給水ポンプ室の騒音、誰の責任??
<事実の概要>Aは、Cから203号室を売買代金5160万円で購入。直後から給水ポンプの騒音に悩まされる。売り主Cは、施工業者Tに5回に及ぶ防音工事を実施させた。騒音は一時的に軽減されたが解消されない為、Aは、C及び販売代理を担当したDに対して、更なる防音工事を求めて、大阪地裁に民事調停を申し立てた。Aは、売買契約時の告知義務違反及び不十分な防音工事を理由として、Cに対して203号室の買い取り請求をしたが、Cが拒否した為、調停不成立となった。
<当事者の主張>Aは、Cに対して次の通り主張した。 ○騒音は、床・壁・天井を通して24時間継続し、生活上耐えられない。加圧給水ポンプの不快な騒音のために、家族の健康状態が悪化した。騒音測定会社Zの測定では、騒音レベルは最高43dbに達した。○加圧ポンプの消耗部品である密封玉受軸は、3年毎の交換が必要だが、管理組合Xの理事会決議が必要で、Aの意思は考慮されない。 ○給水ポンプ室の騒音は、空気伝播音・個体伝播音・放射音が併合して生じるため、真上に住戸を設けない配慮が必要である。敢えて設ける場合、スラブ厚さ(現状では、すべて185mm均一)や二重スラブ(現状では、非二重スラブ)、給水管の梁支持工法(現状では、床スラブに直接支持)等の対象が必要である。 ○Dに対して、給水ポンプ室の騒音量を尋ね、騒音のない住戸を希望する旨を動機として表示している。受水槽の存在は認識していたが、加圧給水ポンプの存在を認識していないので、錯誤がある。 ○加圧給水ポンプの騒音は、隠れた瑕疵であり、瑕疵担保責任による契約の解除が認められる。要素の錯誤又は詐欺による取り消しによって、契約は無効となる。瑕疵担保責任による契約の解除、錯誤無効又は詐欺による取り消しによる売買代金相当額の返還を請求する。 Cは、Aに対して次の通り、主張した。 〇203号室は、騒音等級及び騒音レベルともに、原審では、日本建築学会基準の「特級」と認定された。Aの主張するZの測定による43dbは、故意または重大な過失による時期に遅れた攻撃防御方法として却下される。○密封玉軸受を4年近く交換しなかったが、交換後に騒音レベルは30~32dbに低下し、騒音等級「1級以上」となった。これは、X又は管理業者Yの責任が問われるべきである。○Aは、売買契約締結時における重要事項説明書に対して何ら質問せず、設計図書を見ることはなかった。Aには、錯誤に陥ったことについて重大な過失があり、その無効を自ら主張することは出来ない。
<判旨:控訴審>要素の錯誤に当たるので、売買契約は無効である。 ○騒音は、通常の住環境を害するものであり、異常騒音の回避のためには3年を目安とする部品の交換が必要である。しかし、部品の交換は、管理組合の理事会の決議が必要で、Aのみの意思では交換できない。 ○Aの妻の騒音に対する質問に対して「昔はしましたが、今はしません。」とDが答えたが、Aが通常の静けさを享受できる住戸を購入したいという動機を表示したというべきである。203号室の騒音については法律行為の要素に錯誤があり、売買契約は錯誤によって無効である。 ○Aには、加圧給水ポンプの存在を知らなかったことや設計図書を閲覧しなかったことについて、重大な過失があったとはいえない。Cに対して、売買代金5160万円及び遅延損害金の支払いを命ずる。
H12/12/15 大阪高裁
出る出る受験判例160選より、引用
私見:本件は、買主AVS売主C・販売代理したDが当事者となっているが、裁判所が加圧給水ポンプの存在と騒音を要素の錯誤と認め、売買契約の無効と判断したのだからどうしようもないが私としては、仮に売主Cがここに住むことになっても騒音の問題が無くなる訳ではないので共用部を管理している管理組合Xを巻き込んだ解決方法はなかったものか気になるところである。もとより、加圧給水ポンプの利用で利益を受けているのは他の区分所有者であり、加圧給水ポンプを管理しているのは管理組合である。