専用使用権、分譲時は無料、その後の有償化決議は有効!?
建物の区分所有等に関する法律第31条第1項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす時」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍限度すべき限度を超えるとみとめられる場合をいうものと解される。そして、直接に規約の設定、変更等による場合だけでなく、規約の定めに基づき、集会決議をもって専用使用権を消滅させ、又はこれを有償化した場合においても、同法第31条第1項後段の規定を類推適用して区分所有者の利害の調整を図るのが相当である。本件においては、専用使用権に関する新規約第14条が設定された後、その定めに基づき、集会決議をもって被上告人の専用使用権を消滅させ、又はこれを有償化したものであるところ、右新規約の定め自体はまだ被上告人に現実的、具体的な不利益を及ぼすものでないから、右の「特別の影響」の有無は、消滅決議及び有償化決議について見るべきものである。まず、消滅決議について、上告人は、南西側駐車場の専用使用権を消滅させることは、区分所有者全体にとって、管理用自動車、緊急自動車の駐車場を設置し、また、全員のための自転車置き場を設置するという高度の必要性があると主張している。しかしながら、本件区分所有関係についての前記諸事情、殊に、①被上告人は、分譲当初から、本件マンションの1階店舗部分においてサウナ、理髪店等を営業しており、来客用及び自家用の為、南側駐車場及び南西側駐車場の専用使用権を取得したものであること、②南西側駐車場の専用使用権が消滅させられた場合、南側駐車場だけでは被上告人が営業活動を継続するのに支障を生ずる可能性がないとは言えないこと、③一方、被上告人以外の区分所有者は、駐車場及び自転車置き場がないことを前提として本件マンションを購入したものであることを考慮すると、被上告人が南西側駐車場の専用使用権を消滅させられることにより受ける不利益は、その受忍限度を超えるものと認めるべきである。したがって、消滅決議は被上告人の専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものであって被上告人の承諾のないままにされた消滅決議は、その効力を有しない。消滅決議を無効とした原審の判断は、結論において是認することができる。
次に、有償化決議については、従来無償とされてきた専用使用権を有償化し、専用使用権に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、且つ、設定された使用料が当該区分所有関係においては社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。また、設定された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることが出来る時は、特段の事情が無い限り、その限度で、有償化決議は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくても有効なものであると解するのが相当である。
H10/11/20 最高裁判決 ダイエックス出版「マンションのトラブル解決法」より引用
私見:本件は、衡平の原理を主軸として2つの見解が出された。一つは、被上告人が南西側駐車場の専用使用権を消滅させられることにより受ける不利益は、その受忍限度を超えるものと認めるべきである。したがって、消滅決議は被上告人の専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものであって被上告人の承諾のないままにされた消滅決議は、その効力を有しない、とした点、もう一つは、従来無償とされてきた専用使用権を有償化し、専用使用権に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、且つ、設定された使用料が当該区分所有関係においては社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである、とした点である。専用使用権については被上告人に有利に、有償化については上告人に有利にそれぞれ花を持たせることでバランスを取ったのではないかと思う。