それって、本当に書面決議??

マンションの判例

主文

1 被告において令和3年5月28日にされた別紙「通常総会議案書」記載第1号ないし第8号の各議案を承認する旨の書面による各決議は,いずれも無効であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求(選択的請求)
 1 主文第1項と同旨
 2 被告において令和3年5月28日にされた別紙「通常総会議案書」記載第1号ないし第8号の各議案を承認する旨の書面による各決議をいずれも取り消す。

第2 事案の概要
 本件は,別紙物件目録「一棟の建物の表示」記載の区分所有建物(以下「本件マンション」という。)の一部である同目録「専有部分の建物の表示」記載の区分建物(以下「本件居室」という。)の共有持分権者である原告が,本件マンションの管理組合である被告において令和3年5月28日にされた別紙「通常総会議案書」記載第1号ないし第8号の各議案を承認する旨の書面による各決議(以下「本件各決議」という。)について,区分所有者全員の承諾がないのに書面による決議がされたものであり,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)45条1項に違反するとして,その無効確認又は取消しを求めた事案である。

 1 前提となる事実(末尾に証拠等を掲記した事実は当該証拠等により認められ,その余の事実は当事者間に争いがない。)
  (1) 当事者
   ア 原告は,本件居室(部屋番号206)の持分500分の486を有する区分所有者である。(甲4,乙9)
   イ 被告は,本件マンションの区分所有者全員により構成される建物の区分所有法3条所定の団体である。(乙1,弁論の全趣旨)
  (2) 本件各決議の存在
 令和3年5月28日,被告の理事会において,別紙「通常総会議案書」記載第1号ないし第8号の各議案に係る組合員提出の議決権行使書の集計作業が行われ,区分所有法45条1項の書面による決議として,上記各議案を承認する旨の書面による各決議(本件各決議)がされた。(甲7,8)
 2 争点及び当事者の主張
 本件各決議に係る無効事由又は取消事由の存否
  (1) 原告の主張
 本件各決議は,本件マンションの区分所有者全員の承諾がないのに書面によりされたものであり,区分所有法45条1項に違反する違法なものであるから,本件各決議には無効事由又は取消事由がある。
  (2) 被告の主張
   ア 被告の令和2年5月29日開催の総会においては,新型コロナウイルスが流行していたため,書面による決議がされたところ,被告の理事会は,令和3年5月28日開催の総会(以下「本件文書総会」という。)においても,新型コロナウイルス感染防止の対策が必要であることから,区分所有者全員の承諾が得られた場合には書面による決議を実施することを決議し,同月6日,区分所有者全員に対し,文書総会を実施する旨の案内文を送付した。また,被告は,同月14日,区分所有者全員に対し,議案書及び議決権行使書を発送したところ,本件文書総会が開催された同月28日までに,本件マンションの区分所有者37名中32名から議決権行使書が提出された。そのうち1名の議決権行使書において,文書総会に関して説明をしてほしい旨の記載がされ,賛否の記入がされていなかった。そのため,被告の理事長,副理事長及び事務職員は,同月20日から同月21日にかけて,当該区分所有者に対し,新型コロナ感染症対策のため,本件文書総会において書面による決議を実施したい旨説明した上,各議案の補足説明も直接行い,同人から書面による決議を実施することにつき承諾を得た上で,各議案に賛否の記入をしてもらった。また,本件マンションの区分所有者の中には,議決権行使書を提出しなかった5名を含め,本件文書総会において書面による決議を実施することを拒む旨の申出をした者は一人もいなかった。
   イ このように,被告は,本件マンションの区分所有者全員に対し,本件文書総会においても令和元年度総会と同様に書面による決議を実施する旨の案内を事前に行い,説明を求めた区分所有者には直接説明を行い,同人からの同意も得ているから,本件マンションの区分所有者に対して本件文書総会において書面による決議の方法により実施することを十分に説明し,異議を述べる機会も与えているのであって,本件文書総会の手続に何ら瑕疵は存在しない。
 また,仮に,本件文書総会の手続に何らかの瑕疵が認められるとしても,本件マンションの区分所有者37名のうち32名が議決権行使書を提出した上で決議を行っている以上,本件マンションの区分所有者が本件文書総会において意見を述べる機会等は十分に確保されていたのであり,本件文書総会の取消事由ないし無効事由と評価されるような重大な瑕疵は存在し得ない。

第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
 前記前提となる事実に加えて,後掲証拠(証拠番号は枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
  (1) 被告は,令和2年5月頃,組合員である本件マンションの区分所有者に対し,同年の通常総会について,新型コロナウイルスの感染防止に向けた緊急事態宣言の発動という厳しい状況の中での開催は非常に困難なことと思われ,何よりも大切な命を守るために中止したほうが賢明ではないかと理事会で決議したとして,今回は文書総会になるので後程文書を配布する旨通知した。(乙3)。
  (2) 被告の「令和元年度通常(文書)総会議事録」と題する書面には,令和2年5月29日に文書総会が定足数を満たして開催され,各議案が承認・可決された旨記載されている。(乙2)
  (3) 被告は,令和3年5月13日,臨時理事会を開催した。同理事会の議事録には,同年の通常総会の各議案を承認した旨の記載があるが,同年の総会において決議をすべき事項について書面による決議を実施することに関する記載はない。(甲5)
  (4) 被告は,令和3年5月頃,組合員である本件マンションの区分所有者に対し,同年の通常総会について,昨年来続く新型コロナウイルス感染症拡大防止のための緊急事態宣言の発動という厳しい状況の中での開催は非常に困難であり,今回は文書総会になるので後日文書を配布する旨通知した。(乙4)
  (5) 被告は,令和3年5月中旬から下旬にかけて,本件マンションの区分所有者に対し,本件文書総会の議案書及び議決権行使書を送付した。(甲1,6,弁論の全趣旨)
  (6) 令和3年5月28日までに,被告の組合員37名(本件マンションの専有部分が数人の共有に属する場合において,区分所有法35条2項及び被告の管理規約53条により,議決権の行使について,併せて1の組合員とみなした場合の人数。以下,被告の組合員の人数については同じ趣旨である。)のうち32名から被告に対して議決権行使書が提出された。そのうち1名の議決権行使書には,「文書総会となっているが,全てに必要な重要コメントが一切ない。文書総会のあり方を調べてからにしてほしい」と記載され,賛否に関する記載がされていなかった。また,複数の議案ついて反対意見もみられた。(乙1,6,9)
  (7) 被告の理事長,副理事長及び事務職員は,令和3年5月20日から同月21日にかけて,上記(6)の議決権行使書に賛否の記載をしなかった区分所有者に対し,新型コロナ感染症対策のため,書面による決議を実施したい旨説明した上,各議案の補足説明も直接行い,同人から書面による決議を実施することにつき承諾を得た上で,各議案に賛否の記入をしてもらった。(乙6ないし8,弁論の全趣旨)
  (8) 令和3年5月28日,被告の臨時理事会が開催され,本件文書総会の議決権行使書の集計作業がされ,その結果,すべての議案につき過半数の賛成が得られて承認・可決された。(甲8)
  (9) 被告の「令和2年度通常(文書)総会議事録」と題する書面には,令和3年5月28日に文書総会が定足数を満たして開催され,各議案が承認・可決された旨記載されている。(甲7)

 2 本件各決議に係る無効事由又は取消事由の存否について
  (1) 区分所有法において,区分所有建物の管理又は使用等に関する事項については,区分所有者が集会を開催して意見交換ないし討議した上で決議をしたり規約を定めたりするのが原則とされている(同法34条以下)が,同法又は規約により集会において決議をすべき場合において,区分所有者全員の承諾があるときは,例外的に,書面又は電磁的方法による決議をすることができるとされている(同法45条1項)。同法が書面又は電磁的方法による決議の実施に区分所有者全員の承諾を必要とした趣旨は,(書面又は電磁的方法による決議をすることができる決議事項に制限が加えられていないため,)討議を省略することによって各区分所有者に不利益が及ぶおそれがないようにするところにある。そして,集会を招集する者が区分所有者全員の承諾を得るためには,集会を開催せずに書面による決議を実施すること又は電磁的方法による決議を実施することを示して承諾を得る必要がある。
  (2) 上記認定事実によれば,被告は,令和3年5月頃,組合員である本件マンションの区分所有者に対し,前年と同様,通常総会の開催が非常に困難であるため今回は文書総会になる旨通知しており(この通知が区分所有者全員に到着したかどうかについては証拠上明らかでないが,この点を措くとしても),被告は,本件マンションの区分所有者に対し,書面による決議を実施することについての承諾を求めたのではなく,すでに決定されたこととして,書面による決議を実施することを通知したものということができる。
 また,上記認定事実によれば,議決権行使書を提出したのは本件マンションの区分所有者37名中32名にすぎず,書面による決議の実施につき事後的に区分所有者全員の承諾が得られたということもできない。これは,被告において,令和2年も書面による決議が実施され,それから令和3年5月まで,区分所有者から同決議に異議が出されたことがうかがわれないことを考慮しても同様である。
 そうすると,令和3年の通常総会を開催せずに書面による決議を実施することについて,少なくとも区分所有者全員の承諾があるということはできず,本件各決議には,書面による決議の実施につき区分所有者全員の承諾があることが必要であるのに,その承諾がないまま行われたという手続的瑕疵がある。
  (3) 本件各決議に係る上記瑕疵は,区分所有法45条1項に違反するものであり,同条項の趣旨に鑑みれば,区分所有者の討議の機会を奪うという重大なものである。本件マンションの区分所有者37名中32名から議決権行使書が提出されているが,これは,被告が同区分所有者に対して書面による決議の実施につき承諾を求めることなく,すでに決まったこととして,書面による決議を実施する旨通知した後に送付した議決権行使書に,区分所有者が記入して返送したものであるから,これをもって,上記瑕疵が治癒されたり軽微なものとなったりするということはできない。
 したがって,本件各決議に係る上記瑕疵は無効事由に当たるというべきである。
 なお,上記認定事実によれば,被告においては,外形的には令和2年及び令和3年に総会が開催されたこととされているが,区分所有法45条1項は,集会を開催することなく書面又は電磁的方法による決議をする場合について定めたものであり,また,上記総会については招集手続が履践されたものでもないから,上記総会は,実質的には開催されたものと認めることができない。

 3 結論
 よって,原告の請求のうち本件各決議が無効であることの確認を求めるものは理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
       令和4年2月28日     東京地方裁判所民事第4部
                              (裁判官 向井敬二)

マン管センターデータベースより、引用

私見:区分所有法第45条1項は、書面又は電磁的方法だけで決議をすることについて「全員の承諾」があるときは、「書面又は電磁的方法による決議をすることができる」ということで、決議自体は過半数(特別決議のときは3/4など)で決めると明記されている。つまり、この方法の「全員の承諾」というのは、書面で賛成・反対を決めようということについての「承諾」で、決議の結果、賛成になるか、反対になるかは問わない。この方法は、全員の承諾があれば、規約は不要。また、決議事項に制限はない。しかし、よく勘違いされるのが委任状や議決権行使書を使って実施する総会を書面決議と称して開催すると本件のようになってしまう。コロナ禍で私の顧問先でも委任状や議決権行使書を利用して総会決議に参加された区分所有者が多かったが書面決議ではなかった。