玄関のオートロック工事、待ったは有り?
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の工作物を撤去せよ。
3 被控訴人は、控訴人に対し、平成13年4月1日から前項の工作物撤去の日に至るまで1か月金8万7,000円の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、控訴人が専有部分の一室を所有するマンションにおいて、管理組合である被控訴人が総会決議に基づきマンションの出入口にオートロック式の開閉ドアを設置したところ、控訴人が、その設置は控訴人の専有部分の使用に特別の影響を及ぼすものであるにもかかわらず、管理規約所定の承諾を得ずになされたものであり、そのため専有部分を店舗として使用ないし賃貸に供することができなくなったと主張して、専有部分の所有権に基づき、オートロック式ドアの撤去を求めるとともに、不法行為ないし管理規約不履行に基づく損害賠償請求として、オートロック式ドアの設置された後である平成13年4月1日から上記撤去の日に至るまで月額8万7,000円の割合による賃料相当損害金の支払いを求めた事案である。
当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決2枚目14行目の末尾に「なお、本件マンションの専有部分は、住居専有部分と店舗及び事務所専有部分とに区分されて、それぞれに使用制限を受けるところ(本件規約11条、12条)、本件物件は店舗及び事務所専有部分に属する。」を加える。
2 原判決3枚目7行目の末尾に「また、控訴人は、自己の所有する本件物件に自由に立ち入ることができない状況にある。」を加える。
3 原判決3枚目12行目の次に行を改め、次のとおり加入する。
「 なお、原判決別紙図面の1階エレベータードアと並行にオートロックを設置し、オートロックドアの幅を本件物件の入口直前まで取り、エレベーター側の開錠を内部からのボタン式にする等の方策を講じれば、本件物件に直接出入りすることができるような態様でオートロックを設置することは、物理的に十分可能である。
したがって、以上を考え合わせると、本件オートロックの設置が本件物件の使用に特別の影響を及ぼすものであることは明らかである。」
4 原判決3枚目24行目の「所有」を「使用」と改める。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件オートロックの設置は、本件物件の使用に特別の影響を及ぼすものとはいえず、控訴人の本件物件の所有権を侵害するものでも、不法行為若しくは本件規約違反に該当するものでもないと判断する。
その理由は、事実関係の認定については、次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の1項に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決6枚目2行目の「3、5ないし7」を「3ないし7」と、同4行目の「原告代表者」を「控訴人代表者A(以下、単に「控訴人代表者」という。)」とそれぞれ改める。
(2) 原判決6枚目7行目の「原告が取得し」を「控訴人代表者が取得し」と改め、同8行目の「原告に」の前に「控訴人が平成3年12月に設立されて本件物件の譲渡を受けてからは、」を加える。
(3) 原判決6枚目13行目及び同20行目の各「原告」を「控訴人代表者」とそれぞれ改める。
(4) 原判決7枚目2行目の「郵便」から同4行目末尾までを削除し、これに代えて次のとおり加入し訂正する。
「子機を付設すべき場所について連絡があれば、これを預かっている被控訴人において、速やかに設置することができるよう準備している。また、空室状態が続いている本件物件の郵便受けから、投げ込まれるチラシ等を抜き取って破棄散乱させるといういたずらが頻繁に起こったので、被控訴人は、本件オートロックの導入に伴って集合郵便受けを設置するに当たり、一戸分ごとに後付けのできるものを選定したので、本件物件の入居者が決まれば直ちに郵便受けを設置する用意がある。」
(5) 原判決7枚目25行目の「開催通知には、」の次に「本件オートロックの設置場所に関する説明として、」を加える。
(6) 原判決8枚目1行目の「なされていた」の次に「が、図面等が添付されていたわけではなく、本件オートロックの設置場所が通知を受けた者にとって視覚的に明瞭であるとはいえなかった」を加え、同4行目の「原告はファックスにより」を「控訴人代表者は、開催通知により送付された議案の内容について全く検討することもなく、ファックスにより、本件総会における議決権を行使することを委任する旨が予め印刷文字で記載された」と改める。
(7) 原判決8枚目11行目の「ものである」を「ものであり、操作盤に打ち込む暗証番号は、管理委託会社であるB株式会社に連絡すれば、区分所有者であれば教えてもらうことができる」と改める。
(8) 原判決8枚目17行目から19行目までを削除し、これに代えて次のとおり加入し訂正する。
「(6) なお、控訴人は、原判決別紙図面の1階エレベータードアと並行に本件物件の入口直前の箇所にオートロックを設置すれば、外部道路から本件物件に直接出入りすることができるとして、そのような設置方法を提案するが、その場合、エレベータードアとオートロックドアとの間隔が1メートル程度しかなく、荷物の積み卸しやエレベーターの乗降に不便を来すことが予想されるほか、通常0.7メートルから1メートル程の感知距離を持つ開閉用センサーを取り付けると、これにオートロックドアの内側にいる人間等が反応して、始終オートロックドアが開閉を繰り返すことにもなりかねないため、センサーを取り付けることもできず、控訴人の提案する設置方法には実際上大きな不都合がある。」
2 以上の認定に照らし、本件について判断する。
(1) 被控訴人は、本件オートロックの設置について控訴人の承諾があったと主張するが、上記認定に鑑みると、控訴人代表者から本件総会における議決権の行使に関して白紙委任状が提出されているとはいえ、控訴人代表者は、本件オートロックの設置を含む議案の内容について全く検討することなく委任状を送付したものであり、しかも、総会における議決権の行使に関して白紙委任状を提出したからといって、当然に議案の内容について賛成の意思を表明したことにはならないのであって、本件オートロックの設置について控訴人の承諾があったとまではみることができない。他に控訴人の承諾の存在を認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件においては、本件総会の決議により本件オートロックが設置されることになったところ、本件オートロックの設置が控訴人の本件物件の使用に「特別の影響」を及ぼすものといえるか否か、即ち本件規約18条3項所定の控訴人の個別の承諾が必要とされる場合であるか否かが問題となる。
(2) 本件規約18条3項は、共用部分の処分又は変更を行う場合、これにより専有部分の使用に特別の影響を及ぼすときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならないと規定しており、これは同様の事項について定めた建物の区分所有等に関する法律17条2項と同趣旨の規定である。この場合の「専有部分の使用に特別の影響を及ぼすとき」とは、共用部分の変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解するべきである。すなわち、共用部分の変更が、一部の区分所有者の専有部分の使用に影響を及ぼすことは、種々の場合にあり得ることであって、そうした一部の者の被る不利益に配慮することは必要なことではあるが、そうした場合をすべて同条項にいう特別の影響を及ぼす場合とみて、その区分所有者の個別の承諾を得なければならないものと解するときは、区分所有者全体の共同利益となる共用部分の変更等が円滑にできない結果となり、その変更の必要性、合理性からみて、不都合な結果が生ずることがありうるから、上記のような利益衡量の結果、一部の専有部分所有者の被る不利益が受忍すべき限度を超えると認められる場合にのみ、特別の影響が及ぶものとして、その専有部分所有者の個別の承諾を要するものと解されるのである。
そこで、前記認定によれば、本件マンションはこれまで外部から自由に立ち入ることのできる構造であったため、エレベーター内における放尿、ガラス扉の損壊、不審火による火災、ピッキングによる盗難事件等の被害が相次ぎ、防犯防災のためにオートロックを設置してほしい旨の要望が、数年前より居住者から出されていたのであり、本件オートロックの設置場所も常識に適った箇所といえるものである。これに対し、本件物件を店舗等として賃貸することを予定していた控訴人としては、本件オートロックの設置により、外部から本件物件に自由に立ち入ることができなくなったため、賃借人を捜すことに困難を来すことは避けられないから、その不利益自体が軽微であるとはいいがたいが、本件物件は本件オートロックの設置が決定されるまで約2年半にもわたって空室の状態が続いており、控訴人は、本件総会の直前のころにその管理をC産業に委ね、入居者の募集を始めたものの、それまでは空室にしたまま内部の管理を放置していたのであり、しかも、このように空室状態が継続したのは、長い通路の奥に位置するという本件物件の配置上の制約によると推認されるのであって、本件物件を通りがけの客が自由に出入りする店舗として使用することはもともと無理があるとみられるのである。加えて、現在は本件物件が空室であるため、本件オートロックを解錠するための子機はもとより、郵便受けも設置されていないが、入居者が決まって子機の設置場所が指定されれば、被控訴人において速やかに子機や郵便受けを設置する用意があること、外部から本件オートロックを解錠するために必要な操作盤に打ち込むべき暗証番号は、管理委託会社に問い合わせることにより容易に入手することができることを考え合わせると、本件オートロックの設置により控訴人が受ける不利益は、これまでオートロック等の設備がなかったことにより本件マンションの入居者が被った様々な被害や迷惑行為に照らしての同設備の必要性、設置場所の合理性や本件物件の従前の利用状況など区分所有関係を巡る諸事情からみて、区分所有者の受忍すべき限度を超えるものとは認められないというべきである。
したがって、本件オートロックの設置について、控訴人の本件物件の使用に特別の影響を及ぼすものとはいえず、本件規約18条3項所定の控訴人の承諾は不要である。
(3) 以上の次第であるから、被控訴人による本件オートロックの設置が、控訴人の本件物件の所有権を侵害するものとはいえないし、不法行為ないし管理規約不履行にも該当しないことは明らかである。
第4 結論
よって、控訴人の本件請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は正当であって、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとする。
2003/06/17 福岡高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官 小林克已
裁判官 内藤正之
裁判官 白石史子
マン管センターデータベースより、抜粋
私見:「共用部分の変更が、一部の区分所有者の専有部分の使用に影響を及ぼすことは、種々の場合にあり得ることであって、そうした一部の者の被る不利益に配慮することは必要なことではあるが、そうした場合をすべて同条項にいう特別の影響を及ぼす場合とみて、その区分所有者の個別の承諾を得なければならないものと解するときは、区分所有者全体の共同利益となる共用部分の変更等が円滑にできない結果となり、その変更の必要性、合理性からみて、不都合な結果が生ずることがありうるから、上記のような利益衡量の結果、一部の専有部分所有者の被る不利益が受忍すべき限度を超えると認められる場合にのみ、特別の影響が及ぶものとして、その専有部分所有者の個別の承諾を要するものと解されるのである。」ここに本件判決のエッセンスがあるように思える。
控訴人の抱えた特殊な事情(場所が廊下の奥で店舗としては恵まれた立地ではない)も考慮された上での判決だが共同の利益を考えるとやむを得ないだろう。