駐車場専用使用権付の分譲は有効!!
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
当事者
控訴人 X1
上訴訟代理人弁護士
****
同 ****
被控訴人 Y1
上訴訟代理人弁護士
****
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 判決を取り消す。
2 大阪市○○区○○町1丁目12番8宅地3913.48平方メートル(以下「本件敷地」という。)のうち別紙図面斜線部分の第3号棟第1号駐車場の土地12.58平方メートル(以下「本件土地」という。)につき被控訴人が駐車場専用使用権を有しないことを確認する。
3 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
との判決
二 被控訴人
主文同旨の判決
第二 当事者の主張
一 控訴人の請求原因
1 控訴人は、昭和48年7月20日、A株式会社(以下「訴外会社」という。)から本件敷地に対する104万8,134分の7,877の共有持分を買い受けた。
2 しかるに、被控訴人は、本件敷地の一部である本件土地につき駐車場専用使用権を有する旨主張して、本件土地を駐車場として専用使用している。
3 よって、本件敷地の共有持分権者である控訴人は、本件土地につき被控訴人が駐車場専用使用権を有しないことの確認を求める。
二 請求原因に対する被控訴人の認否
請求原因事実は全部認める。
三 被控訴人の抗弁
1 訴外会社は、本件敷地上に建設した鉄筋コンクリート造り11階建共同住宅「Bマンション」3号棟(以下「本件マンション」という。)を土地付で(本件敷地は本件マンション区分所有者全員の共有とするものとして)本件当事者らを含む一般に分譲販売したものであるが、その分譲販売に先立ち、宅地建物取引業法35条の規定に基づく重要事項説明書を購入希望者に交付して分譲対象物件の権利関係についての詳細な説明を行ない、そのうえでその分譲契約を締結したものであるところ、上重要事項説明書には、共用部分の一部専用使用として分譲専用使用駐車場があること、売買代金以外に授受される金銭の額及び目的として専用駐車場専用使用権代金1台分40万円・専用駐車場使用希望者は入居直前に専用使用代金を支払い別に定める契約にのっとり駐車場を使用する(希望者が多数の場合は抽選により決定する)ことなどの記載がなされていたし、また、控訴人を含む本件マンションの分譲購入者が当該分譲契約を締結した際訴外会社との間で取り交わした「Bマンション第3号棟土地付区分建物売買契約書」の10条2項にも、「買主は土地の一部に番号を附し区画をなしたる駐車場の専用使用権を売主より分譲を受けたるもの及び譲受人に対し、その専用使用を承認するものとする。」旨規定されていたのであって、上のような点についての説明を受けて上売買契約書に基づき本件マンション分譲契約を締結するに至った控訴人ら本件マンション購入者は、本件敷地に上駐車場専用使用権の負担があること及び上専用使用権は本件マンション分譲の際訴外会社から本件マンション購入者のうち上専用駐車場使用希望者に対して本件マンションとは別個に分譲されるものであることを予め承諾していたものである。
2 しかして、被控訴人は、訴外会社から本件マンション分譲を受けてその区分所有権及び本件敷地に対する共有持分権を取得するとともに、昭和47年7月31日本件土地についての駐車場専用使用権を代金40万円で譲り受けたから、本件土地につき駐車場専用使用権を有するものである。
四 抗弁に対する控訴人の認否
1 抗弁1の事実のうち、訴外会社が本件マンションを土地付で(本件敷地は本件マンション区分所有者全員の共有とするものとして)本件当事者らに分譲販売したこと、被控訴人主張の重要事項説明書及び売買契約書に被控訴人主張のような記載及び条項があったことは認めるが、その余の事実は否認する。控訴人が本件マンションの分譲を受けたときには、訴外会社から駐車場専用使用権についての詳しい説明はなかったのであり、控訴人は、訴外会社が所有権を留保していた土地を駐車場として分譲するものと信じていたのであるから、訴外会社に対し、共有となるべき本件敷地について駐車場専用使用権を設定することを承諾したことはない。
2 同2の事実のうち、被控訴人が本件マンション分譲を受けて本件敷地につき共有持分権を取得したことは認めるが、その余は争う。
五 控訴人の再抗弁
1 分譲マンション等の権利関係については建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)の適用を受けるものであるところ、本件敷地は、厳密には同法の適用を受ける建物の専有部分及び共用部分のいずれにも該当しないものといわざるをえないが、建物の敷地もしくは附属施設の管理又は使用に関しても区分所有者相互間の調整をはかろうとしている(同法23条参照)同法の趣旨に照らすと、建物敷地の管理・使用についても同法の管理に関する諸規定が準用されるものと解すべきである。ところで、本件マンションの敷地である本件敷地に本件のような駐車場専用使用権の設定を認めることは、同法12条にいう共有部分の変更と同様に解すべきであるから、同条により本件マンション区分所有者全員の合意を必要とするところ、被控訴人主張の駐車場専用使用権は、本件マンション区分所有者全員の合意を得ないで設定されたものであるから(本件マンション分譲契約における約款中には、購入者は本件共有地に駐車場専用使用権の負担のあることを承認する旨の規定があるが、購入者は上のような規定の意味ないしこれによって生ずる法律関係を了知しないまま契約してしまうのが通例であるから、同約款中に上のような規定があるからといって、これをもって区分所有法12条にいう区分所有者全員の合意があったものと解するのは相当でない。)、上駐車場専用使用権の設定に関する約定は区分所有法に違反し無効である。
2 仮に上主張が認められないとしても、上駐車場専用使用権の設定に関する約定は、本件敷地について他の共有者の利用を排し、特定の共有者に専用的にその使用を認めるものであるから、共有物の利用形態に変更をもたらすものとして共有物の変更に該当し、共有者全員の同意を要するものというべきところ(民法251条)、上約定については本件敷地共有者全員の同意がなかったのであるから、上約定は無効であって、被控訴人は本件土地につき駐車場専用使用権を有しない。
3 以上の主張が認められないとしても、上駐車場専用使用権の設定に関する約定は、マンション購入者の住宅購入の必要性やマンションの法律関係に関する知識ないし情報不足等に乗じて訴外会社が過大の利益を得ることを企図してマンション購入者との間で締結した附合契約であり、同契約によって訴外会社は上に企図した所期の目的を達する反面、購入者は不測の不利益を被ったばかりでなく、購入者相互間にも著しい不平等がもたらされたものであるから、公序良俗に違反し無効というべきである。すなわち、
マンション区分所有者の共有にかかる敷地に駐車場専用使用権を設定することは本来共有者の当該敷地管理に属する事項であり、一般には、区分所有者の構成する管理組合が駐車場使用を希望する区分所有者に対して駐車場としてこれを賃貸し、これによる賃料収入をマンションの管理費に充当する方法で共有者全員にその利益を還元しているのが実情である。ところで、訴外会社等のマンション分譲業者は、分譲によって区分所有者の共有となるべきマンション敷地につき、駐車場専用使用権を設定し、これを管理する権限を当然には有しないはずであるところ、訴外会社は、マンション購入者の知識ないし情報不足や近年の社会的事情(貸家自体が少ないのみならず、分譲マンションの場合には、いわゆる住宅ローンの完備等で家賃相当額程度の月賦返済によってこれを購入できるようになってきており、しかも、地価等の高騰などから早期購入の利益が大きいことなどの事情)により購入者が分譲業者の提示する契約条項を包括的に承認せざるをえない立場にあることなどに乗じて、本件マンション分譲により二重に利益を得ようと企図し、本件マンションの売買契約書用紙に抗弁1記載のような内容の駐車場専用使用権に関する条項を予め印刷記入して、本件マンション分譲契約を締結した購入者はすべて上専用使用権に関する条項をも承認したものとせざるをえないようにし、結局本件マンション分譲契約を締結するのにともない上駐車場専用使用権の設定についても合意をさせ、その結果訴外会社は、本件敷地を本件マンションとともに分譲しながら、さらに本件敷地の一部に20区画の駐車場を設け、その専用使用権を1区画(12.85平方メートル)40万円で分譲して、同一土地によって二重に利益を得ているものである。これに反し、上使用権を有しない本件マンション購入者は、本件敷地の全部につき固定資産税等を負担しながら、上駐車場とされた部分についてはみずからこれを使用することができない不利益を受けており、しかも、本件マンション区分所有者のうち上専用使用権を取得した者は、当初にその代金40万円を支出するほかは月額500円程度の費用を負担するだけで上駐車場を専用使用することができるうえ、他の区分所有者の承諾等を要せずに取得価額を大幅に上まわる価額で他に上専用使用権を転売して利益を取得しており、上専用使用権を取得しなかった区分所有者との間に著しい不平等がもたらされている。
六 再抗弁に対する被控訴人の認否及び主張
1 再抗弁1の主張は争う。土地と建物とを別個の不動産とする法制下において建物の区分所有に関し必要な規制を図ることを目的として制定された区分所有法は、敷地の権利関係に関しては特別に7条の規定を置いただけで他に何らの規定も設けていないのであり、また、実質的に考えても、本件マンションの直接の敷地となっていない駐車場部分の管理・処分については(直接の敷地部分と異筆の土地である場合もある。)、直接の敷地部分と同様に規制しなければならない必然性はないのであるから、いずれにしても本件敷地上の駐車場の管理・処分については区分所有法の準用は考えられないものといわなければならない。
2 同2の主張も争う。訴外会社は、本件マンション分譲に際し、購入者に対して本件敷地上に駐車場専用使用権の制限のあることを承諾させたうえ、上専用使用権の制限のある本件敷地の共有持分権を売り渡したものであり、売買後に共有者の権利を勝手に変更したわけではないから、訴外会社が上駐車場専用使用権を設定することにつき控訴人主張の共有物変更に関する法理の適用がないことは明白である。
3 同3の主張も争う。本件駐車場専用使用権の設定に関する約定は何ら公序良俗に違反するものではない。すなわち、
住宅購入については、マンションのみならず建売住宅もあるし、その他などいくらでも選択の余地があり、国鉄利用のような場合と全く異なるのであって、駐車場専用使用権の設定を含む本件マンション分譲契約を附合契約であるとするのは概念の不当な拡張である。また、上駐車場専用使用権の分譲による対価は、本件マンション自体の売価とともに採算計画の中に総合的に考慮されているのであって、売主である訴外会社において二重の土地処分利益を得たものでは決してないし、したがって、抽選の結果駐車場専用使用権を取得できなかった購入者は、上専用使用権の負担のある分だけ割安で土地付本件マンションを買い受けたものであり、上専用使用権を取得した購入者との間に何らの不平等もないのである。さらに、上駐車場専用使用権が本件マンション購入者間で当初の価額より高価に取引されている事実があるとしても、上専用使用権の取引自体は本件マンションの自治会管理規約15条2項に認められており(ちなみに、控訴人は、上規約の起草委員の1人であり、上規約が承認可決された自治会総会において総会議長をも務めている。)、しかも、上専用使用権の価値は、当該専用使用権を有する者が負担する管理費の多寡によって変動するものであるから、法律又は管理規約によりその管理費の負担を増してバランスをとれば、上専用使用権が高価に取引されることもおのずから解消される問題であり、したがって、控訴人が上のような点も考慮しないで、ただ上専用使用権が高価に取引されていることを理由に駐車場専用使用権の設定に関する前記約定が無効であると主張するのは筋違いというべきである。
4 マンション分譲業者が予め共有者(マンション購入者)全員の同意のもとに特定の共有者に対し共有地の一部を駐車場として専用使用権を認めることは、共有者全員がみずからこれを認めたのと本質的に異ならないところ、前記のとおり訴外会社は、本件マンション分譲の際、購入者に対し、駐車場専用使用権の制限のあることを予め承諾させたうえ、その制限のある本件敷地の共有持分権を本件マンションとともに売り渡し、さらに駐車場使用希望者に対して抽選で上駐車場専用使用権を分譲したのであるから、これを無効とすべき理由は全くない。そして、被控訴人は、本件土地についての駐車場専用使用権を訴外会社から買い受けて取得したものである(なお、上のようにして訴外会社から分譲された本件マンション駐車場の専用使用権については、前記自治会管理規約15条1項によっても承認されているところである。)。
理由
一 請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。
二 そこで、被控訴人主張の抗弁について判断する。
1 《証拠略》を総合すると、次の事実を認めることができ(る。)《証拠判断略》
訴外会社は、本件敷地上に本件マンションを建設して分譲販売をするに際し、本件マンションの敷地である本件敷地は本件マンション区分所有者全員の共有とするものとし、かつ、本件敷地の一画に駐車場を設け、本件マンションの分譲とは別個に上駐車場についての専用使用権を1台分40万円で本件マンション購入者に分譲販売することとして(訴外会社が本件敷地は区分所有者全員の共有とするものとして本件マンションの分譲販売をしたことは当事者間に争いがない。)、上分譲の説明のために発行した宅地建物取引業法35条の規定に基づく重要事項説明書に「共用部分の一部専用使用」の見出しのもとに分譲専用使用駐車場があること及び「売買代金以外に授受される金銭の額及目的」の見出しのもとに専用駐車場専用使用権代金1台分40万円、専用駐車場使用希望者は入居直前に専用使用代金を支払い別に定める契約にのっとり駐車場を使用する(希望者が多数の場合は、抽選により決定する)ことを記載するとともに(上重要事項説明書に上の記載があることは当事者間に争いがない。)、駐車場の位置及び面積等を明らかにした図面等を上重要事項説明書に添付し、本件マンションの購入申込をしようとする顧客に対しては上重要事項説明書に基づいて売買物件に関する重要事項の説明をしたうえ、購入申込者全員に上重要事項説明書(添付図面等を含む。)を交付して上申込者から申込証拠金の支払を受け、その後正式に購入者との間で売買契約書を取り交わして本件マンション分譲契約を締結したが、上売買契約書である「Bマンション第3号棟土地付区分建物売買契約書」には10条2項として「買主は土地の一部に番号を附し区画をなしたる駐車場の専用使用権を売主より分譲を受けたるもの及びその譲受人に対し、その専用使用を承認するものとする。」旨規定されており(上売買契約書に上内容の条項があることは当事者間に争いがない。)、購入者も上売買契約書の内容を承知のうえ本件マンション分譲契約を締結した。
上購入者のうち被控訴人は、昭和47年3月27日訴外会社に対し本件マンション(462号住宅)の購入申込をしたが、その際駐車場についても分譲を希望する旨申し述べ、その後同年4月6日ころ訴外会社との間で前記売買契約書に基づいて本件マンション(462号住宅)の区分所有権と本件敷地に対する104万8,134分の7,877の共有持分権を買い受ける旨の分譲契約を締結した(被控訴人が本件マンションの分譲を受けて本件敷地に対する共有持分権を取得したことは当事者間に争いがない。)。また、控訴人も、昭和47年3月2日訴外会社に対し前記重要事項説明書に基づく説明を承認のうえ本件マンション(1170号住宅)の購入申込をして申込証拠金10万円を支払い、さらに同月17日には訴外会社から上重要事項説明書及び添付図書を受領し、翌18日訴外会社との間で前記売買契約書に基づいて本件マンション(1170号住宅)の分譲を受けたが、その際口頭で、前記駐車場専用使用権の分譲も希望する旨申し入れた。
上のようにして本件マンションを分譲販売した訴外会社は、購入者からの駐車場専用使用権の分譲申込が多かったので、抽選の方法で上専用使用権の購入者を決定することとし、その抽選日を昭和47年7月18日と定めて、各申込者に対し往復はがきによるその旨の通知を発送し、上同日抽選を実施した(欠席者については訴外会社において代理人をたてて)結果、控訴人は抽選に漏れたが、被控訴人は当選した。そこで被控訴人は、同月31日訴外会社との間で、本件土地についての駐車場専用使用権を代金40万円で買い受ける旨の契約を締結した。
なお、上駐車場専用使用権については、従前の「Bマンション第3号棟管理規約」に代わって昭和49年12月22日から施行された「Bマンション第3号棟自治会管理規約」にもその使用及び譲渡に関する条項が設けられており、控訴人は同規約起草委員の1人としてその制定に関与した。
2 上認定事実によれば、訴外会社は、本件マンションの分譲販売にあたって、本件敷地の一画に駐車場を設置し、本件マンション(住宅)の分譲とは別個に本件マンション購入者に対して上駐車場専用使用権を分譲する権利を留保したうえで本件マンションを分譲したものであり、控訴人を含む購入者はすべて、上の権利が訴外会社に留保されること並びに訴外会社から上駐車場専用使用権の分譲を受けた者及びその譲受人が上駐車場を専用使用することを容認・承諾して本件マンション分譲契約を締結したものというべきであって、本件マンション分譲契約と同時になされた上駐車場専用使用権に関する約定の趣旨とするところは、訴外会社がその名において、本件マンション分譲後購入者の共有となる本件敷地の一画に設けられた駐車場の専用使用契約を、その使用を希望する本件マンション購入者(希望者が多数の場合は抽選による)との間で締結すること並びに上専用使用契約の効力が本件マンションの分譲と同時に本件敷地の共有持分権を取得した者に対しても及ぶこと、換言すれば、上専用使用契約に基づいて上駐車場の専用使用を認められた者及びその承継人に対し本件マンション購入者(本件敷地の共有持分権者)が上駐車場を専用使用させる義務を負うことを、上購入者及び訴外会社の双方が承諾し、合意したものであると解するのが相当である。したがって、本件マンション(462号住宅)の分譲を受けた後訴外会社との間で本件土地についての駐車場専用使用権を代金40万円で買い受ける旨の契約を締結した被控訴人は、上契約に基づいて、本件土地についての駐車場専用使用権を取得したものというべきであり、しかも、上専用使用権は控訴人ら本件マンション購入者(本件敷地の共有持分権者)に対する関係においてもその効力を有するものというべきである。
三 控訴人は、本件マンションの敷地である本件敷地についても区分所有法の共用部分の管理に関する諸規定が準用されるべきことを前提として、本件敷地に駐車場専用使用権を設定することは、同法12条にいう共用部分の変更と同様に解すべきであり、本件マンション区分所有者全員の合意を必要とするところ、訴外会社が被控訴人に分譲した駐車場専用使用権は区分所有者全員の合意を得ないで設定されたものであるから、区分所有法に違反し無効である旨主張する。しかし、区分所有法は、区分所有の目的とすることができる「建物」について区分所有者の権利義務、共用部分の管理等に関する事項を規定したものであるから(建物の敷地については、「専有部分を所有するための建物の敷地」に関する権利を有しない区分所有者に対する区分所有権売渡請求権の規定(7条)のほか、建物又はその敷地等の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を規約で定めることができる旨の規定(23条)があるにすぎない。)、控訴人主張の同法の趣旨を考慮に入れても、建物とは別個の不動産である敷地の管理についてまで区分所有法の建物共用部分の管理に関する諸規定が準用されるものと解するのは困難であり、したがって、本件共有地について区分所有法12条等の建物共用部分の管理に関する諸規定が準用されることを前提とする控訴人の上主張は、すでにこの点において採用することができない。
四 また、控訴人は、共有地に駐車場専用使用権を設定することは共有物の変更に該当し、民法251条により共有者全員の同意を要するところ、本件敷地に駐車場専用使用権を設定することについては本件敷地共有者全員の同意がなかったから、訴外会社のなした上専用使用権の設定は無効である旨主張する。
しかし、本件敷地に本件のような駐車場専用使用権を設定することが共有物の変更にあたると解することは困難であり、仮に共有物の変更にあたるとしても、前記二の認定事実によれば、訴外会社は、本件マンションの分譲販売にあたって、その所有であって分譲後は購入者の共有となる本件敷地の一画に設置した駐車場の専用使用権をマンション分譲とは別個に購入者に対して分譲(設定)する権利を留保したうえで、本件マンション及び本件敷地の共有持分権を分譲したものであり、控訴人を含む購入者もすべて、上の権利が訴外会社に留保されること並びに訴外会社から上駐車場専用使用権の分譲(設定)を受けた者及びその譲受人が上駐車場を専用使用することを容認・承諾して、訴外会社との間で本件マンション分譲契約を締結したのであるから、本件マンション分譲後訴外会社が購入者に対して駐車場専用使用権を分譲(設定)することについては、購入者(本件敷地共有者)全員が予め同意していたものといわざるをえない。
そうすると、控訴人の上主張も結局採用することができない。
五 さらに控訴人は、本件駐車場専用使用権の設定に関する約定は公序良俗に違反し無効である旨主張するので、この点について検討する。
1 控訴人は、訴外会社は、マンション購入者の知識ないし情報不足や分譲業者の提示する契約条項を購入者が包括的に承認せざるをえない立場にあることなどに乗じて、本件マンションの分譲により二重に利益を得ようと企図し、本件マンション分譲契約と同時に購入者に対して本件敷地に駐車場専用使用権を設定することを承諾させたものであり、しかも上駐車場専用使用権の設定に関する約定は本件マンション分譲契約中に包括された附合契約である旨主張する。なるほど訴外会社は、前記認定のとおり、本件敷地の共有持分権付きで本件マンションを分譲しながら、これとは別個に、本件敷地の一画に設置された駐車場の専用使用権を1台分40万円で分譲しているから、一見同一土地によって二重に利益を得たかのごとき疑いもあるが、分譲業者の販売政策として、敷地付マンション本体の分譲と駐車場専用使用権の分譲とを別個にするものの、それぞれの分譲価格は総合して収支計算をし、これに基づいてマンションの分譲販売計画をたてることも十分に考えられるのであって(《証拠略》によると、本件マンションの分譲販売についても、駐車場専用使用権の分譲代金が上ような形で考慮されていることが窺われる。)訴外会社が上駐車場専用使用権を別個に分譲したことによって、同一土地から二重に利益を得たものと速断することはできない。また、本件のような駐車場専用使用権の設定に関する約定を含むマンション分譲契約が直ちに附合契約であると認めることもできないのであって、《証拠略》中控訴人の上主張にそう部分はそのまま採用し難いし、他に控訴人の上主張事実を確認できる証拠はない。
2 また、控訴人は、本件マンション購入者が本件敷地の全部につき固定資産税等を負担しながら、駐車場とされた部分についてはみずからこれを使用しえない不利益を受けている旨主張するが、前記のとおり、本件マンション購入者はすべて、本件敷地に設置された駐車場の専用使用権をマンション本体の分譲とは別個に購入者に対して分譲(設定)する権利が訴外会社に留保されること並びに訴外会社から上駐車場専用使用権の分譲(設定)を受けた者及びその譲受人が上駐車場を専用使用することを容認・承諾して、訴外会社との間で本件マンション分譲契約を締結したのであるから、いわば一部の土地につき借地権等土地使用権の負担のある所有権を譲り受けた場合と大差がないのであって、控訴人の上主張するような事態は本件マンション分譲契約締結当時当然考えられたところであり、これをもって上駐車場専用使用権の設定に関する約定が公序良俗に違反するとは到底いえないのである。
3 さらに控訴人は、本件マンション購入者(区分所有者)のうち駐車場専用使用権を取得した者とこれを取得しなかった者との間に著しい不平等がもたらされている旨主張するが、前記のとおり、上専用使用権を取得した者は、駐車場を専用使用することができる反面、その取得の対価として40万円を支払ったほか、毎月非取得者より約500円ほど多いマンション管理費を納入しているのである(このことは《証拠略》により認められる。)から、上専用使用権の取得者と非取得者との間でそれ程不平等があると認めることはできない(なお、上専用使用権の取得者が取得後に取得価額を上まわる価額でこれを他に転売してその差益を得た事実があるとしても、そのようなことは、前示管理規約によって、上専用使用権の負担するマンション管理費を適当な額に修正するなどの方法により解消しうるものというべきであるから、上のような事実があるからといって、本件駐車場専用使用権が設定された結果その取得者と非取得者との間に著しい不平等がもたらされたものということもできない。)。
4 また、《証拠略》によれば、大阪府建築振興課や日本高層住宅協会は、本件において訴外会社が採用したような駐車場専用使用権の分譲方式には疑問点があるとして、マンション分譲業者に対し、できるだけ上分譲方式をやめていわゆる賃貸方式(土地を共有するマンションの区分所有者全員が駐車場をその利用者に賃貸し、当該賃料はマンション管理費に組み入れるという方式)をとるように指導もしくは要望し、昭和49年以降においてはそのほとんどが上賃貸方式になっていることが認められるが、そうであるからといって、本件マンション購入者と訴外会社との間でなされた駐車場専用使用権の設定に関する前記約定が直ちに公序良俗に違反するものとは認められないのであり、そのほか本件全証拠を検討しても、上約定が公序良俗に違反し無効であると認めるべき事情は見あたらない。
5 そうすると、上約定が公序良俗に違反し無効であるとの控訴人の前記主張も採用することができない。
六 よって、控訴人の本訴請求は失当として棄却されるべきであり、これと結論を同じくする原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法95条、89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 唐松 寛 裁判官 平手勇治)
裁判官藤原弘道は、転補のため署名・捺印することができない。
(裁判長裁判官 唐松 寛)
S55/4/25 大阪高裁
私見:すべての分譲マンションの駐車場の専用使用権付販売が本件判決のように有効で公序良俗に反しないかどうかは不明だが、本件の訴外マンション分譲会社のようにきちんとした手続きを踏んでいれば訴外マンション分譲会社は、本件マンション分譲に際し、購入者に対して本件敷地上に駐車場専用使用権の制限のあることを承諾させたうえ、専用使用権の制限のある本件敷地の共有持分権を売り渡したものであり、売買後に共有者の権利を勝手に変更したわけではないから控訴人の心情に理解は示すが本判決に同意するもである。