役員の選任・解任

マンションの判例

当事者

原告:区分所有者

被告:管理組合

主文

1 本件訴えのうち、令和5年1月14日、開催の被告の理事会においてなされた原告に対する役員解任決議が無効であることの確認を求める部分を却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 令和5年1月14日開催の被告の理事会においてなされた原告に対する役員解任決議は無効であることを確認する。
2 令和5年2月25日開催の被告の臨時総会においてなされた原告に対する役員解任決議は無効であることを確認する。

第2 事案の概要
1 事案の要旨
 被告は、東京都××-×-××所在の区分所有建物であるY(以下「本件マンション」という。)の管理組合であり、原告は、本件マンションの一室の区分所有者であり、被告の副理事長だったものである。
 本件は、原告が、被告の理事会及び臨時総会における原告に対する役員解任決議は、いずれも原告の役員辞任後にされたものであるから無効である旨主張して、被告に対し、前記決議の無効確認を求める事案である。

2 前提事実
 証拠(枝番がある場合は特記なき限り全ての枝番を含む。以下同じ。)等を掲記していない事実は、当事者間に争いがない事実、当裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。
(1)当事者
 被告は、本件マンションの管理組合であり、令和5年2月25日時点において、組合員総数は31名、議決権総数は32であった(乙7)。
 原告は、本件マンションの×××号室(以下、同建物の各居室を、部屋番号に応じて単に「×××号室」などという。)の区分所有者であり、原告代表者は、△△△号室の区分所有者である。
(2)原告に対する解任決議の経緯
ア 原告は、被告の副理事長に就任していたところ、令和4年12月31日、被告に対し、同日をもって副理事長を辞任する旨通知した(以下、この通知を「本件副理事長辞任通知」という。)(甲1)。
イ 被告は、令和5年1月14日、理事会を開催し、原告を役員から解任する旨の決議(以下「本件理事会決議」という。)を行った(甲4)。
ウ 原告は、令和5年2月1日、被告に対し、同年1月31日をもって理事を辞任する旨通知した(以下、この通知を「本件理事辞任通知」という。)(甲5)。
エ 被告は、令和5年2月25日、臨時総会(以下「本件臨時総会」という。)を開催し、原告を理事から解任する旨の決議(以下「本件総会決議」といい、本件理事会決議と併せて「本件各決議」という。)を行った(甲8)。
(3)被告の管理規約(以下「本件管理規約」という。)の定め
ア 本件管理規約35条は、被告の役員として、副理事長1名、理事5~7名等を置く旨定める(同条1項)とともに、理事等は総会において、副理事長等は役員の互選により、それぞれ選任する旨定めている(同条2項、3項)(甲13)。
イ 本件管理規約36条1項は、役員の半数を輪番制により改選する旨定めており、同条2項は、任期の満了又は辞任によって退任する役員は、後任の役員が就任するまでの間、引き続きその職務を行う旨定めている(以下、辞任役員が後任役員就任までの間有する権限を「辞任役員残存権限」という。)(甲13)。また、令和5年9月以降の2年間は、原告が輪番制の理事になる順番であった(甲10)。
ウ 本件管理規約47条は、総会の議決事項として、役員の解任(同条10号)等を定めるほか、「その他の管理組合の運営又は業務の執行に関する重要事項」(同条12号)及び「その他組合員の共同の利益にかかる重要事項」(同条13号)を定めている(甲13)。
(4)被告の管理組合運営規程(以下「本件運営規程」という。)の定め
 令和5年9月30日開催の定期総会において、本件運営規程が改正され、役員を解任された組合員(法人の場合はその代表者も含む。)は、その翌年から5年間は役員に就任することができない旨の定め(本件運営規程1条5号)が追加された(甲11)。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)争点1(確認の利益)について
(原告の主張)
 本件各決議が有効である場合、原告は、翌年から5年間役員に就任することができなくなる(本件運営規程1条5号)から、本件各決議の有効性に係る確認の利益がある。
(被告の主張)
 既に原告の後任役員が選任されており、原告が役員に選任される余地はないから、本件各決議の有効性に係る確認の利益はない。
(2)争点2(本件各決議の有効性)について
(原告の主張)
 本件各決議は、原告が理事及び副理事長の地位を辞任した後で行われており、無効である。
(被告の主張)
ア 原告代表者は、本件マンションの住人に対する数々の迷惑行為に及んだ上、原告の役員解任を議題とする理事会及び臨時総会が招集されるや、合理的理由なく決議前に辞任届を提出したところ、これは権利濫用に該当する。被告は、こうした経緯を踏まえ、原告の辞任届を受理せず保留した上で本件各決議を行っており、同決議は有効である。
イ 仮に本件各決議に先立つ原告の辞任が有効であるとしても、原告は、後任役員就任までの間、辞任役員残存権限を有するところ、本件各決議は、原告の辞任役員残存権限を失わせる趣旨のものとして有効である。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)本件マンションにおけるトラブル等
ア 本件マンションにおいては、遅くとも令和4年10月24日以降、複数の住民から、原告代表者が夜間に壁を叩いたり大声を出したりして騒音を生じさせている旨申出があった。被告の担当者は、同月25日、原告代表者に連絡したところ、原告代表者は、×××号室の階下にある□□□号室からお香やたばこの煙が上がってきているため、大声を出したり、大きな音を出したりしてやめさせようとした旨返答した。
 その後も原告代表者による騒音は収まらず、令和4年10月30日には、住民が騒音につき警察へ通報する事態となった。また、同年11月10日には、住民から、原告代表者が□□□号室のドアをどんどん叩いて怒鳴っており、怒鳴り声が怖くて注意できない旨の申出もあった。
 以上のような事態を受けて、被告の理事長等は、令和4年11月19日、□□□号室を訪問したものの、たばこの匂いやお香を焚いた形跡は一切確認できなかった。被告の理事長等は、原告代表者にその旨伝え、□□□号室を確認する機会を与えたが、原告代表者は、鼻の調子が悪いため匂いが分からないなどと述べた。
(乙2、4、弁論の全趣旨)
イ 原告代表者は、令和4年11月18日、□□□号室の扉に、本件マンションでお香を焚くことは禁止されており、真上の部屋の居住者に対する損害賠償等が必要である旨の、被告副理事長名義の張り紙をした(乙4)。
ウ 原告代表者は、令和4年12月26日付けで、□□□号室の住民に対し、同住民が頻繁にお香を焚いたり喫煙をしたりしているとして、×××号室の居住者である原告に対して500万円、他の住民(30戸)に対して各50万円、合計2000万円の損害賠償を請求する旨の、差出人欄に被告副理事長の肩書を付した内容証明郵便を送付した。しかし、原告は、同内容証明郵便の送付につき、他の住民の承諾を得ていなかった。(乙6、弁論の全趣旨)
(2)本件理事会決議に係る経緯等
ア 原告は、本件副理事長辞任通知に先立つ令和4年12月27日、原告の役員解任等を議題とする、令和5年1月14日開催の理事会の招集通知を受けた(乙3)。
イ 令和5年1月14日開催の理事会においては、〔1〕原告が協調性に欠けることや騒音を発生させていることなどを理由に、原告を役員から解任する旨や、〔2〕被告が騒音等を発生させる者に対して必要な措置をとれるよう本件管理規約を改正する必要があり、これにつき臨時総会で提案する旨、〔3〕騒音等により住民の生活が脅かされているため、防犯カメラ設置等につき警備会社から見積書をとる旨、〔4〕原告代表者が□□□号室の玄関ドアを叩いて傷付けたことについて損害賠償を求める旨等の議案が、いずれも賛成票7、反対票1及び無効票1により可決された。これらのうち反対票は、いずれも原告によるものであった。(乙5、弁論の全趣旨)
(3)本件総会決議に係る経緯等
ア 被告は、令和5年2月11日付けで、組合員に対し、同月25日開催の本件臨時総会開催のお知らせを送付した(乙16)。
イ 原告は、令和5年2月12日以降、本件総会決議に先立って、被告に対し、本件理事辞任通知を送付した(乙15)。
ウ 令和5年2月25日の本件臨時総会において、本件総会決議は、賛成票22、反対票2、無効票1により可決された。これらのうち反対票は、原告及び原告代表者によるものであった。(乙7、弁論の全趣旨)
エ 原告は、その後、原告に対する解任は無効であり、原告には役員就任権喪失(本件運営規程1条5号)の効果が及んでいないから、原告には令和5年9月から2年間の輪番制の役員(前提事実(3)イ)に選任される資格がある旨主張している。
2 検討の順序
 本件各決議の有効性に係る確認の利益につき、原告は、本件各決議が有効であれば翌年から5年間役員に就任することができなくなる(前提事実(4))から、確認の利益がある旨主張する。
 そして、本件各決議の順序をみると、まず本件理事会決議がされ、その後に本件総会決議がされている(前提事実(2)イ、エ)。そうすると、仮に本件総会決議が有効であり、その結果として原告が本件総会決議の翌年から5年間役員に就任できなくなるのであれば、これに先立つ本件理事会決議の有効性を確認する必要はなく、これに係る確認の利益は認められないこととなる。
 そこで、以下、まずは本件総会決議の有効性につき判断する。
3 本件総会決議について
(1)決議の有効性(争点2)について
ア 本件管理規約には、辞任によって退任する役員は、後任の役員が就任するまでの間、引き続きその職務を行い、辞任役員残存権限を有する旨の定めがある(前提事実(3)イ)。
 もっとも、理事が辞任する場合には、病気、転出、意見対立その他の様々な理由があり得るところ、理由のいかんによっては、後任の役員が就任する以前の段階で、辞任役員残存権限を失わせることが相当な場合もあり得る。そして、その判断は管理組合の自治に委ねられるべき事柄である上、本件管理規約は、管理組合の自治に委ねられるべき事柄を広く総会の議決に委ねているものと認められる(前提事実(3)ウ)。そうすると、被告においては、総会の決議において、辞任役員残存権限を失わせることが可能であるものというべきである。
イ 以上を踏まえ検討すると、確かに、原告は、本件総会決議以前に本件理事辞任通知をしていた(前提事実(2)ウ、エ)ものの、本件総会決議の時点では、後任の役員が就任していなかったため、辞任役員残存権限を有していたものと認められる。
 他方,本件総会決議に係る経緯(認定事実(1)から(3)まで)に鑑みれば、本件総会決議に係る招集通知は、原告代表者の度重なる迷惑行為に鑑み、原告の理事としての適格性に疑義が生じたことから、その理事としての権限を失わせることの当否を問う趣旨で行われたものと認められる。そして、前記経緯に鑑みれば、被告が認識していた原告代表者の迷惑行為は、住民の信頼及び平穏等を損なう程度が甚だしいものであるところ、被告による前記招集通知は、原告が決議前に辞任した場合における辞任役員残存権限を不問にする趣旨とは解されず、その場合には原告の辞任役員残存権限を失わせることの当否を問う趣旨を含むものであったと評価するのが相当である。同様に、本件総会決議に有効票を投じた被告組合員のうち原告及び原告代表者を除く全員が賛成票を投じた(認定事実(3)ウ)のも、原告に辞任役員残存権限がある場合にはこれを失わせる趣旨を含むものであったと評価するのが相当である。 
ウ 以上のような本件事実関係の下においては、本件総会決議は、原告の辞任役員残存権限を失わせるものとして、有効というべきである。
 これに対し、原告は、辞任した理事を解任することはできない旨主張する。しかしながら、既述のとおり、本件総会決議は、原告の辞任役員残存権限を失わせる趣旨で行われたものと認められるところ、原告の主張は前記判断を左右しない。以上のほか、原告がるる主張する点は、既述の諸点に照らし、いずれも採用することができない。
(2)確認の利益(争点1)について
 本件運営規程1条5号は、解任された役員は、その翌年から5年間は役員に就任することができない旨定めている。そして、同号が本件総会決議後の令和5年9月30日開催の定期総会において追加されたものであり(前提事実(4))、その経緯に照らし原告への適用が想定されていたものと認められることなどに鑑みれば、同号は、辞任役員残存権限を失わせる旨の決議を受けた者にも適用される趣旨のものというべきである。そうすると、原告は、本件総会決議によって辞任役員残存権限を失うことにより、その翌年から5年間役員に就任できなくなるものというべきであるから、同決議の有効性に係る確認の利益が認められる。
4 本件理事会決議について
 本件総会決議は有効であるところ、既述のとおり、これに先立つ本件理事会決議の効力に係る確認の利益があるとはいえない。
5 まとめ
 以上より、本件訴えのうち本件理事会決議の無効確認を求める部分には確認の利益がなく、本件総会決議の無効確認を求める部分には理由がない。
 なお、原告は、被告訴訟代理人への訴訟委任が無効である旨主張する。しかしながら、証拠(乙1)によれば、被告は、令和5年11月3日開催の臨時総会において、本件に係る訴訟対応を被告訴訟代理人へ委任する旨決議したと認められ、被告訴訟代理人への訴訟委任は有効である。
第4 結論
 よって、本件訴えのうち本件理事会決議の無効確認を求める部分は却下し、原告のその余の請求は棄却することして、主文のとおり判決する。
    2024年8月15日 東京地方裁判所民事第5部 裁判官 関泰士

マンション管理センターデータベースより、引用

私見:

1.判決のポイント

本判決は、理事が辞任した場合でも、管理規約により後任役員の就任まで職務を継続する権限が残っているときは、総会決議によってその権限を失わせることができると判断したものである。

2.専門家としての見解

本判決は、管理組合の自治及び総会の意思決定を尊重したものであり、実務上も合理性があると考える。

特に、役員としての適格性が問題となっている場合、解任決議前に辞任届を提出することで、管理組合による適切な対応が妨げられることは望ましくない。

ただし、役員の辞任自体と、辞任後に残る職務権限の消滅は区別して考える必要がある。

3.管理組合運営上の留意点

本判決をもって、理事会が自由に理事を解任できると解釈すべきではない。

役員の選任・解任は、管理規約及び法令に従い、適正な手続によって行うことが重要である。

また、解任された役員について一定期間の再任を制限する場合には、その必要性、合理性及び規約上の根拠について慎重な検討が必要である。

4.総括

本判決は、管理組合の自治を尊重するとともに、役員の辞任によって管理組合の適正な運営が阻害されることを防ぐ判断として評価できる。

一方、個別事案の事情を踏まえた判断であり、すべての管理組合に一律に適用できるものではないことに留意すべきである。本判決は、管理組合の自治を尊重するとともに、役員の辞任によって管理組合の適正な運営が阻害されることを防ぐ判断として評価できる。