こんな場合、個別の区分所有者でも未払い管理費等は請求できるよ!!
当事者
福岡市○○区○○○○4丁目5番15号914号室
原 告 X1
上訴訟代理人弁護士 X2
東京都○○区○○2丁目31番2号
被 告 株式会社Y1地所
上代表者代表取締役 Y2
主文
一 被告は、原告に対し、金819万9,989円及びこれに対する昭和63年4月27日から支払済みまで日歩4銭の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 本判決は仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、福岡市○○区○○○○4丁目5番15号A(以下「本件マンション」という)の区分所有者であり、同マンションの管理組合「B」(以下「本件マンション管理組合」という)の組合員である。
2 被告は、別紙管理費等滞納状況一覧表の「前所有者から被告への所有権移転時期」欄記載の日に、本件マンションのうち同表番号1ないし97の各区分所有権を取得し、昭和63年5月17日に訴外Cに上区分所有権全部を移転登記するまでの間、上管理組合の組合員であった。
3 本件マンション管理組合規約13条によれば、管理組合の組合員は、同組合に対し、毎月の管理費等(管理費及び1ないし3階の区分所有権に対する共益費)を前月26日までに支払うべき義務を負い、その遅延損害金は日歩4銭とする旨定められている。
したがつて、被告は、前記区分所有権を有していた期間内の管理費等を管理組合に支払うべき義務があるところ、その金額は、前記一覧表の「被告の未払管理費等」欄記載のとおり、総額819万9,989円となっている。
4 ところで、以下のような事情にある本件マンションにおいては、組合員たる原告が共用部分の保存行為として、被告から前記未払管理費等を取り立てる訴を提起することができると解すべきである。
(一) 本件マンション管理組合の役員構成
管理組合には、理事長、副理事長、専務理事(会計担当兼務)各1名、理事6名及び監事2名が置かれることになつており、昭和61年3月1日以降、理事長D、副理事長E、専務理事Fのほか、理事6名及び監事2名という構成であった(任期はいずれも1年間で昭和62年2月28日まで)。
(二) 本件マンションをめぐる近隣の状況
イ 昭和60年頃から、福岡市内の博多駅及び天神周辺において、関東・関西の不動産業者が中心となつて大がかりな土地の買占めが行われるようになつた。
ロ 本件マンションは、昭和48年7月19日築造され、総戸数131戸で、1階は店舗、2、3階は事務所として使用され、4階以上は住居として使用されているが、昭和61年11月頃から被告の従業員らが各戸を訪問してその買占めを始め、昭和62年6月29日現在、131戸のうち93戸が被告により買い占められるに至つた。
(三) 管理組合の形骸化
イ 被告による上買占めの動きに対し、Dは、昭和61年11月18日管理組合の理事会を開き、本件マンションを売却することについて協議をし、買上げ業者を被告とすることを決定し、更に、同月26日には管理組合理事長D名義で、「理事会において理事長を含め出席理事全員が被告に対し自己所有物件を売却することにしたので、組合員も全員被告に売却されたい」旨の文書を一方的に組合員に送付した。
ロ Dは、その後における組合の総会を誠実に運営せず、ただ上売却のための行動を続けるのみであったが、昭和62年6月5日以降、それまでいた管理人が不在となり、管理人室の前に「管理業務をGに移行した」旨の貼紙が掲出されるに至つた。
ハ かような一連の状況により、被告がDと結託して管理組合を私物化、形骸化していることは明らかであった。
(四) 管理費不足による住環境の悪化
イ 通常、マンションの管理業務は、(一)共有部分、付属施設及び敷地等の清掃・塵芥処理業務(二)共有部分、共用施設の保守・修繕業務(三)機材設備の運転・点検・調整及び保守業務(四)保安・防災・受付業務(五)火災保険その他損害保険の付保業務(六)会計業務(七)運営業務に大別される。本件マンションの場合、管理組合が、(一)についてはHに、(二)のうち電気設備の保守点検についてはIに、消防設備の保守点検についてはJに、(三)のエレベーター保守点検についてはKに、それぞれ委託して管理を行つてきた。また、日常業務については、DがL(監事)を管理人として雇用し、管理費等の徴収をはじめとした管理業務を行わせていた。
ロ しかし、Dは、管理費未納者が多く資金不足で管理運営業務が行えないとして、昭和62年4月20日付で上Hとの清掃委託業務を取り消してしまい、特にエレベーターや1階共用フロアには、タバコの吸殻等のごみが散乱したまま放置され、エレベーター内に小用のあとが残り、臭気がただようことが多くなつた。
ハ その後も管理費徴収が行われず資金不足が続いたため、M及びNに対する電気料金及び水道料金の滞納により、昭和63年1月19日電力の供給が、同月26日給水がいずれも停止された。その結果、本件マンションの共用部分の電気がつかず、エレベーター及び給水ポンプが停止して、事実上、上マンションにおいて基本的な生活を営むことが困難になつている。
(五) 管理者不在
イ したがって、現時点においては、管理組合としては早期に管理費等の未収金回収並びに月々の取立業務を精力的に行わなければならないのに、管理者たるDが本件マンションを被告に売却する推進派の中心人物であつたため、全くその職責を放棄している。特に、本件マンションのうち7割以上を取得した被告からの管理費の徴収は、マンションの管理運営に必須不可欠であるにも拘らず、その管理費等の請求も行わず、まさに管理者不在の状態である。
ロ これに対応するように、被告は、自らの管理費不払の意思を明確にし、本件マンションの管理機能を麻痺させて、入居者が同マンションで生活できない状態を作り上げ、全組合員に売却を決意させる手段に出てきた。
(六) 管理組合の機能停止と区分所有者の権限
イ 本件マンション管理組合規約によれば、総会の議事は組合員の過半数が出席して、その議決権の4分の3以上の多数決で決することになつている。
ロ ところで、昭和62年7月末時点における被告の議決権割合は全体の約70パーセント、同年末時点におけるそれは約74パーセントであるが、後者の場合において、被告と結託したDの有する議決権を合算すれば、約76パーセントとなつて全体の4分の3を超過する状況であり、昭和63年5月17日に被告から前記区分所有権全部の移転登記を受けた訴外Cも、被告と同一の立場を維持しているものと考えられる。
ハ かような状況の中で、仮に管理組合の総会を開くことができたとしても(理事長或いは議決権の4分の1以上の組合員の請求がなければ総会自体も開けない)、管理組合が被告に対して管理費等の支払を訴求することが議決されることは不可能である。その場合、区分所有者は自らのマンションにおける生活を犠牲にしてこれを傍観するしかないというのでは、いかにも不合理である。
ニ 本件マンション管理組合のように法人格のない組合においては、管理費等の徴収は管理者が行うことになっているが、本件では前記のとおり管理者たる理事長はその任務を放棄してしまっており、実質的には管理者不在の状態にあるから、かかる場合には、管理者の選任されていない場合と同様に、各区分所有者が組合のためにその徴収をすることができると解すべきである。
5 よつて、原告は、被告に対し、前記未払管理費総額819万9,989円及びこれに対する最終弁済期の翌日たる昭和63年4月27日から支払済みまで約定日歩4銭の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は不知。
2 同2のうち、被告が原告主張のとおり本件マンションの各区分所有権を取得したことは認めるが、管理組合の組合員になった事実は否認する。
3 同3のうち、前段の事実は不知、後段の事実は否認する。
4 同4(一)ないし(六)の事実は争う。
第三 証拠
本件記録中の書証及び証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
【理 由】
一 請求原因1の事実は、原告本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第1号証により、これを認めることができる。
二 請求原因2のうち、被告が原告主張のとおり本件マンションの各区分所有権を取得したことは当事者間に争いがなく、上甲第1号証によれば、被告は上所有権取得と同時に当然に本件マンション管理組合の組合員になつたものと認められる。
三 請求原因3の事実は、上甲第1号証、原告本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第2号証、第40号証の1ないし4並びに弁論の全趣旨を総合して、これを認めることができる。
四 ところで、上甲第1号証、証人Pの証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨並びにこれらにより成立を認める甲第5ないし第12号証、第14号証、第16ないし第26号証、第27号証の1、2、第28ないし第30号証、第32号証の1ないし5、第33ないし第37号証、第39号証を総合すれば、請求原因4の(一)ないし(六)の各事実が認められ、かかる事実に照らせば、原告は、本件マンションの区分所有者固有の権限に基づき、共用部分の保存行為として、被告に対し前記未払管理費を訴求することができると解するのが相当である。
五 よつて、原告の本件請求を全部正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民訴法89条、仮執行の宣言につき同法196条1項を適用して、主文のとおり判決する。
H1/1/17 福岡地方裁判所第3民事部
裁判官 谷 水 央
マン管センターデータベースより、引用
私見:事実から推察すると本件マンションは、管理組合が正常に機能しておらず健全な活動が出来る状態ではないように思える。関西、関東の地上げ業者が入ってきて買占めを行っているのであり、本件原告の提訴(正義の行為)には頭が下がる。「長いものには巻かれろ」で他の区分所有者のように売却してしまえばそれで終わりなのだがあえて苦難の道を選ばれたようだ。本件判決が下りても被告が素直に滞納管理費等を支払うとは限らず、また次のハードルが待ち構えているような気がする。新たな国の施策を期待する。