建て替え決議で示される費用はあくまで概算!!

その他,マンションの判例,管理組合関連

主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
処分行政庁が平成23年8月12日付けでしたA団地マンション建替組合設立認可処分を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,A団地の区分所有者であった原告らが,処分行政庁がしたA団地マンション建替組合設立認可処分(以下「本件処分」という。)は,これに先立ってA団地管理組合がした建替え決議(以下「本件建替え決議」という。)において,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)62条2項4号が決議事項として定める,建替えによって「新たに建築する建物(以下「再建建物」という。)の区分所有権の帰属に関する事項」として,一部の区分所有者の敷地利用権である借地権の価格が定められていないという瑕疵があり,建替組合設立認可処分の要件としてマンションの建替えの円滑化等に関する法律(平成23年法律第105号による改正前のもの。以下「円滑化法」
という。)12条1号が定める「申請手続が法令に違反するものでないという要件を満たしていないから違法であると主張し本件処分の取消しを求める事案である。
1 争いのない事実等(証拠により容易に認められる事実は末尾にその証拠を掲記した。)
(1) 原告Bは,本件建替え決議当時,A団地3号棟×号室の区分所有権を有していた者である。
(2) A団地の区分所有者の多数は,敷地利用権として,土地所有権を有していたが,株式会社D及びE株式会社ら(以下「Dら」という。)区分所有者の一部は,区分所有者の多数が敷地利用権として所有権を有する土地について敷地利用権として,借地権を有していたため,A団地の区分所有者は,建替
えに当たり,敷地利用権としての土地所有権と借地権との重畳的な混在を解消する意向を有していた(乙9,10の1ないし3,丙2,3,19ないし22)。
(3) A団地の区分所有者で構成するA団地管理組合は,平成22年12月19日,A団地について区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で本件建替え決議をした(甲8の6,7,乙10の1ないし3,丙19ないし21)。
本件建替え決議においては,「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」として以下のとおり定められていた(乙9,丙2,3)。
ア 区分所有権の帰属
本事業は,円滑化法に基づき,マンション建替組合が施行する事業を予定している。従って,建替え参加者は,円滑化法に基づく権利変換により再建建物の区分所有権及び敷地利用権を取得する。
イ 余剰床(保留床)の帰属建替え参加者が取得する住戸を除くその余の住戸は,全て,参加組合員
予定者が取得する。
ウ 清算の方法について
従前資産額と,再建建物の取得価額の差額については,専有部分の引渡しまでに,円滑化法の定めるところに従い,建替え参加者とマンション建替組合との間で清算する。
エ 住戸の選定
(ア) 各区分所有者は,自由に希望住戸の選択を行うことができる。
(イ) 希望住戸が重複した場合は,抽選等公正な方法により住戸選定をする。
(ウ) 上記(イ)の抽選の結果,希望にもれた区分所有者は,残住戸の中から,(ア)・(イ)の手続に準じて再住戸選定を行う。
(4) 被告は,A団地マンション建替組合設立認可申請者から,平成23年4月28日,円滑化法9条1項の規定によるA団地マンション建替組合設立認可申請書(以下「本件認可申請書」という。)を収受した(乙1)。
(5) 東京都知事は,世田谷区長から,平成23年5月25日,本件認可申請書の進達を受けた(乙2)。
(6) 東京都知事は,平成23年8月12日付けで,本件処分をした(乙3)。
(7) 平成23年法律第105号附則1条2号,68条1項,地方自治法281条2項,283条2項の規定により,本件処分は,平成24年4月1日以降,世田谷区長が行った認可とみなされた。
2 関係法令の定め
別紙関係法令の定めのとおり
3 争点
区分所有法62条2項4号が,建替え決議において定めなければならない事項として定める「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」に,A団地の区分所有者の一部が有する借地権の価格が含まれ,これが定められていない本件建替え決議に基づいてされたA団地マンション建替組合設立認可処分が違法になるというべきか否か。
4 争点に対する当事者の主張
(原告らの主張)
(1) 区分所有法62条2項4号は,建替え決議においては,「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」を定めなければならないと規定するところ,本件A団地マンションの区分所有者の中には,Dら敷地利用権が借地権である者がおり,それらの者がかなりの部分の敷地利用権を有しているのであってこれらの借地権の価格が確定して初めてこのような借地権者がどれだけの底地権を取得できるかが決まり,ひいては再建建物につき何戸の申込権を取得できるかが決まることになる。
そうすると,敷地利用権が借地権である者についての借地権の価格が確定しなければ,上記の「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」が定まらないことになるのであって,借地権の価格が定まっていないままされた本件建替え決議は区分所有法62条2項4号に反する違法なものである。
(2) そして,円滑化法12条は,都道府県知事は,同条各号のいずれにも該当すると認めるときは,その認可をしなければならないと定め,同条1号に「申請手続が法令に違反するものでないこと」と規定しているところ,上記のとおり,本件建替え決議は違法であり,これを前提としてされたA団地マ
ンション建替組合設立認可申請手続は法令に違反するから,都道府県知事は,これを認可することはできず本件処分は取り消されるべきものである。
(被告及び被告補助参加人の主張)
(1) 区分所有法62条2項4号の文言上も,解釈上も,建替え決議において,建替え前の建物の区分所有者が敷地利用権として有する借地権の価格が確定して定められていることは必要ない。
区分所有法62条2項4号が規定する「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」は,再建建物のどの専有部分を誰が取得することになるか,その場合の対価の清算をどうするかなどに関する事項であるところ,建替え決議の段階では,誰が実際に建替えの参加者となり再建建物の区分所有者になる
のかが確定しておらず,再建建物の区分所有権の帰属そのもの,すなわち再建建物のどの専有部分を誰が取得することになるかなどを具体的に確定することは論理的に不可能であるから,建替え決議においては,その決定の方法又は基準を定めれば足りると解されている。
そして,本件建替え決議においては,再建建物の各専有部分の帰属,その対価の清算について,その決定の仕方,基準が定められていたから,「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」が適法に定められていたと認めることができる。
(2) A団地の区分所有者の多数は,敷地利用権として,土地所有権を有していたが,Dら区分所有者の一部は,区分所有者の多数が敷地利用権として所有権を有する土地について,敷地利用権として,借地権を有していたため,A団地の区分所有者は,建替えに当たり,敷地利用権としての土地所有権と借
地権との重畳的な混在を解消する意向を有していた。これは,A団地の建替えに当たり,各専有部分に対応する敷地利用権の割合を変更するというものであり,敷地利用権の再配分を図ろうとするものということができる。そして,区分所有法62条2項4号は,建替え決議において,「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」を定めなければならないと規定するにとどまり,その文言上,「建物」のみを対象としており,「敷地利用権」は全く対象として規定していない。この点については,同法62条2項1号,2号及び3号が定める各決議事項も同様であって,同項各号が定めるいずれの決議事項も,その文言上,「建物」のみを対象としており,「敷地利用権」は全く対象として規定していない。
このように再建建物の敷地利用権の再配分に関する事項が決議事項として規定されなかったのは,敷地利用権の再配分を決議事項とするのが便宜であるが,法律的には,敷地利用権の再配分は建替えのため必要不可欠なこととはいえないため,多数決処理に親しまないという理由によるものと解されている。すなわち,建替え決議においては,敷地利用権の再配分の決議を要さず,また,建替え決議までに敷地利用権の再配分の決定の仕方,基準等を明らかにしなければならないということもないということである。したがって,敷地利用権の再配分の過程において把握されるにすぎない借地権の価格が建替え決議において確定して定められていなかったからといって,建替え決議が無効となるものではないことは明らかである。
また,建替え決議においては,「再建建物の区分所有権の帰属に関する項」としては,その決定の仕方又は基準を定めれば足り,原告らが主張する借地権者が再建建物について取得することができる戸数のような事項を具体的に定めることまでは求められていない。
よって,本件建替え決議は,区分所有法62条2項4号に違反せず,有効であるから,本件処分も,円滑化法12条1号に違反せず,適法である。
(3) 敷地利用権の評価額は,建替え決議における決議事項ではないが,敷地利用権の再配分が行われる場合には,敷地利用権の評価額が分からなければ,再建建物の専有部分取得についての各区分所有者の負担額を算定することが困難となり,建替えについての合意形成が難しくなる。そして,A団地の建
替えに関しては,借地権を消滅させて,再建建物の敷地利用権は全て所有権にすることを前提として計画され,建替え決議の議案書にもそのことが明記されているが,A団地管理組合ないし建替え決議集会招集者は,区分所有者に対し,建替え決議集会の招集の前から,従前資産額としての敷地利用権の評価額について,「借地権価額」とこれを控除した「所有権価額(底地権価額)」とに分けて,繰り返し,具体的に説明してきた。さらに,この評価額の具体的金額に関しては,A団地の建替え決議集会よりも前に開催された2度にわたる意見交換会においても重ねて説明された。
具体的には,本件建替え決議は,「借地権価額」が14億3078万1000円,「所有権価額(底地権価額)」が31億9211万9000円と評価されることを前提としてされたものであり,借地権の価格が定まらないままにされたようなものではない。よって,仮に借地権の価格が建替え決議の決議事項であるとしても,本件建替え決議においては,実質的にみて,これについても決議されたということができる。

第3 当裁判所の判断
1 区分所有法は,区分所有建物について老朽化,損傷等により建替えが必要になったにもかかわらず,区分所有者の1人でも反対するときは,建替えを実現することができなくなることを避けるため,区分所有者による建替え決議の制度を設け,区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数により建替えの決議がされた場合には建替えを実施できることとし(同法62条参照),これにより,建替えが必要とされる建物について円滑な建替えの実施と,建替えによって大きな影響を受ける区分所有者の権利利益の保護との調和を図っている。そうすると,区分所有建物の建替えを実施できるか否かは,建替え決議の成否にかかることになり,区分所有者の議決権の行使は区分所有建物の建替えにとって重要な意味を有するところ,区分所有者が,建替え決議の議決権の行使を行うに当たっては,建替えに関する重要な事項,すなわち再建建物の概要,現建物の取壊しや再建建物の建築に掛かる費用やその分担方法,現建物において有する区分所有権が再建建物でどのように扱われるのかなどについて定められていないとその議決権を適切に行使することはできない。そこで,区分所有法は,建替え決議において定めなければならない決議事項として,同法62条2項1号において,「再建建物の設計の概要」を,同項2号において,「建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額」を,同項3号において,
「建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の分担に関する事項」を,同項4号において,「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」を定め,これらの事項が明示されることによって,区分所有者の適切な議決権の行使を確保しようとした。そして,同項4号にいう「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」は,現建物における区分所有権が,再建建物における区分所有権としてどのような扱いを受けることになるのかという,区分所有権者が議決権を行使するに当たって重大な関心を持つ事項について,これを決議事項として明示しておくことを必要としたものと解される。このように区分所有法62条2項各号に定める決議事項は,区分所有建物の建替えに重大な意味を持つ建替え決議が適切に行われることを確保するためのものであることからすれば,上記各事項ができる限り具体的に定められていることが望ましい。
2 しかしながら,実際には,建替え決議が行われてから現実の取壊しや再建建物の建築までの間に相当程度の時間が掛かり,その間に種々の費用の変動なども予想されるところであり,また,建替え決議に賛成しなかった者が建替えに参加するかどうかなどの諸手続を経て,現実の建替え参加者が決まる仕組みになっている(区分所有法63条1項ないし4項,64条参照)ことなどから,建替え決議の段階で,決議事項の内容の詳細を具体的に定めることは不可能であると言わざるを得ない。このことは,同法62条2項各号が,「設計の概要」(1号)あるいは「費用の概算額」(2号)というように定めていることからも明らかである。
そして,区分所有法62条2項4号にいう「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」についても,できる限り具体的に定められていることが望ましいが,上記のとおり,区分所有法においては,建替え決議の後に,一定の手続を経て,現実の建替え参加者が定まる仕組みになっていることから,建替え決議において,再建建物のどの専有部分を誰が取得するか,あるいはその場合の清算価格がいくらになるかなどについて具体的に定めることは不可能である。そこで,同号の「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」という決議事項については,現建物の区分所有権が再建建物においていかなる扱いを受けるのか,すなわち,現建物の区分所有者が,どのようにして再建建物の区分所有権を取得することになり,また,清算額が定まることになるのか等についての基準ないしルールが定められていることが必要であり,かつ,それをもって足りると解すべきである。
3 そして,区分所有法には,区分所有建物の建替え決議において,敷地利用権として,一部は土地所有権,一部は借地権と混在している。このような場合,現建物の敷地利用権としての所有権及び借地権が,再建建物の敷地利用権あるいは区分所有権にどのように反映されるのかが不明確であると,現建物の敷地利用権が所有権である者と借地権である者のそれぞれにおいて,現建物における区分所有者としての権利が,再建建物においてどのような扱いを受けることになるか分からず,適切な議決権の行使ができない可能性が生じ,区分所有法62条2項4号が「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」を決議事項とした趣旨に反する事態が生じかねない。
⑴ そこで本件について検討するに,前記争いのない事実等(第2の1(2))及び証拠(甲8の1ないし4,6,7,乙9,10の1ないし3,乙21,丙2,3,6,7の1,2,丙8ないし11,19ないし23,30)によれば,A団地管理組合は,建替えを機に敷地利用権を一本化したいという区分所有者らの意向に応え,建替え決議集会の招集の前から説明会を開催し,平成22年8月下旬に開催された建替え計画説明会においては,敷地利用権について借地権の価格が14億9700万円,所有権の価格が33億1800万円とする各評価に基づいて作成された再建建物の各専有部分の概算価格表を配布して説明がされたこと,現建物の借地権を消滅させる方法については,本件建替え決議の議案書の「建替え決議賛成者間の合意事項」において,建替え決議に賛成した借地権者は,借地権を土地持分権者に譲渡し,土地持分権者はその有する土地共有持分の一部を借地権者等に譲渡するという等価交換方式で行い,等価交換の割合は,借地権の価格と所有権の価格の割合によることが記載されていたこと,そして,その借地権の価格と所有権の価格の割合は,建替え決議集会の前の同年11月に開催された意見交換会において,建替え決議集会招集者から区分所有者に対し,借地権価格が14億3078万1000円,所有権価格31億9211万9000円という各評価額を前提とする旨の説明がされたことがそれぞれ認められる。
そうすると,本件建替え決議より前に,現建物の敷地利用権としての所有権及び借地権が,それぞれ建替え後の再建建物においていかなる取扱いがされるかについて,区分所有者に対して,具体的な評価額を示した上で,その評価額の割合に応じた等価交換という手法で行うことが示されていたのであって,現建物の敷地利用権が所有権である者と借地権である者のそれぞれが,再建建物においてどのような扱いを受けることになるかを了解することが可能であり,適切な議決権の行使ができる状況であったと認められるから,本件においては,区分所有法62条2項4号が「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」を決議事項とした趣旨に反する事態は生じてはいなかったと認められる。
⑵ 原告らは,本件建替え決議がされるまでの事前説明会において,敷地利用権の評価額について明確な説明がされなかったなどと主張し,これに沿う証拠として,説明会等の議事録(甲8の1ないし9,甲15)や,原告らの陳述書等(甲9,11,14,16),A団地管理組合理事長宛に提出された質問状等(甲12,13)を提出するが,これらの証拠にも,借地権の価格等が記載されており,証拠(甲8の1ないし4,丙7の2,丙8,9)によれば,本件建替え決議までの間に,原告らに対しても,A団地管理組合ないし建替え決議集会招集者から,本件建替え決議において前提とする敷地利用権の評価額である借地権の価格及び所有権の価格について説明がされていたことが認められ,説明が不十分であったとする原告らの主張に与することはできない。
6 以上によれば,本件建替え決議は,区分所有法62条2項4号に違反せず,有効であり,本件処分も,円滑化法12条1号に違反するものではないし,そのほか本件処分が違法であることをうかがわせる事実はないから,本件処分は適法であるというべきである。

7 よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
                 平成24年9月25日  東京地方裁判所民事第38部
COURTS IN JAPANより

私見:本件の裁判所の見解のように建て替え決議で示される予算は、具体的な手続きが進まないと明確にならない予算もある。精度の高い予算を示す努力をしているのであろうが解体費用や設計費用、建築コスト等の数字にはある程度幅を持った予算であることを示す必要がある。因みに概算とはマイナス15%からプラス150%の範囲であるという考え方もある。