ましい。
エ 本件マンションの計画を考慮した斜面安定解析結果によれば、必要安全率は満足しており安定性は確保されている。
(9)本件崩落の原因(甲10、11、17)
本件崩落の原因は、本件斜面の地盤が風化したことにある。地盤が風化した原因は、放射冷却及び強い季節風が相まった乾湿、低温、凍結、強風の複合的作用にある。本件斜面地が東北東向きで日当たりが悪かったこと及び土層深(厚さ)が周辺の標準よりもやや小さかったことなどが原因で、風化防止作用としての植生が貧弱であったことも風化の原因である。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)被告販売会社の不法行為責任の有無(争点1)
(原告らの主張)
ア 被告販売会社は、本件報告書により本件斜面地の風化が進行していることを知っていたのであるから、条理上、本件斜面地に風化対策を行って崩落防止に必要な措置をとった上で販売するか、当初購入者らに対し、本件マンションを分譲販売する際に、本件報告書記載の本件斜面地の風化の状況を説明すべき義務を負っていた。そうであるにもかかわらず、被告販売会社は、本件斜面地の風化対策を一切せず、また、本件報告書記載の本件斜面地の風化の状況を説明しないばかりか、内容虚偽の本件説明を行った。
イ 本件斜面地について安全性を確保すべき条理上の義務は、当初購入者ら以外の第三者に対しても負う注意義務であるし、当初購入者らに行う説明は、契約書や重要事項説明書の記載等を通じて転得者に引き継がれていくため、原告当初購入者ら以外の原告区分所有者らに対しても、注意義務違反が認められるべきである。
ウ 以上のとおりであり、被告販売会社は不法行為責任を免れない。
(被告販売会社の主張)
ア 否認ないし争う。本件マンションの分譲販売時において、原告らが主張する風化対策を行う必要性はなく、本件崩落も予見できないので、被告販売会社は条理上の義務を負わない。被告販売会社は、地質調査及び崩落の危険性の評価について専門業者であるFに委託し、その報告を踏まえて、本件斜面地に落石防護柵を設置するなどしており、十分な措置を講じていた。
イ また、被告販売会社は、被告管理会社に対し、本件報告書を交付するとともに、本件斜面地の樹木及び雑草については定期的なメンテナンスが必要であることを説明し、当初購入者らに対しても、本件マンションの敷地の北、東側には擁壁があり、原告組合において管理を行う必要があることを重要事項説明書に記載するとともに説明している。
ウ 本件崩落の原因は原告ら及び被告管理会社が本件斜面地の維持管理をしなかったことにある。
(2)被告販売代理店の不法行為責任の有無(争点2)
(原告らの主張)
被告販売代理店は、当初購入者らに対し、条理上、本件報告書記載の本件斜面地の風化の状況を説明すべき義務を負っていた。そうであるにもかかわらず、被告販売代理店は、本件報告書記載の本件斜面地の風化の状況を説明しなかったばかりか、内容虚偽の本件説明を行った。さらに、当初購入者らに行う説明は、転得者に引き継がれていくため、原告当初購入者ら以外の原告区分所有者らに対しても、注意義務違反が認められるべきである。
以上のとおりであり、被告販売代理店は不法行為責任を免れない。
(被告販売代理店の主張)
否認ないし争う。被告販売代理店は、本件報告書の内容は知らないし、本件斜面地に崩落の危険性があることを認識しておらず、認識することもできなかったので、当初購入者らに対して、条理上の説明義務を負わない。また、本件説明はしていない。さらに、説明対象ではない原告当初購入者ら以外の原告区分所有者らに対して説明義務違反が認められる余地はない。
(3)被告設計会社の不法行為責任の有無(争点3)
(原告らの主張)
被告設計会社は、本件報告書の内容を把握した上で、本件マンションの設計監理を委託されていたのであるから、条理上、本件斜面地についても動的コーン貫入試験や弾性波探査を行うなどの安全性を確保するための調査を実施した上、本件斜面地につき風化対策をとる義務があった。そうであるにもかかわらず、被告設計会社はこれらの義務を怠った。また、被告販売代理店の従業員が本件説明を行ったのは、被告設計会社からの説明が基になっている以上、被告設計会社も責任を負う。
以上のとおりであり、被告設計会社は不法行為責任を免れない。
(被告設計会社の主張)
否認ないし争う。Fからは本件斜面地の落石の危険性の指摘を受けたにとどまり、崩落の危険性の指摘は受けていない以上、本件斜面地の風化対策までとる必要はなかった。
(4)被告管理会社の不法行為責任又は債務不履行責任の有無(争点4)。
(原告らの主張)
ア 被告管理会社は、条理上、又は、本件管理委託契約に基づいて、本件報告書を精査した上で、本件斜面地の崩落防止のために適切な維持管理を行い、さらに、必要な措置を講じるべきことを原告らに対して助言すべき義務を負っていた。
イ また、本件崩落発生の前日に、本件管理員が本件亀裂を発見しているのであるから、被告管理会社は、本件崩落を防止するため、条理上、又は、本件管理委託契約上、崩落予防措置をとる義務があった。
ウ そうであるにもかかわらず、被告管理会社はこれらを怠ったので、不法行為責任又は債務不履行責任を負う。
(被告管理会社の主張)
本件管理委託契約上、本件マンションの敷地は管理対象ではあったが、具体的な管理業務の内容が定められていなかったので、本件斜面地についての維持管理を被告管理会社は受託していなかったし、維持管理について助言すべき義務もなかった。本件報告書は、被告販売会社から原告組合に引き渡すべき書類に含まれていたもので、被告管理会社はこれを保管する義務のみを負っており内容を精査する義務はなかった。仮に本件報告書の内容を認識したとしても、本件斜面地の崩落の危険性を認識することはできなかった。また、本件亀裂の発見をもって、本件斜面地の崩落を予見することはできなかったため、原告組合に何らかの措置を講じるよう助言する義務もなかった。
(5)原告らの損害額(争点5)
(原告組合の主張)
本件崩落の発生に伴い、土砂撤去費用として112万2000円、交通誘導員配置費用として520万6300円、復旧工事の設計業務委託費用として939万4000円、応急復旧工事費用として2113万7600円、看板設置費用として64万0200円、建築基準法12条5項の規定に基づく報告のための調査費用として62万3700円の合計3812万3800円の負担を余儀なくされた。これに本件訴訟に係る弁護士費用381万円(上記損害の合計の約1割)を加えると、原告組合の損害は、合計4193万3800円となる。
なお、上記損害は、本件崩落による損害の一部であり、本件被害者の遺族に対して支払った損害金は含まれていない。
(原告区分所有者らの主張)
ア 原告区分所有者ら全員の損害
上記原告組合の主張のとおりであり、同損害は原告区分所有者ら全員の損害総額に当たる。なお、原告区分所有者らの請求は一部請求であり、本件被害者の遺族に対して支払った損害金は含まれていない。
イ 原告区分所有者ら各人の損害
(ア)本件マンション価値下落として一戸当たり100万円の損害
本件崩落により本件マンションは瑕疵物件となり、事実上売却が不可能となった。原告区分所有者らは、本件被害者の遺族から損害賠償請求を受けていたところ、一戸当たりの負担は約350万円となることから価格下落による損害は350万円以上と考えられる。そのうちの一部請求として100万円(原告区分所有者らが、共有持分権者である場合には、持分割合を乗じた金額)を請求するものである。
(イ)精神的損害として一戸当たり30万円の損害
本件崩落により、原告区分所有者らは、自身らの生命身体に対する危険が生じないか不安に感じるなどの精神的苦痛を受けた。これを慰謝するために相当な慰謝料額は一戸当たり30万円を下らない。なお、原告区分所有者らが共有持分権者である場合には一人当たり15万円として計算するのが相当である。
(ウ)弁護士費用
上記(ア)、(イ)の合計の1割が相当である。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実(後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の各事実が認められる。)
(1)被告販売会社の行為について
ア 被告販売会社は、平成15年7月から本件マンションの建築工事に着手し、平成16年7月までに本件マンションの建築工事を終了して本件マンションを完成させた。
その間、被告販売会社は、本件報告書の内容に従い、本件斜面地の天端部分等に側溝を設けるとともに本件斜面地の石積み擁壁の上部に落石防護柵を設置した。また、本件斜面地の景観改修及び林層保護を目的として本件斜面地の法面改修をすることとした。その内容は、急勾配の法面保護のために主な既存樹木は残すこととした上での既存樹木の整枝、せん定、雑草、ツタ類の除去を行うというものであった。(乙A6から9まで)
イ 被告販売会社は、平成16年7月26日、被告管理会社の担当者に対し、工事完成引渡書類一覧表と題する書面に、目次として、書類内容を記載した上で、工事完成引渡書類(以下「本件関係図書」という。)を引渡した。上記目次7には、近隣関係引継資料が明記されており、近隣関係引継資料と題する書面には、「施主サイドから管理会社・管理組合に引継をしなければならない事項。1.側崖部分の既存植込みについては、斜面安定保護の為、伐採しないほうが宜しいと思います。定期的な樹木類のメンテナンスが必要です。2.同 石積部分についても、雑草類の定期的なメンテナンスが必要です。」と記載した書面(以下「本件書面」という。)があった。(甲6の3、乙A10)
ウ 被告販売会社は、目次には明記していなかったものの、本件関係図書の一部として、本件報告書を引き渡した。(甲6、乙A13)
(2)被告販売代理店の行為について(乙B1、証人C、弁論の全趣旨)
ア 被告販売代理店の従業員は、平成15年から平成17年にかけての本件マンションの分譲販売当時、原告当初購入者らの一部に対し、地震などでマンション自体が崩壊することはないという趣旨で、地盤は問題がないという説明をした。
イ 被告販売代理店の従業員は、被告販売会社から、本件報告書記載の本件斜面地の状況を聞いていなかった。
ウ 被告販売代理店が当初購入者らに対して交付した土地付区分建物重要事項説明書には、管理の委託先として被告管理会社が指定されるとともに、その他事項として、東側及び北側には擁壁があり、その維持管理は原告組合が行うことが明記されていた(甲4の2)。
(3)被告設計会社の行為について(乙C2)
ア 被告設計会社は、被告販売会社の委託を受けて、平成15年3月、本件マンションの建築行為について県土木事務所に相談をした。被告設計会社は、県土木事務所から、都市計画法29条の開発許可は不要である旨の回答を得た。
イ 被告設計会社は被告販売会社の代理人として、同年6月10日、逗子市長に対し、逗子市まちづくり条例23条1項の事前協議を申請して、同年7月31日、逗子市長から協議終了の確認通知書を受領した(乙C3)。
ウ 被告設計会社は、同年6月、本件報告書の内容を確認した。
エ 被告設計会社は、同年7月11日、被告販売会社との間で本件マンションの設計契約を締結し、同年9月30日までに設計業務を完成させた。
オ 被告設計会社は被告販売会社の代理人として、同年7月、本件マンションの建築確認申請をなし、同年8月19日、建築確認済証を取得した(甲5)。
カ 被告設計会社は、同年10月1日から監理業務を開始した。
キ 被告設計会社は被告販売会社の代理人として、平成16年7月1日、本件マンションの建築確認検査済証を取得するとともに、同月31日、逗子市長に対し、開発事業の完了届出を提出し、同月22日までに、同市長から、適合証を受領した。
(4)被告管理会社の行為について
ア 被告管理会社は、本件マンションの分譲販売が開始された平成15年当時から、本件マンションの管理業務を将来成立予定の原告組合から受託することになること及び原告組合が被告管理会社以外の者に管理を委託できないことを知っていた。(甲4、7、31)。
イ 被告管理会社は、平成16年7月26日、本件関係図書を受領したが、本件関係図書の内容を確認する義務がないとの理解の下、その内容を確認しなかった。
ウ 被告管理会社は、本件管理委託契約に係る契約書を作成して、これを平成16年12月26日に成立した原告組合に対して示し、その承諾を得て本件管理委託契約を締結した(甲8、33、34、37)。
本件管理委託契約2条には、管理対象部分として敷地(本件斜面地が含まれる。)が記載されていたが、管理事務の内容及び実施方法を定める3条には、本件斜面地を明記した記載はされていなかった。しかし、本件管理委託契約3条の別表第2には、管理員業務として、点検業務が記載され、その対象には諸設備及び諸施設が含まれていた。さらに、本件管理委託契約2条の附属施設には、建物には当たらない車路、歩道、植込、フェンス、専用庭などが記載されていた。(甲8)
エ 被告管理会社の担当者は、平成17年1月23日、原告組合の初代理事長であった原告G12に対し、本件関係図書は、被告管理会社が管理員を置いている管理員室で保管してあると説明した上で、本件関係図書を引き渡した(甲34、乙A13、原告G12(2頁))。
オ 被告管理会社は、本件斜面地の植生の定期的なメンテナンスをしていないし、植生を含め本件斜面地の点検を行っていなかった(甲20、50の5)。
被告管理会社は、平成24年11月頃及び平成30年2月頃に、原告組合からの委託に基づき、本件斜面地の植生が風化防止のために必要であることを認識しないまま、本件斜面地の相当数の樹木の伐採や草刈り工事を行った(甲39、40、42、43、46、48、50の2及び5、乙A4、乙D2から5まで、原告G34)。
本件管理員は、本件従業員に対し、本件斜面地の枯れ木が倒れた場合には、本件市道にまで落下する危険があると指摘したり、ツタが伸びているといった状況に気付いたときには、本件斜面地に立ち入って、一種のサービスとして除草作業を行ったりしていた。(甲50の2及び5)
2 争点1(被告販売会社の不法行為責任の有無)について
(1)原告らは、被告販売会社が本件報告書により本件斜面地の風化が進行していることを知っていたのであるから、条理上、本件斜面地に風化対策を行って崩落防止に必要な措置をとった上で販売すべき義務を負っていた旨の主張をする。
しかし、前提事実のとおり、本件報告書は、本件斜面地には風化により強度が低下している部分があることや、落石防護工による対策を推奨していることを示しているものの、斜面保護工(モルタル吹き付け工)については、本件斜面地の樹木の全面除去を行う場合と明記しているので、本件報告書からは、植生の適正な維持管理により風化を防止することができることをいうものと理解できる。
したがって、原告らが主張する本件斜面地の風化対策の必要性は、本件報告書の記載内容からは読み取れないので、本件報告書の内容を前提として、被告販売会社に条理上の風化対策を行う義務が生じる旨の主張は採用できない。
原告らは、本件報告書の記載内容から風化による崩落の危険性が読み取れる旨の主張をし、その主張に沿う意見書等(甲27から29まで)を提出する。
しかし、上記意見書等は、回答者が有する専門的知見を根拠に本件報告書の結論を超える意見を述べているものであり、被告販売会社が本件報告書の記載内容から風化による崩落の危険性を読み取れることの理由には当たらない。
(2)原告らは、被告販売会社は、原告当初購入者らに本件マンションを分譲販売する際に、本件報告書記載の本件斜面地の状況を説明すべき義務があったにもかかわらず、この義務に違反し、本件説明をした旨の主張をする。主張に沿う証拠(甲34、39、40、46、48、49、原告G12、原告G5、原告G34)がある。
しかし、本件報告書の内容は既に述べたとおりであり、本件斜面地の植生の維持管理は、原告組合又は被告管理会社の管理によってなされることが通常期待されているので、本件マンションの分譲販売する際に説明すべき義務があったとは認められないし、宅地建物取引業法35条1項の重要事項に該当するとも認められない。
また、「本件マンションの敷地は、硬い岩盤で覆われており、本件斜面地もその硬い岩盤が一体となって覆っているので、土砂などの崩落等の危険は一切ない」旨の説明(本件説明)をしたとの主張については、被告販売代理店の従業員が、本件マンションの敷地が硬い岩盤であることを説明するにとどまらず、本件斜面地が硬い岩盤に覆われていると説明し、植生の維持管理をしなくとも土砂崩落等の危険が一切ないとの説明をする合理的理由が認められないほか、発言の具体的内容を裏付ける客観的な証拠がないので認められない。
さらに、本件報告書の存在及び内容を知らなかったことを理由に本件斜面地の適正な維持管理ができなかったことをいう主張については、被告販売会社は、本件書面及び本件報告書を、被告管理会社を通じて原告組合に対し引渡しているのであるから、被告販売会社に責任はないといわざるを得ない。
(3)原告らは、本件崩落の原因には、土層深(厚さ)が周辺の標準よりもやや小さかったことなど崩壊しやすい地盤にあり、本件報告書ではその調査がなされていないか結論に誤りがあるので、改めて被告販売会社は、本件斜面地の地盤を調査するか、崩壊しやすい地盤を前提とした風化対策を講じるべきであった旨の主張をする。主張に沿う意見書等(甲27から29まで)がある。
しかし、主張の根拠としている意見書等の内容のうち、Fの責任をいう部分は被告販売会社の責任がないことを裏付けるものといえること、原告らが指摘する崩壊しやすい地盤は、本件マンションの竣工から本件崩落までの15年余りの風化の進行により生じた可能性が否定できないこと、上記意見書等が結論として述べる一般的に斜面は法面工事をすべきとの点については、そのような規範が当時一般的に存在したことが認められないので上記意見書等の存在及び内容を踏まえても、被告販売会社について原告らの主張の義務は認め難い。
(4)以上のとおりであり、原告ら主張の被告販売会社の義務違反は認められないので、同人の不法行為責任は認められない。
3 争点2(被告販売代理店の不法行為責任の有無)について
(1)原告らは、被告販売代理店の従業員が本件報告書記載の本件斜面地の状況を説明すべき義務を負っていた旨の主張をするが、被告販売代理店が本件報告書記載の本件斜面地の状況を知っていたとは認められないので、説明義務は認められない。
(2)原告らは、本件説明が違法である旨の主張をするが、これが採用できないことは上記2で説明したとおりである。
(3)以上のとおりであり、原告ら主張の被告販売代理店の義務違反は認められないので、同人の不法行為責任は認められない。
4 争点3(被告設計会社の不法行為責任の有無)について
(1)原告らは、被告設計会社は、本件報告書の内容を把握した上で、本件マンションの設計監理を委託されていたのであるから、条理上、本件斜面地についても、動的コーン貫入試験や弾性波探査を行うなど安全性を確保するための調査を実施した上、本件斜面地につき風化対策をとる義務があった旨の主張をする。
しかし、前提事実のとおり、本件報告書の内容は、本件斜面地について、地盤が軟弱であることから崩落の危険性があることをいうものではなく、風化により強度が低下しているところがあるものの、植生の維持管理をすることによって斜面保護工(モルタル吹き付け工)までの必要性はないことをいうものであるから、本件報告書の内容によって、原告ら主張の調査や風化対策をとるべき必要性は認識できない。また、本件マンションの設計監理の委託内容として、本件斜面地について原告ら主張の調査や工事が含まれていると解釈できる法規上、契約上の根拠もない。
したがって、上記原告らの主張は採用できない。
(2)原告らは、被告販売代理店の従業員が本件説明を行ったのは、被告設計会社からの説明が基になっている以上、被告設計会社も責任を負うと主張する。
しかし、上記3のとおり、被告販売代理店について不法行為責任は認められないことから、これが認められることを前提とする原告らの上記主張は採用できない。
(3)以上のとおりであり、原告ら主張の被告設計会社の義務違反は認められないので、同人の不法行為責任は認められない。
5 争点4(被告管理会社の不法行為責任又は債務不履行責任の有無)について
(1)前提事実及び上記1の認定事実によれば、以下の各事実が認められるので、被告管理会社は、条理上、原告組合に対して、本件斜面地の崩落防止のための助言を行うべき義務及び本件斜面地の安定保護を損なうような行為を避ける義務を負っていたと認められる。
ア 被告管理会社は、被告販売会社、当初購入者ら及び原告組合から、本件斜面地の管理を受託する管理会社として指定されており、その管理契約の内容についても本件マンションの管理に必要なものとするように委ねられていた。
イ 被告管理会社は、被告販売会社から、本件斜面地の植生が安定保護のために必要であり、定期的な維持管理が必要である旨記載された本件書面を受領しており、その内容を確認することは容易であった。
ウ 被告管理会社は、被告販売会社から、本件斜面地の植生が安定保護のために必要であり、定期的な維持管理や本件斜面地の点検が必要であることが理解できる本件報告書を受領しており、その内容を確認することは容易であった。
(2)被告管理会社は、上記義務を負っていたにもかかわらず、本件書面及び本件報告書の内容を確認しないまま,本件管理委託契約の内容を決定して原告組合との間で本件管理委託契約を締結し、本件斜面地の管理は業務の対象外との認識の下、従業員をして管理業務も助言も行わず、本件斜面地の安定保護を意識することなく樹木の伐採や除草作業を行っていたことが認められるので、上記義務に違反したものというほかなく、不法行為責任は免れないというべきである。
(3)これに反する被告管理会社の主張は以下のとおり採用できない。
ア 被告管理会社は、本件管理委託契約は、本件斜面地の維持管理を内容としていないので、原告組合に対して本件斜面地に関する義務は負わない旨の主張をする。主張に沿う被告管理会社の従業員の尋問調書(甲50の1、2、5)がある。
しかし、被告管理会社は、原告組合が本件マンションの管理業務のすべてを被告管理会社に委託する以外に選択する余地のないことを知っている以上、本件マンションの管理に必要な業務を本件管理委託契約の内容とすべきであり、仮にその内容としないのであれば適切な助言をすべき義務があったというべきである。また、本件管理委託契約には、別表第2の点検業務の対象として、建物、諸設備及び諸施設が記載されているところ、本件管理委託契約の管理対象部分には、附属施設として、建物に当たらない車道、歩道、植込が挙げられていることを考慮すると、上記諸施設の中から、擁壁、落石防止柵、植生からなる本件斜面地を除外する解釈は合理的なものとは認められないので、本件斜面地は上記諸施設に含まれると解するのが相当である。さらに、本件管理委託契約から助言義務が導かれるかどうかに関わりなく、被告管理会社が本件書面及び本件報告書を受領している以上、条理上の助言義務や本件斜面地の安定保護を損なう行為を避ける義務の発生は免れないと解される。
イ 被告管理会社は、本件書面及び本件報告書の内容を確認する義務はなかった旨の主張をする。
しかし、被告管理会社が本件マンションの管理を受託して適切な管理業務を行うことが期待されていることや、被告販売会社が本件書面や本件報告書を交付した趣旨が本件マンションの管理のためにあることは理解可能であることからすれば、本件書面及び本件報告書の内容の確認義務が肯定できるので、それを怠ったことによる責任は免れないというべきである。
ウ 被告管理会社は、本件書面及び本件報告書の内容を認識しても本件崩落の発生は予見できない旨の主張をする。
しかし、本件書面は、被告管理会社宛に、本件斜面地の安定のために植生の維持管理が必要であることを明記したものであり、本件報告書の内容は、風化防止策として植生の存在が重要であることを指摘したものであるので、植生を伐採したり、維持管理をしないでいたりする場合には本件斜面地の風化が進行するなどして不安定となり崩落に至ることは予見可能であると認められる。
エ 被告管理会社は、本件報告書の内容はそもそも不十分であり、本件斜面地は、植生の維持管理にかかわらず、表層の風化を防ぐことができなかったので、被告管理会社の義務違反は本件崩落との間に因果関係はない旨の主張をする。主張に沿う意見書(乙D8)がある。
しかし、上記意見書の内容は、より調査をして植生の維持管理に関わらない崩落防止工事をとるべきことを記載しているにとどまり、植生の維持管理にかかわらず表層の風化を防ぐことができないことを記載したものではないので、因果関係を否定するに足りるものではない。加えて、証拠(甲17、18、28、乙C2)及び弁論の全趣旨によれば、本件斜面地は遅くとも昭和43年頃に宅地造成の結果として平成15年当時の植生が生い茂った石積み擁壁のある状態となり、その後、特段の風化対策も取られることなかったが、崩落事故は発生しなかったことがうかがえることを前提とすると、少なくとも平成15年当時に被告管理会社主張の風化対策を取るべき具体的必要性があったとは認められないし、植生の維持管理が無関係であるとも認め難いというべきである。
(4)原告らは、本件崩落発生の前日に、本件管理員が本件亀裂を発見しているのであるから、被告管理会社は、本件崩落を防止するために、条理上、又は、本件管理委託契約上、予防措置をとる義務があった旨の主張をする。
これまで述べたとおり、被告管理会社に義務違反が認められる以上、上記主張は判断することを要しない。
6 争点5(原告らの損害額)について
(1)原告組合の損害について
ア 証拠(甲13、15、16)及び弁論の全趣旨によれば、本件崩落により、原告組合は以下の(ア)から(カ)までの各費用を負担したこと、各費用は、本件崩落と相当因果関係のある損害であることが認められる。
(ア)土砂撤去費用
本件崩落後の土砂撤去費用として112万2000円を要した。
(イ)交通誘導員配置費用
本件崩落後の交通誘導員の配置費用として520万6300円を要した。
(ウ)復旧工事の設計業務委託費用
本件崩落後の本件斜面地の復旧工事の設計業務委託費用として939万4000円を要した。
(エ)応急復旧工事費用
本件崩落後の本件斜面地の応急復旧工事費用として2113万7600円を要した。
(オ)看板設置費用
本件崩落後の本件市道の通行等の安全確保のための看板の設置費用として64万0200円を要した。
(カ)建築基準法12条5項の規定に基づく報告のための調査費用
原告組合は、本件崩落後、神奈川県知事から本件マンションの安全性について建築基準法12条5項の規定に基づく報告を求められ、この報告のために必要な調査をハウスプラス確認検査株式会社及び被告管理会社に依頼し、62万3700円の費用を要した。
(キ)小計
上記(ア)から(カ)までの合計額は3812万3800円となる。
イ 弁護士費用について
上記アの合計額の約1割に相当する381万円が原告組合の損害に当たることをいう同人の主張は理由があるので、同額を認めるのが相当である。
ウ 合計
上記ア及びイの合計額は4193万3800円となり、同額が損害金の元本と認められる。
(2)原告区分所有者らの損害について
ア 原告区分所有者ら全員の損害について
上記(1)のとおり、原告組合の損害が認められることを踏まえると、これに加えて原告区分所有者ら全員の損害が生じているとは認められない。
イ 原告区分所有者ら各人の損害について
(ア)本件マンション価値下落について
原告区分所有者らは、本件崩落の発生により、本件マンションは瑕疵物件となり、事実上売却が不可能となったこと、この損害に本件被害者の遺族らからの損害賠償請求額を加算したものの一戸当たりの負担は約350万円であることを考慮すると価格の下落による損害は350万円以上と考えられる旨の主張をする。原告区分所有者らは、主張に沿う証拠(甲9、22、39から41まで)を提出する。
しかし、本件斜面地については、復旧工事がなされており具体的な崩落の危険性は認められないこと、本件崩落によって原告組合が被った損害は回復が見込まれること、以上を踏まえてもなお本件マンションの区分所有建物の価格が下落していることを認めるに足りる客観的証拠はないことを前提とすると、本件マンションの区分所有建物の価値下落による損害は認められない。
(イ)精神的損害について
原告区分所有者らは、本件崩落が発生したことや、本件崩落により原告区分所有者らが生命身体に対する危険が生じないか不安に感じるなどの精神的苦痛を受けたので、これが精神的損害として認められるべき旨の主張をする。
しかし、原告区分所有者らに財産的損害は認められないし、本件崩落は、原告区分所有者らに対する生命身体に対する危険を具体的に生じさせたものではなく、その後、本件斜面地については復旧工事が終了していることを踏まえると、原告区分所有者らが、本件崩落により種々の精神的苦痛を受けたとしても、本件記録上の全証拠によっても、相当因果関係のある損害であるとは認められない。
7 結論
よって、原告組合の請求のうち被告管理会社に対する請求(4193万3800円及びこれに対する令和2年2月5日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払)は理由があるのでこれを認容し(なお、原告組合の主張する請求原因に関して被告管理会社に債務不履行損害賠償責任が認められるとしても認容すべき損害額が上記金額を超えるものとは認められない。)、原告組合のその余の請求及び原告組合を除く原告らの請求はいずれも理由がないのでこれらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
2023/12/15 横浜地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 小西洋 裁判官 谷藤一弥 裁判官 門野亜美 マン管センターデータベースより、引用
私見:この事故は、あってはならない事故で悲しい出来事ではあるが、その責任の所在はどこか?ということである。裁判所の判断は、「本件管理委託契約の管理対象部分には、附属施設として、建物に当たらない車道、歩道、植込が挙げられていることを考慮すると、上記諸施設の中から、擁壁、落石防止柵、植生からなる本件斜面地を除外する解釈は合理的なものとは認められない。」であるが私も全く同感である。設計事務所、分譲会社、管理会社も物件の物理的現況をしっかり把握し、リスク管理を行っていればどこかのフィルターで今回の事故は回避できたのではないかと考える。